『ダイヤルMを廻せ!』『ダイヤルM』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ダイヤルMを廻せ!』『ダイヤルM』|新旧比較レビュー・考察とネタバレ

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ヒッチコックの名作(レイ・ミランド+グレース・ケリー)とリメイク版(マイケル・ダグラス+グウィネス・パルトロ―)の比較レビュー。

『ダイヤルMを廻せ!』
Dial M for Murder

公開:1954 年  時間:105分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:   アルフレッド・ヒッチコック
原作・脚本:   フレデリック・ノット
        『Dial M for Murder』
キャスト
トニー:        レイ・ミランド
マーゴ:       グレース・ケリー
マーク・ハリディ:ロバート・カミングス
ハバード警部:  ジョン・ウィリアムズ
スワン:     アンソニー・ドーソン

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

『ダイヤルM』
A Perfect Murder

公開:1998 年  時間:108分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:     アンドリュー・デイヴィス
脚本:    パトリック・スミス・ケリー

キャスト
スティーヴン:    マイケル・ダグラス
エミリー:    グウィネス・パルトロー
デイヴィッド:   ヴィゴ・モーテンセン
カラマン刑事:   デヴィッド・スーシェ
ラケル:      サリタ・チョウドリー

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

あらすじ

資産家の娘を妻に持つ男。夫婦仲はすっかり冷え切っており、妻が不倫していることに気づいた夫は、彼女を殺して財産を奪おうと考え、アリバイ工作をしたうえで殺害を依頼。

自分の留守中に、物盗りを装って自宅へ侵入した男が妻を襲うが、思わぬトラブルが発生する。

レビュー(ネタバレあり)

アルフレッド・ヒッチコック監督がワーナーとの契約であと一本を撮らねばならず、当初の企画がうまくモノにならず思案していたところに、折よく持ちこまれたブロードウェイの舞台劇の映画化話。

原作はオードリー『暗くなるまで待って』で知られるフレデリック・ノット

35日で撮りきったというから巨匠にしては早撮りで、あまりご自身には思い入れがないのかもしれないが、軽妙な仕上がりと脚本のキレの良さで、監督の代表作のひとつと言ってよいのではないかと勝手に思っている。

この1954年の作品を、1998年にアンドリュー・デイヴィス監督がリメイクしている(この監督は、ハリソン・フォード『逃亡者』もリメイクだった)。

今回は両作品の新旧比較レビューをしてみたい。

舞台はロンドン、一文無しになった元テニス選手のトニー(レイ・ミランド)が、資産家の妻マーゴ(グレース・ケリー)と米国人推理作家マーク(ロバート・カミングス)の浮気を察知。

離婚される前に妻を殺して資産を相続しようと、完全犯罪を企む。

大学時代の知人で刑務所帰りのスワン(アンソニー・ドーソン)を金で雇い、自分の留守中に妻を殺させる計画を伝える。

具体的にはこうだ。

トニーはマークを連れてテニス選手たちのパーティに行く。留守番している妻マーゴを襲わせるわけだが、トニーが妻の鍵を盗み玄関脇に隠しておき、それでスワンを侵入させ、トニーがかける電話に出た妻を背後から絞殺する算段。

犯行後に再び隠した鍵をトニーがこっそり妻に戻せば、犯人は窓から入った強盗に偽装できるというもの。

(c)1997 Warner Bros., Monarchy Enterprises B.V. and Regency Entertainment (USA) Inc. All rights reserved.

