『私の少女』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『私の少女』今更レビュー|あしたの少女になる前に

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『私の少女』
도희야 A Girl at My Door

チョン・ジュリ監督のデビュー作。ワケありで地方の派出所長に赴任する警察官にぺ・ドゥナ、義父に虐待されている少女にキム・セロン。世代を超えた実力派女優のケミストリー。

公開:2014 年  時間:119分  
製作国:韓国

スタッフ 
監督:        チョン・ジュリ
製作総指揮:     イ・チャンドン


キャスト
イ・ヨンナム:      ペ・ドゥナ
ソン・ドヒ:      キム・セロン
ソン・ヨンハ(義父):ソン・セビョク
チョムスン(祖母):  キム・ジング
オム班長:     ソン・ジョンハク
キム巡査:      ナ・ジョンミン
クォン・スノ義警:   コン・ミョン
ウンジョン(元カノ):チャン・ヒジン
先輩刑事:      キム・ミンジェ

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

(C)2014 MovieCOLLAGE and PINEHOUSE FILM, ALL RIGHTS RESERVED

あらすじ

とある港町の派出所へ左遷された、ソウルのエリート警察官ヨンナム(ペ・ドゥナ)は、母親が蒸発して父親と義理の祖母に虐待されている少女ドヒ(キム・セロン)と出会う。

ドヒを救おうと奔走するヨンナムだったが、自身のある過去が明らかにされ、窮地に陥ってしまう。そんなヨンナムを救おうと、ドヒはある決断をする。

今更レビュー(ほぼネタバレなし)

チョン・ジュリ監督のデビュー作であり、新人監督ながら本作でカンヌ映画祭の出品を果たす。

先日、監督の実に10年ぶりとなる長編第二作『あしたの少女』を観たばかりだが、どちらもペ・ドゥナ主人公の警察官役を演じ、しかも少女との関わりを描いた作品ということで、本作にも手を伸ばしてみた。

『私の少女』から『あしたの少女』と、さも続編のような邦題だが、内容的にはまったくの別物だ。ただ、姉妹編のような共通点はある。

本作でペ・ドゥナ演じる主人公イ・ヨンナムは、ソウル警察のエリートだったが、とある不祥事で地方への辞令を受け、寂れた港町の派出所長として赴任してくる。

そこで出会うのが、中学生の少女ドヒ(キム・セロン)。少女は母の蒸発後、義父のソン・ヨンハ(ソン・セビョク)と祖母(キム・ジング)からの激しい虐待を受けながら、暮らしていた。

(C)2014 MovieCOLLAGE and PINEHOUSE FILM, ALL RIGHTS RESERVED

『あしたの少女』は、ペ・ドゥナが演じる正義感に溢れるゆえに周囲から浮いている敏腕刑事が、ブラック企業に就職し心を病んでいく少女ソヒのために腐敗した社会に立ち向かう話だ。

少女の年齢は3~4歳異なるが、名前はドヒソヒなのでどこか繋がりを感じるし、何より男性社会で孤立しながら職務に精を出す女性警官という主人公の設定も似ている。

派出所長のヨンナムと少女ドヒが、次第に心を寄せ合うようになるまでの過程の描き方がよい。

まずはヨンナムの人物描写。ソウルから飲料水のペットボトルを大量に新居に運び込み、しきりに水を飲む。

どんなキャラなのかと不思議に思っていると、水は数日で枯渇し、深夜スーパーでボトルを大量に買い占めては、駐車場で空になったペットに詰め替えている。

ここは何の説明もないが、ヨンナムはアルコール依存症なのだろう。職場でも飲めるように、ペットボトルに詰め替えて飲料水に偽装する。警察署内で問題になった過去の出来事が、彼女を酒浸りにさせてしまったようだ。

(C)2014 MovieCOLLAGE and PINEHOUSE FILM, ALL RIGHTS RESERVED

ヨンナムは飲んでも取り乱さないが、町でただ一人の若い男だという義父のヨンハは、泥酔してはドヒに殴る蹴るを繰り返す。

義父にも祖母にも虐待され、中学でもいじめられ、地獄のような日々を送るドヒにヨンナムは警察官として救いの手を差し伸べる。

ある晩、逃げるドヒをオートバイで追う祖母が事故で海に落ちて死ぬ。その日から義父の虐待はエスカレートし、ついにヨンナムは、ドヒをヨンハから引き離し、ひと夏預かることにする。

過酷な日々に傷ついた者同士ということで共感できるのか、ドヒはすぐにヨンナムに懐き、彼女に心を開いていく。

これまでつらい表情しかみせなかったドヒが、韓国アイドルの歌やダンスを完コピしたり、モノマネしてみたり、すっかり打ち解けて笑顔を見せる。

このシーンもよいが、その前にヨンナムが偶然目にした、海岸の防波堤でひとりダンスするドヒの姿も美しい。

この二人が、互いに支え合う関係になるのだな、きっと。魂のつがいか。

最近、そんな映画あったぞ、と思い出したのは『52ヘルツのくじらたち』だ。DVで虐待された少年を強引に引き取って暮らし始める、自分も過去に苦しみを抱えた女性に杉咲花

