『マッドマックス:フュリオサ』
Furiosa: A Mad Max Saga
ジョージ・ミラーどこまでやるの!『マッドマックス怒りのデスロード』の前日譚。少女から女戦士に成長するフュリオサの細腕繁盛記ならぬ片腕復讐記。
公開:2024 年 時間:148分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督・脚本: ジョージ・ミラー
キャスト
フュリオサ: アニャ・テイラー=ジョイ
(少女時代) アリーラ・ブラウン
ディメンタス将軍:クリス・ヘムズワース
警護隊長ジャック: トム・バーク
イモータン・ジョー:ラッキー・ヒューム
リクタス: ネイサン・ジョーンズ
スクロータス: ジョシュ・ヘルマン
オーガニック・メカニック:
アンガス・サンプソン
人喰い男爵: ジョン・ハワード
武器将軍: リー・ペリー
メリー・ジャバサ:
チャーリー・フレイザー
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
世界の崩壊から45年。暴君ディメンタス将軍(クリス・ヘムズワース)の率いるバイカー軍団の手に落ち、故郷や家族、すべてを奪われたフュリオサ(アニャ・テイラー=ジョイ)。
彼女は、ディメンタス将軍と鉄壁の要塞を牛耳るイモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)が土地の覇権を争う、狂気に満ちた世界と対峙することになる。
狂ったものだけが生き残れる過酷な世界で、フュリオサは復讐のため、そして故郷に帰るため、人生を懸けて修羅の道を歩む。
レビュー(まずはネタバレなし)
回を追うごとに興奮度マシマシ
ジョージ・ミラー監督が1979年の初監督作品で大ヒットさせた『マッドマックス』は、メル・ギブソンを人気俳優に押し上げて彼の主演で三作品が撮られ、その後30年近いブランクを経て2015年に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が公開された。
バイオレンスが横行する荒廃した未来世界は長い年月を隔てても全く揺るぎなく展開され、ジョージ・ミラーは老いてなお健在だということにファンは歓喜した。
◇
マックスを演じる俳優はトム・ハーディに変わったが、それよりも驚いたのは、主人公マックスを凌駕する活躍と悲劇性で俄然注目を浴びたフュリオサ(シャーリーズ・セロン)の存在だった。
本作は、シリーズ随一の傑作の呼び声高い『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚だ。タイトルもずばり『マッドマックス:フュリオサ』。彼女の少女時代からの数奇で過酷な半生を描いている。主演はアニャ・テイラー=ジョイ。
前作はフュリオサがイモータン・ジョー率いる砦(シタデル)から奴隷妻たちを連れて逃げ、マックスと共闘しながら故郷<緑の地>に戻るもそこは枯れ果て、ジョーと戦うために再び砦に向かう三日間の物語だった。
今回は10歳の少女フュリオサ(アリーラ・ブラウン)が<緑の地>からディメンタス(クリス・ヘムズワース)率いるバイカー軍団に連れ去られ、16年を経てイモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)の軍隊長にまで出世するという長い年月を描いている。
◇
時間の流れからして作品が間延びするのではないか、ガソリンが枯渇した砂漠社会のクルマやバイク軍団の戦いも過去作と大きな変化なく退屈しないか。
結論から言えば、そんな心配はまったく無用だった。
- バイカー軍団に捕まったフュリオサを単身救出に向かった母メリー・ジャバサ(チャーリー・フレイザー)の死
- 暴君ディメンタスに飼われながら復讐の機会を待つフュリオサの執念
- イモータン・ジョーおよび白塗り顔のウォーボーイズの懐かしい面々
単調とも退屈とも無縁の、荒廃した世界での覇権争いの興奮。いや、回を追うごとに面白くなってないか。これ、前作より好きかもしれん。
技ありキャスティング
劇場予告で日本のファンに向けて語るのがアニャ・テイラー=ジョイとクリス・ヘムズワースだったから、てっきり本作のマックス役がトム・ハーディから彼に替わったのだと思っていた。
<ヴェノム>から<マイティ・ソー>にヒーロー交代か。だが、考えてみれば、前日譚なのだからフュリオサはまだマックスに出会う前。クリス・ヘムズワースが演じるのは暴君将軍なのである。
