『からかい上手の高木さん』
恋愛映画の名手・今泉力哉監督が山本崇一朗の人気コミックを実写映画化。西片と高木さんの10年後を描いた本作。からかい上手の初恋は100%片想いか。
公開:2024 年 時間:119分
製作国:日本
スタッフ
監督: 今泉力哉
原作: 山本崇一朗
『からかい上手の高木さん』
キャスト
高木さん: 永野芽郁
(少女期) 月島琉衣
西片: 高橋文哉
(少年期) 黒川想矢
田辺先生: 江口洋介
大関みき: 白鳥玉季
町田涼: 齋藤潤
中井: 鈴木仁
真野: 平祐奈
浜口: 前田旺志郎
北条: 志田彩良
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
とある島の中学校。隣の席になった女の子・高木さん(月島琉衣)にいつもからかわれている男の子・西片(黒川想矢)は、どうにかしてからかい返そうとさまざまな策を練るも、彼女に見破られて失敗ばかりしていた。
そんな二人の関係はずっと続くと思っていたが、高木さんがある理由から引っ越すことになり、心に秘めた互いへの思いを伝えることなく二人は離ればなれになってしまう。
それから10年が過ぎたある日、母校で体育教師として奮闘する西片(高橋文哉)の前に、高木さん(永野芽郁)が教育実習生として現れる。
レビュー(ほぼネタバレなし)
西片と高木さんの10年後
アニメにもドラマにもなっている山本崇一朗の人気コミック『からかい上手の高木さん』の映画化。原作から10年後の設定で、大人になった高木さんと西片の新たな時間を描いている。
監督は、恋愛映画の名手・今泉力哉。原作もアニメも知らないが、今泉作品ということで、劇場に足を運ぶ。
◇
舞台は小豆島。中学校の体育教師をしている主人公の西片(高橋文哉)が夜に「100%片想い」のアニメを見ていると、突如高木さん(永野芽郁)から連絡が入る。
何年も会っていないのに、「西片、ひょっとして「100%片想い」でも見てた?」と高木さんに鋭くツッコまれ、動揺。
大人になったいまでも、「西片」「高木さん」と呼び合う二人。決して彼女がマウントを取っている訳ではないが、いつも楽しそうに彼をからかう高木さんに、どうやっても敵わずに驚かされてばかりいる西片。
中学時代の二人はそういう微笑ましい関係だったが、彼女は父親の仕事の都合でパリに行くことになり、どうやらそれ以来10年も会っていないということのようだ。
◇
予備知識がなく観ても、おそらくほぼ困ることはない(ところどころ、テレビドラマで中学時代の二人を演じた月島琉衣と黒川想矢の回想シーンが入るし)。
昔から、好きな子にちょっかいを出すのは男の子の方だと思い込んでいたが、本作で西片をからかい続ける高木さんが彼に好意を抱いていることはミエミエだし、当然西片だって相思相愛だろう。
刺激は少ないが、退屈ではない
気持ちを言い出せずに別れた二人が、10年後に小豆島で再会するという話。恋愛ものとして観るならば、相当ゆるいし、ハラハラもなく、ただ二人がくっつくのを焦れながら待つばかりだ。
傍から見ていても、彼女にからかわれていることがすぐ分かるのに、毎度ご丁寧に騙されて驚いては、あたふたする西片に多少もどかしさは感じるが、彼の人の好さは伝わってくる。
◇
この二人の会話は基本ベタでひねりも刺激もない。だが、不思議と退屈ではない。
男心を弄んで(というと聞こえが悪いか)からかい続ける高木さんがとてもチャーミングだし、反撃しようにもできない西片もあまりに純朴で、つい温かく見守りたくなってしまうからか。
中学時代から二人を知る、周囲の友人たちもまた、みんな驚くほどに善人揃いだ。
西片の同僚教師の中井(鈴木仁)と、長年の交際の末に結婚する真野(平祐奈)。一方で喧嘩と復縁を繰り返す浜口(前田旺志郎)と北条(志田彩良)。