冒頭にいきなり不倫相手との濃厚なキスから始まるというのに、まるで不貞に見えないのはグレース・ケリーの輝くオーラのせいか。

二人の恋路を邪魔する夫トニーは初めから悪人にしか見えない。演じるは『失われた週末』レイ・ミランド

序盤の展開でヒッチコックらしい演出だったのは、トニーが旧友のスワンに犯罪を依頼する段取り。

トニーは身元を伏せてスワンの米国車を買いたいと近づき、自分の妻を不倫写真で脅迫する手紙をわざと落としスワンに拾わせて指紋をつける。

その後にトニーは大学の同窓生だと正体を明かし、スワンを前科やヤバいネタで脅したうえで、金を掴ませて自分の妻殺しを請け負わせる

妻殺しの計画は早口で説明され、十分には理解できないが、心配ない。それが失敗するからだ。その後の取り繕う様子をみていると、もとの計画がよく分かる。

周到にみえた計画は、結構ずさんだった。トニーは予定時刻に家に電話しそびれる。腕時計が止まっていたのだ(情けない)。

そして公衆電話にも先客ありで時間はのびる(この電話で家にかける番号がたまたま、ダイヤルMから始まるのでこのタイトル)。

ただ、失敗はその遅れとは関係なく、殺されそうになったマーゴが、そばにあった裁ちばさみでスワンに抵抗し、刺殺してしまうことによる。

(c)1997 Warner Bros., Monarchy Enterprises B.V. and Regency Entertainment (USA) Inc. All rights reserved.

これは驚きだったが、考えてみれば、ヒロインが序盤で死んでしまっては映画が持たない。

哀れ、返り討ちに遭ったスワン役のアンソニー・ドーソンは、『007ドクター・ノオ』でも、ボンドに毒蜘蛛を仕掛けて失敗する間抜けな悪役だったなあ。

ともあれ、妻殺しは頓挫し、トニーは慌てて帰宅。スワンの死体から鍵を取り出し、こっそり妻のバッグに戻す。

ところで、本作は当時流行の3D映画として撮られている。技術や劇場運営面での課題も多く、すぐに廃れてしまったようだ。

私が観たのは通常版だが、ヒッチコックこれ見よがしな奥行き映像や飛び出る映像を好むわけではなく、本作も3Dを意識したようなアングルが多少見られる程度。3D映画の映写機制約から、1時間程度でインターミッションが挟まるのが珍しい。

さて、殺人に失敗したトニーだが、この委託殺人未遂が発覚するかどうかというのが本作のサスペンスのメインパートだ。従って詳細は伏せるが、このスワンの襲撃と妻の正当防衛による刺殺で、警察が登場する。

現場を仕切るハバード警部(ジョン・ウィリアムズ)めっちゃキレ者だ。スワンの靴底を見て、窓からの侵入ではないと見抜き、スワンが鍵を所持していない(トニーが奪取した)ことから、妻が家に入れたのではと疑う。

さては不倫ネタで脅迫してきたスワンをマーゴが故意に殺傷したのではないか。やがて彼女が逮捕され、あろうことか有罪判決で死刑宣告される。

この展開はさすがに無理を感じたが、どうにか愛するマーゴを助けたいと、彼女の不倫相手のマークが、犯人になりきって推理作家の知恵を絞り、遺産目当ての夫の委託殺人というアイデアを閃く。

それを自供して妻を救えとトニーに言うのだが、それこそが事実なのだという皮肉

(c)1997 Warner Bros., Monarchy Enterprises B.V. and Regency Entertainment (USA) Inc. All rights reserved.

以下、ネタバレになる。ハバード警部はトニーの金遣いが急に荒くなったのを不審に思い、マーゴのバッグの鍵で家に入ろうとする。

だが、鍵が合わない。なぜなら、その鍵は死んだスワンの家の鍵だから。トニーが死体から取り戻した鍵が誤っていた。スワンは侵入する際に、鍵をすぐにドア脇の元の隠し場所に戻していたのだ。

警部は罠を仕掛けるが、マーゴはスワンの戻した鍵の隠し場所を知らない、つまり無実と判明。そうと知らず戻ってきたトニーが、もしも隠し場所の鍵を使いドアを開けたら、彼が犯人ということになる。

結果は勿論、ドアが開いて悪事が判明する。ハバード警部を演じるジョン・ウィリアムズの頑固親父ぶりがいい。『麗しのサブリナ』のお父さん役だった俳優だ。ヒッチコック作品にこういう優秀な刑事は珍しいか。

