『スパイダーマン:スパイダーバース』
Spider-Man: Into the Spider-Verse
時空を越えてピーター・パーカーが勢ぞろいするカオスなスパイダーマン。アニメの作画がクールだ。
公開:2019 年 時間:117分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ボブ・ペルシケッティ ピーター・ラムジー ロドニー・ロスマン 声優 <スパイダーマン> マイルス・モラレス: シャメイク・ムーア(小野賢章) ピーター・B・パーカー: ジェイク・ジョンソン(宮野真守) グウェン・ステイシー: ヘイリー・スタインフェルド(悠木碧) スパイダーマン・ノワール: ニコラス・ケイジ(大塚明夫) ペニー・パーカー: キミコ・グレン(高橋李依) ピーター・ポーカー: ジョン・ムレイニー(吉野裕行) ピーター・パーカー: クリス・パイン(中村悠一) <その他> キングピン: リーヴ・シュレイバー(玄田哲章) アーロン・デイヴィス: マハーシャラ・アリ(稲田徹) ジェファーソン・デイヴィス: ブライアン・タイリ・ヘンリー(乃村健次) メイ・パーカー: リリー・トムリン(沢海陽子) MJ: ゾーイ・クラヴィッツ(甲斐田裕子) オリヴィア・オクタヴィアス: キャスリン・ハーン(渡辺明乃) グリーンゴブリン: ヨマ・タコンヌ(鶴岡聡)
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
ニューヨーク・ブルックリンの名門私立校に通う中学生のマイルス・モラレス。実は彼はスパイダーマンでもあるのだが、まだその力をうまくコントロールできずにいた。
そんな中、何者かによって時空が歪められる事態が発生。それにより、全く異なる次元で活躍するさまざまなスパイダーマンたちがマイルスの世界に集まる。
そこで長年スパイダーマンとして活躍するピーター・パーカーと出会ったマイルスは、ピーターの指導の下で一人前のスパイダーマンになるための特訓を開始する。
レビュー(ネタバレあり)
ナメてかかってました
実写版にマルチバースの要素が採用されたのは、2021年の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。
トム・ホランドの住む世界にトビー・マグワイヤとアンドリュー・ガーフィールドがやってきて、スパイダーマンがウルトラ兄弟のようになった時には興奮した。
本作はそれに先立ち、スパイダーバースの世界を登場させたというのに、ただアニメだという理由で公開時に敬遠していた。実に愚かしい。当時の自分を叱りつけてやりたい。
本作にはアメコミの持つヒーロー活劇の醍醐味と「スパイダーマン」固有の軽妙さ、そしてアニメーションという表現方法への果敢な挑戦が満ちている。まあ、ひとことで言えば「面白い」のだ。
サム・ライミ監督から始まり脈々と続く『スパイダーマン』の実写映画版はどれもよく出来ており、今更アニメ映画を作ることに私としては懐疑的だった。
だが、いざ観てみると、このヒーローとアニメの相性は実に良い。当たり前か、もともとアメコミなのだから。
ピーターとマイルスの出会い
映画は冒頭、ピーター・パーカーが自身のスパイダーマンとしての活躍を振り返り、紹介する。クモに噛まれてから逆さ宙づりキス、「大いなる力には大いなる責任が伴う」の教えまでお馴染みのストーリーのおさらい。
「テレビアニメの主題歌は最高だったよ、アイスは失敗だったけど」と、ノリノリのナレーション。
だが、ピーターが語るように「この町を守れるのは僕一人」、ではなかった。それが今回の主人公、ヒスパニック系とアフリカ系の血を持つ13歳の少年、マイルス・モラレス。見慣れたスパイダーマンの物語とは異なる新機軸だ。
堅物の警官である父を持ち、エリート意識の高い私立校に転入させられ、反発するマイルスは叔父のアーロンに惹かれ、地下鉄の廃線トンネルにグラフィティを描く。そこでクモに噛まれることになる。