仲良し集団だから、恋愛ドラマにありがちなドロドロした男女関係も無縁。これでは平板なドラマにしかなりえないが、それでも映画として間が持っているのは、きっと舞台が風光明媚な小豆島だから。
西片と高木さんが仲良く並んで歩く町並みや海辺があまりに美しくのどかなので、観る方も穏やかな気持ちでいられるのだろう。この舞台効果は大きい。
職場の中学校だって、木造りの扉や壁が美しい校舎に、窓の外には瀬戸内海。こんな学校じゃ生徒も荒れようがない。
永野芽郁と高橋文哉
高木さんの永野芽郁はさすがに売れっ子なので、昔と違いオッサンの私でも綾瀬はるかと区別がつくようになってきたが、西片の高橋文哉は、三浦春馬にしかみえない。教室の一番後ろの席に座る西片なんて、まんま『君に届け』だわ。
ほかの作品ではそうでもないが、本作の前髪のすき間から覗く上目使いの瞳とか、マジで見分けつかない。まあ、どっちもイケメンで好感度大だから問題ないんだけど。
◇
3週間の教育実習で小豆島に戻ってきた高木さんが、西片を驚かすために掃除用具のロッカーに隠れ、そして昔のように彼をからかいながら、一緒の時間を過ごしていく。
安心感たっぷりの二人に代わって、ドラマを動かしていくのは中学生の男女。登校しなくなってしまった町田くん(齋藤潤)と、その原因は自分が彼に告白したせいではないかと心配する大関さん(白鳥玉季)。
不登校生徒を扱った学園ものとしては、あまりにスムーズに解決するのが物足りないが、ここにきてようやく片想いの話になってくる。
これだよ。恋愛がみな成就するようでは、片思い映画の達人・今泉力哉監督がメガホンを取る意味がない。
片想いの切なさや素晴らしさをこれでもかと訴えるのが今泉流。その意味では、『mellow』 (2020)以来久々の今泉監督らしい片想い要素の注入。
ところで『mellow』には本作の白鳥玉季と志田彩良も出演。白鳥玉季が当時小学生だったのはおかしくないが、志田彩良は20歳位で中学生役をやっていたのか。
◇
教育実習生の高木さんと親しくなる、不登校生徒の町田くん。クールな顔立ちで先生たちの両想いに気づき気の利いた助言をするあたり、結構重要なポジション。
演じる齋藤潤って、『カラオケ行こ!』でヤクザの綾野剛を歌唱指導してた、まじめな合唱部長の少年か? 全然別人じゃん、見た目も演技も! なかなかの演技派とみた。
唯一のオトナ世代の役といえるのが、田辺先生役の江口洋介。青くさい台詞を語ってくれるのだけれど、まあ一人くらいこういうオトナがいてもいい。
予定調和が過ぎる
西片と高木さんの恋の行方はネタバレせずとも自明かもしれないが、たまには相思相愛の二人の会話を、微笑ましく聞くのも悪くない。
はじめて手をつなぐドキドキ感は、清原果耶の『青春18×2 君へと続く道』に遠く及ばず、今泉映画としては会話の切れ味が鈍い。
◇
だけど、たまにはこういう牧歌的な映画もありか。夏祭りに花火、浴衣デート、着衣のままプール飛び込み、恋愛映画ならではの展開も多数。
互いに「さん付け」や「呼び捨て」にするのではなく、「西片」と「高木さん」っていうアンバランスが何かいい。
最後に若干ネタバレしているので、未見の方はご留意ください。
中学の頃から高木さんはヘナチョコパンチみたいに「好き」って100回も伝えてきたけど、西片は鈍くて気づかない。
島から彼女が去る日が近づき、ついに交際申し込み、いやそれならばプロポーズ、そして最後には子供も生まれて。うーん、予定調和が過ぎるというか、ここまで円満過ぎるのもどうかという気になる。
ハッピーエンドは嫌いじゃないが、何か、もう少しピリッとしたものがあっても良かったんじゃないか。ただ、それだと、原作の世界観が崩れるのかな。
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エンディングに流れるAimerの「遥か」は二人の雰囲気に合っていてとても良い。アニメ版の聖地・小豆島に行ってみたくなった。まずは原作、読もっ。