トニーの行動を隠れて見て解説している警部のアテレコがコントのようなのはご愛嬌

最後には、犯罪がバレて観念するトニー。じたばたせずに酒をふるまう余裕を見せ、となりで警部が犯人逮捕を通報するというエンディングも軽妙でよい。

舞台はロンドンからマンハッタンに鞍替え。

夫・スティーヴンマイケル・ダグラス、妻・エミリーグウィネス・パルトロー。豪華キャストだ。NYでマネーゲームに翻弄される経営者マイケル・ダグラス『ウォール街』のよう。

エミリーの浮気相手は新進気鋭の画家デイヴィッド(ヴィゴ・モーテンセン)。美人妻に若くワイルドな雰囲気の画家が浮気相手では、ドラマ『昼顔』吉瀬美智子北村一輝を思わせる。

グウィネス・パルトローの強い女性キャラが、グレース・ケリーの雰囲気とは大きく異なり、それが作品自体の雰囲気の差異にもなっている。

ちなみに、グウィネス『アイアンマン』で組んだロバート・ダウニー・Jr.にも、目下ヒッチコック『めまい』のリメイクの企画があるとかで、どこか因縁めいている。

さて、オリジナルとリメイクの大きな違いは、夫が妻の委託殺人を依頼する相手が、この浮気相手のデイヴィッドなのだ。ということは、イケてるヴィゴ・モーテンセンが早くも殺されてしまうのか。

と思っていると、オリジナル版通りに妻から盗んで夫が隠した鍵を使い侵入した覆面男が、妻・エミリーに襲いかかり、反撃に遭い死ぬ。だが、何とこれが全くの別人。デイヴィッドは汚れ仕事を、知人に再委託したのだ。

そして登場する警察。あちらがスコットランドヤードなら、こちらはNYPDカラマン刑事を演じるデヴィッド・スーシェ名探偵ポワロで知られる俳優。いかにも優秀そう。

このあたりまでの展開は、名作のリメイクとしては出色の出来栄えで、本家越えかと期待したほど。舞台設定も配役も悪くないし、現代風のアレンジも気が利いている。

凶器を裁ちばさみから調理用の温度計(肉に刺すヤツ)に変えたり、公衆電話をケータイに変えたのも自然でよい。

ただ、ここから先が残念すぎた。以下、ネタバレになるが、妻のエミリーが活躍しすぎるのだ。

自分のバッグにある鍵の違いに気づくだけでなく、それが殺してしまった男のものではないかと推測し、ワシントンハイツの危険な感じのアパートに行ってみると、鍵穴ビンゴ

一方、夫スティーヴンは委託した画家のディヴィッドに逆に脅迫され、大金を払ったあとに列車の個室でディヴィッドを刺殺

家に戻ったら、自分が委託殺人をけしかけたことがエミリーにバレてしまい、最後には自宅で夫婦が死闘を繰り広げ、エミリーが夫を射殺する。

カラマン刑事はラストに登場し、エミリーに正当防衛だというだけの存在で、活躍を匂わせたものの、結局ろくな働きをせず。だって、すべてエミリーが自分でカタを付けてしまうんだもの

殺されかけた妻が襲撃犯を刺してしまう事件の発端は当然ドラマ展開に必要だが、妻の浮気相手である委託殺人者も、首謀者の夫もともに殺されてしまうのは、さすがに激しすぎ

これでは、本作がもともと持っていた上質なサスペンス性が薄れ、ただのアクション映画に見えてしまう。

女性活躍の時代に相応しい先見性といえなくもないが、カラマン刑事にもっと活躍の場を与えて欲しかった。前半良かった分だけ、後半の暴走が勿体ない。

ところで、鍵って普通、家が違ったらそんなに見間違えないものではないか。

オリジナル版でも、殺された男の自宅の鍵を自分の家の鍵と間違える設定には違和感があったが、時代が古いからまだ許せた。

リメイク版で夫婦が住んでいるのはコンシェルジュ付きの超高級マンションだ。殺された男の住むスラムっぽいアパートと同じような鍵というのは想像しにくい。ここも現代風に設定変更してほしかった。