たまにはこういうヒールも演じたかったのだろうと思わせるほど、本作のクリスは生き生きしている。三台のバイクを馬車のように手綱をひいて操るディメンタスは、それでもどこかマイティ・ソーっぽく見えるが。
ディメンタス率いるバイカー軍団の荒くれぶりに比べると、どこか秩序があるようにさえ感じてしまう懐かしきシタデルの連中。
イモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)のバカ息子リクタス(ネイサン・ジョーンズ)とスクロータス(ジョシュ・ヘルマン)。
悪徳医者のようなオーガニック・メカニック(アンガス・サンプソン)にスーツ姿の人喰い男爵(ジョン・ハワード)。そして白塗りのショッカー戦闘員のようなウォーボーイズ。
ジョー役は前作のヒュー・キース・バーン逝去に伴い変更。スクロータス役のジョシュ・ヘルマンは、前作ではスリット役だったが、スクロータスが後にスリットになるのかな。
フュリオサ役のアニャ・テイラー=ジョイは、シャマラン監督の『スプリット』や『ミスター・ガラス』のおかげか絶叫クイーンのイメージ強く、今回は意外な配役に思えた。
けれど、本作での彼女の目力の迫力をみると、ジョージ・ミラー監督の欲しがっていたものが分かるように思う。
可憐な少女期から復讐に燃え女戦士となったフュリオサ、大人になってシャーリーズ・セロンに成長することを考えると、なるほどアニャ・テイラー=ジョイ、悪くないぞ。
マッドマックス不在の本作にあって、フュリオサのピンチを救う頼れる存在なのが、ウォーボーイズの警護隊長ジャック(トム・バーク)。あくまで主人公はフュリオサなので、途中でドロップアウトしてしまうが、それまでの彼女とのバディ感はいい。
このトム・バーク、黒澤明作品リメイクの『生きる LIVING』 では小説家役、フィンチャーの『Mank/マンク』ではオーソン・ウェルズ役だった俳優だろう? こういう役もイケるとは。
改造車バトルだって改良
砂漠の改造車バトルは毎度おなじみのアクション。
メル・ギブソン時代の作品に比べれば、カーアクションは数段グレードアップしていることに違いはないのだが、絵が鮮明になったとか、CGがふんだんに使われているとかの方向性ではないことが素晴らしい。
全部が全部、スタントで撮っているのではないのかもしれないが、それでも迫力と本物感はハンパない。フュリオサとジャックのタンクローリー車をバイカー軍団が襲ってくるバトルシーンは相当に長尺だが、興奮が持続する。
地上戦の撃ち合いや爆破といったものだけでなく、前作にあった竹馬のような長い棒に乗った攻め込み、そしてパラシュートを使った空中戦などで、空間を縦横無尽に活用している。これは『マッドマックス』シリーズならではの醍醐味。
◇
1979年の第1作はヒットこそしたが、実にシンプルな内容だった。
『北斗の拳』に多大な影響を与えたという、荒廃した未来社会での、砂漠を舞台にした荒くれ者たちの改造車バトル。そういってしまえばどれも同じなのに、40年以上経っても、まだ傑作を撮っているジョージ・ミラー監督には頭が下がる。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
前日譚の宿命として、先行している作品とつじつまを合わせる形で物語を終わらせなければならない。だから、話の流れはある程度読めてしまっているわけだ。
だが、それを差し引いても面白いと思わせる前日譚もある。『スターウォーズ』における『ローグワン』然り(Episode1~3ではないよ)、『インファナルアフェア』における『無間序曲』然り。
本作では、フュリオサがディメンタスに復讐を果たすこと、イモータン・ジョーから奴隷妻たちを略奪して故郷に戻ろうとすること、などが予め分かっている。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』では片腕を失っていたフュリオサだが、本作では両腕が揃っている。
どこかで大けがをするのか拷問を受けるのだろうと思っていたが、予想を裏切って、彼女は脱出するために自分で腕をぶった切る。
◇
第一作のクライマックスでは、マックスが妻子を殺された宿敵に手錠をかけ鋸を渡し、「爆発する前に自分の手を斬れば逃げられるぞ」と置き去りにする。
その男は結局その勇気なく爆死するが、フュリオサは肝が据わっていたということか。45年目にして伏線回収した気分。
◇
殺された母から授かった木の種子で、フュリオサはディメンタスに粋な復讐を果たす。まるで、グルートーに折檻されるマイティ・ソーのようであった。