さすがに少年相手だから、本作のように一緒にお風呂に入ったりはしないけれど、暴力親から強奪して一緒に暮らし始めるあたりは、本作とよく似ている。

『52ヘルツのくじらたち』では、何の権利もない赤の他人の杉咲花が勝手に少年と暮らすことで法的な問題が生じたが、本作ではさらに話がこじれる。

ヨンナムは派出所長とはいえ、親から強引に子どもを奪い取って一緒に暮らすほどの権限はない。それが問題になるのならまだしも、彼女は性的虐待の容疑で緊急逮捕されてしまう

伏線はある。ヨンナムのもとにある日突然、ある女性が訪ねてくる。かつての恋人ウンジョン(チャン・ヒジン)だ。

ヨンナムは同性愛者だった。当時の警察組織ではそれを受容するほどの理解はなく、彼女はほとぼりが冷めるまで、地方勤務を命じられたわけだ。

そして、運の悪いことに、ヨンナムを目の敵にしている、ドヒの義父ヨンハが、この二人を目撃し、関係に気づいてしまう。その結果が、ドヒの肉親の告発による未成年の性的虐待容疑の緊急逮捕なのである。

さんざん、暴力的な父親で悪人として描かれてきた義父が、ここにきて鮮やかな逆転劇で宿敵のヨンナムを留置所に放り込むことに成功する。義父を演じるソン・セビョクの怪演が光る。

ヨンナムがドヒと一緒に暮らし、親切にしてきたのは、少女を保護するためであり、そこに性的関心などありはしないが、警察の男たちはそれを信じない。

更に、ドヒがヨンナムのためにと思って警察に語る内容で、逆にヨンナムは窮地に立たされていく。

冒頭から感情を押し殺しヨンナムになりきって演技するペ・ドゥナがいい。

本作公開の2014年は『クラウド・アトラス』『ジュピター』といったハリウッド映画にも出演し始めた時期だが、脚本に惚れこんだペ・ドゥナは、新人監督の映画にノーギャラで参加したとか。たしかに、ヨンナム役は彼女しか想像できないほどの説得力。

ペ・ドゥナチョン・ジュリ監督の二作以外に、是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』でも猪突猛進型の女刑事を演じているが、この作品にも孤児院の院長役で、ドヒの義父役のソン・セビョクが出演していた。

(C)2014 MovieCOLLAGE and PINEHOUSE FILM, ALL RIGHTS RESERVED

さて、緊急逮捕されるまでは本作はペ・ドゥナ主演の映画だと信じ込んでいたが、そこからの急展開で、本作の主人公は、少女ドヒ役で圧巻の演技をみせたキム・セロンなのだと思い知らされた。ただの虐待される少女でとどまらない。

この、高橋かおり似の子役はどこかで見たことがあるとしばらく考えていたが、『冬の小鳥』、『アジョシ』キム・セロンだったか。さすがの天才子役は、終盤で一機にたたみかける。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

自分の証言によりヨンナムが逮捕され、憎き義父との生活に戻ることになってしまったドヒは、自分の身体を張った奇策に出る。

携帯を警察につないだままで、酔って眠り込む義父の横で裸になって横たわり、父親に性加害を受けたふりをしてその様子を傍受させるのだ。

これにより、義父は性加害で現行犯逮捕される。ドヒの証言撤回によりヨンナムは釈放され、ソウル警察への異動も決まる。

だが、これで一件落着ではない。ヨンナムは、ドヒが父親を罠にかけたことに気づいた。ならば、祖母も殺したのもこの少女なのではないか。ヨンナムの問いかけに、ドヒは涙する。ビンゴだ。

少女に二面性があることに最初に驚かされたのは、ヨンナムの家でドヒが頭を壁にぶつけ、傷だらけになって興奮していたシーンだ。

「あいつは自分で壁に頭をぶつける奇行癖があるんだ」

義父は自分の虐待をごまかすためにそう語ったはずだが、実はこれは真実だった。義父も祖母も実際にドヒを殴る蹴るのカットはあるので、虐待自体が事実無根ではないとは思うが。

ドヒは手段を選ばず、ヨンナムの気を惹こうとする。救いのない生活に突如差し込んだ一条の光のようなヨンナムを、逃がしたくはない。

だからドヒは、ヨンナムに言われたとおり毅然と立ち向かい祖母を殺し、ヨンナムに会いたい一心で壁に頭を打ち付ける。

祖母殺し、或いは義父への偽証、未成年とはいえ法的には問題であるこうしたドヒの行状を、警察官たるヨンナムが看過していいのかというツッコミはありだ。

だが、苦難に堪えるドヒの表情と、義父と祖母の鬼のような所業は、そんな文句を封印するだけの説得力をもつ。

(C)2014 MovieCOLLAGE and PINEHOUSE FILM, ALL RIGHTS RESERVED

チョン・ジュリ監督がこの映画を企画したきっかけとなったのは、かつて誰かから聞いた「猫と飼い主」の話だそうだ。

飼い主に可愛がられていた猫が、新しい飼い猫の登場により疎外される。その猫はどうにか気を惹こうとネズミの皮を剥いで持っていくのだが、飼い主には嫌がらせにしかみえない。

この猫と飼い主をどうにか理解し合えるようにしてあげたいというチョン・ジュリ監督

「私と行く?」

最後にヨンナムは、ドヒを誘い二人でソウルへと帰っていく。子猫がネズミの皮を並べるメッセージを、ヨンナムは読み取ったのだ。