マイルスの家庭環境は、ピーターの生い立ちとだいぶ違うが、めでたく特殊能力を開花し始めた彼は、ピーターとキングピンの闘いの場に遭遇する。
ここで初めて二人のスパイダーマンが出会うわけだが、事の次第からは、二人が組んで戦う、つまりマイルスがサイドキックの役割なのだと思っていた。
だが、大事なミッションを託して、英雄ピーターは、大して強そうに見えないキングピンに殺されてしまう。これは意外な展開だった。
予想外の展開が次々と
マイルスがあっさりと新スパイダーマンを襲名するのではなく、そこに時空の歪みから、老けて腹の出たピーター・B・パーカーが現れる。このくたびれたピーターと若造マイルスとのバランスがよい。
二人揃ってブルックリンを警察から逃げ回るという、スパイダーマンにしてはしょぼいチェイスだが躍動感はたっぷり。
まるで『デッドプール』を観ているかのような緩い毒舌合戦も楽しいし、『Mr.インクレディブル』とベン・アフレックを混ぜたようなピーターのキャラ造形もいい。
◇
ここからは、敵のマシンを破壊して平和が戻る典型パターンに落ち着くのは予想通りだが、ユニークな点が二つ。
まずはお馴染みの敵キャラ・ドクター・オクトパスが本作では中年女性になっている点。これはなかなかサマになっていて、タコというよりショッカーの蜂女のようであるが、これまでのドクオクの既成概念をぶち壊してくれる。
◇
そして、スパイダーメン(複数)がピンチになると登場するのが、なんとマイルスの学校の女生徒グウェン!
グウェンといえば、『アメイジング・スパイダーマン』でピーターのガールフレンドであるはずが、なんと彼女もまた、スパイダーグウェンとして活躍する世界から流れ込んできたのだ。
ピーターがおそ松さん状態に
こうして男女三人のスパイダーたちは、メイおばさんの秘密基地に向かうのだが、何とそこにはさらに三人のスパイダーマンたちが。
探偵稼業のハードボイルドなスパイダーマン・ノワール、女子高生のペニー・パーカー、そして豚のピーター・ポーカー。いや、この発想は掛け値なしに凄い。
ここまでの展開は、アニメの作画をコミック風にするなど独特の表現方法が見られたものの、目指している方向性は、ブルックリンの町を縦横無尽に素早く動くスパイダーマンを、躍動感たっぷりにクールに見せることだった。
だが、ここからはカオスな世界になる。
ノワールがモノクロで描かれた石ノ森章太郎作画風のキャラなのはまだわかる。
丸っこい戦闘ロボットに乗る女子高生ペニーは、もはや萌え系美少女アニメキャラだ、それも緩いラブコメ風の。いや、完全にアニメイトのノリではないか。これ、ホントにスパイダーバースなのか。
そしてとどめはある意味、真の『紅の豚』ともいえるコスチュームのピーター・ポーカー、またはスパイダーハム。豚である、それもタツノコプロを思わせる、ギャグマンガ調の。
ターカーノーツーメー
いや、これだけゆるキャラ勢ぞろいで、好き勝手にしゃべるアニメは、まるで『秘密結社鷹の爪』だ。すげえな、スパイダーバース、ここまで世界観を崩しに来るとは。
MCUの『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』でも、マルチバースから不思議な組み合わせの謎キャラが結集した場面があったが、公開は本作の方が早いし、なによりキャラクターのキレもこちらが上だ。
◇
結局、このいろんなスパイダーマンの混成部隊が、敵に立ち向かう流れになる。戦う『おそ松さん』のようでもある。
息をのむバトルの行方。キャラはギャグマンガのようでも、団体戦の迫力は『アベンジャーズ』に匹敵といったら褒め過ぎか。
繰り返しになるが、キングピンの造形だけは、もう少し怖そうにしてほしかった気はする。ドクオクが良かっただけに、勿体ない。
ともあれ、スパイダーバースが、こんなに楽しいスグレモノ作品だったとは。これは次作もすぐに観なくては。