『ウルヴァリン: SAMURAI』
The Wolverine
公開:2013年 時間:126分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ジェームズ・マンゴールド
キャスト
ローガン/ ウルヴァリン:
ヒュー・ジャックマン
矢志田真理子: TAO
雪緒: 福島リラ
矢志田信玄: 真田広之
Dr. グリーン/ ヴァイパー:
スヴェトラーナ・コドチェンコワ
森信郎: ブライアン・ティー
矢志田市朗: ハル・ヤマノウチ
(青年期) 山村憲之介
原田剣一郎: ウィル・ユン・リー
ジーン・グレイ: ファムケ・ヤンセン
チャールズ: パトリック・スチュワート
エリック: イアン・マッケラン
勝手に評点:
(悪くはないけど)
あらすじ
カナダで隠遁生活を送っていたウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)は、ある因縁で結ばれた大物実業家・矢志田(ハル・ヤマノウチ)に請われて日本を訪れる。
しかし、重病を患っていた矢志田はほどなくして死去。ウルヴァリンは矢志田の孫娘・真理子(TAO)と恋に落ちるが、何者かの陰謀により不死身の治癒能力を失うというかつてない状況に追い込まれる。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
長崎の借りを江戸で返す
X-MENの人気選手、ウルヴァリンのスピンオフ第二弾。今回はSAMURAIというだけあって、舞台が日本という点はワクワクもの。ジェームズ・ボンドが日本にやってきて活躍する『007は二度死ぬ』をつい思い出してしまったほど。
だが、公開当時に観た時には、ちょっと違うんだよな、という失望感を感じずにはいられなかった本作。人気シリーズゆえの宿命か。
◇
冒頭は、第二次大戦の真っ只中の長崎。捕虜として監禁されていたローガン(ヒュー・ジャックマン)。
空襲から彼を救おうとした若い兵士。その後に原爆が投下され、ローガンは身を挺して彼を救う。兵士の名は矢志田市朗(山村憲之介)。
時は流れ、矢志田(ハル・ヤマノウチ)は大企業グループの総裁となっていたが、高齢で癌に冒されていた。死ぬ前にローガンに礼を言いたいと、矢志田は部下の雪緒(福島リラ)を使い、彼を来日させ、病床に呼び寄せる。
飛行機嫌いのローガンを日本に連れてこなければいけないのだから、このあたりの展開が強引なのは仕方ない。
ただこの老人が、長崎で助けてもらったお礼に、不老不死の生き地獄に苦しむローガンを解放してあげよう、とのたまうのは意味不明だ。
老人はローガンの回復能力を移植することができ、死を与えてあげようと言う。それじゃ、言っていることは、いつものヴィランたちと変わらない。
真田広之の登場は嬉しいが
本作の東京の描き方は『007は二度死ぬ』の頃から大きく変わらない。大きなお屋敷に日本式の庭園、女性は着物姿でデフォルメされた日本人生活感。それはまあいい。
違和感があるのは、矢志田の息子・信玄を真田広之が演じていることだ。無論、マーベル作品の大きな役を彼が演じているのは嬉しいし誇らしい。
◇
ただ、この信玄は父とは確執があり、老人が実権を孫娘の真理子(TAO)に相続しようとしているため、父子関係も険悪。剣の腕は滅法立つがあまり好人物としては描かれていない。これが悔しい。
その後の『アベンジャーズ エンドゲーム』 で、本筋とは無関係の役で派手なアクションを見せたときよりも悔しい。
この憂さは、近年、同じように日本を舞台にしたアクション『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でようやく晴らされたが、やはり真田広之は強いだけでなく、正義の人でいてほしいのだ。
◇
さて、矢志田老人はローガンに、孫娘の真理子を守ってくれと言い残し、息絶える。さっさと帰国する気だったローガンだが、盛大な葬儀の中で偽装した僧侶たちに誘拐されそうになった真理子をつい助けてしまう。
このバトルアクションはいかにもマーベル映画らしい派手さと興奮に満ちている。
葬儀会場は東京タワー至近の増上寺。そこから真理子を連れて逃げたローガンが、次には高田馬場の駅前にいて、さらには上野駅前のデッキの上にいる。この移動経路の謎はご愛嬌。
ローガンを追うのはヤクザ軍団、味方は剣の使い手の雪緒。そして怪しい動きをするのが、矢志田老人の主治医で、蛇女と思しきDr. グリーン(スヴェトラーナ・コドチェンコワ)、忍者のように屋根から矢を放つ原田剣一郎(ウィル・ユン・リー)。
◇
新幹線に乗って長崎に逃げるローガンと真理子。追っ手との格闘は高速移動中の車両の屋根で行われ、障害物を避けながらのバトルはなかなかの迫力。
ジェームズ・マンゴールド監督は、この手のSFヒーローものを手掛けるのは珍しいが、『アイデンティティ』から『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』まで、何でも卒なくこなす映画人。本作のアクションシーンも、ツボを押さえていた。
アダマンチウムの無駄遣い
では本作でどこがイマイチだったかというと、泣く子も黙る最強金属アダマンチウムをかき集めて、巨大ロボットを作ってしまった点だと思う。
これまで、鉄爪がアダマンチウムなだけで、あれだけ破壊力のあったウルヴァリンだ。全身がアダマンチウムの破壊兵器ロボがいたら、勝てる気がしない。
手塚治虫のマンガを思わせるロボット造形も、ミュータントが戦う前提のX-MENの世界観に馴染まない気がした。これは、同じマーベル作品の『マイティ・ソー』で、ソーがロボットと対決した時にも感じた違和感だ。
また、本作には回復能力を奪われたローガンが、雪緒が殺されそうになるギリギリのところで力を回復し、形勢逆転する『ポパイ』のようなシーンがある。最も盛り上がりそうな場面なのに、敵が強すぎるために、全然スカッとしない。
そもそも、このアダマンチウムのロボットの中には、なんと死んだはずの矢志田老人が入っている。ローガンの不死の力を熱望し、長い年月、彼の能力を奪ってしまおうと待ち構えていたという、何とも恩知らずな話だったのだ。
何だよ、それじゃ老人のアダマンチウム集めに難色を示していた信玄(真田広之)は、実はいいヤツだったってこと? 土壇場でひっくり返されると、感情移入する相手が見つからない。
◇
スピンオフの前作『ウルヴァリン X-MEN ZERO』は、ローガンがどう生まれ育ち、なぜ体内にアダマンチウムが埋め込まれ、なぜ記憶がないか、それを教えてくれる意味でも、重要な作品だった。
本作は、『X-MEN:ファイナル ディシジョン』で愛するジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)を殺さねばならなかった罪悪感と後悔を描いてはいるが、本筋のストーリーとの関係は希薄だ。
それに、真理子と男女の仲になってしまうのも、罪の意識と逆行しているようで居心地が悪い。