『メイン・テーマ』
片岡義男の原作を森田芳光監督が薬師丸ひろ子と野村宏伸の共演で映画化
公開:1984 年 時間:101分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 森田芳光 原作: 片岡義男 『メイン・テーマ1』 キャスト 小笠原しぶき: 薬師丸ひろ子 大東島健: 野村宏伸 御前崎渡: 財津和夫 伊勢雅世子: 桃井かおり 千歳しずく: 太田裕美 千歳国夫: ひさうちみちお 御前崎由加: 渡辺真知子 エリ: 戸川純
勝手に評点:
(私は薦めない)
コンテンツ
あらすじ
昨日まで幼稚園の先生だった小笠原しぶき(薬師丸ひろ子)は、房総の海岸で手品の修行のために全国を回っている大東島健(野村宏伸)と出会う。
二人は彼の4WDで一緒に旅をすることになるが、ソリが合わずケンカばかり。やがて二人は沖縄へ。
今更レビュー(ネタバレあり)
コアな森田監督ファン向け
ハレの舞台である角川映画に爪痕を残してやると言わんばかりの森田芳光監督のチャレンジ精神は買う。いや、ここでトップアイドル・薬師丸ひろ子の主演だからと無難に纏まらなかったのはさすがだと思う。
でも、それ以上に、拾いあげるポイントがみつからない。
いや、ひとつあった。南義孝の曲『スタンダード・ナンバー』と対をなす、歌詞だけ違う薬師丸ひろ子の歌う主題歌『メイン・テーマ』、それと劇中に流れる『スロー・バラード』。やはり南義孝の曲はいい。
◇
さて、本作はいわゆる「一見さんお断り」の映画に近い。森田芳光監督のコアなファンなら、当然楽しめるだろう。だって、どこを切っても森田映画だもの。
でも、それ以外の一般ピープルや、普通の薬師丸ひろ子のファン層には、結構忍耐のいる映画なのではないか。
本作は、森田監督を偲ぶ観客がたまに上映会に集まって、バカ笑いしながら鑑賞したり、過ぎし日のバブル前夜の徒花を懐かしむのにふさわしい映画なのだというのが、久々に観た率直な感想。
片岡義男はどこにいった
幼稚園の先生である主人公・小笠原しぶき(薬師丸ひろ子)と、ピックアップトラックであてもなく全国を回っている若者・大東島健(野村宏伸)が海岸で出会い、一緒にドライブしたり、旅先で再会したりして、親しくなっていく話。
片岡義男の同名原作とは、大まかなプロット、というか幼稚園の先生とピックアップトラックくらいしか共通点がない。ほぼ、森田芳光ワールドである。
もっとも、片岡義男は別に気にしていないのかもしれない。なにせ、森田監督の8ミリ作品『ライブイン・茅ヶ崎』を観て感銘を受け、角川春樹に引き合わせたのは、ほかならぬ片岡義男なのだ。
「確かに光るものはあるけど、8ミリじゃ商売にならない。35ミリで持って来いよ」という名言を吐いた角川春樹との因縁の作品。
◇
でも、片岡義男本人がOKでも、愛読者だった者としてはちょっといただけない。だって、原作の良さが微塵も残っていないのだ。
これだったら、ドライな片岡ワールドをウェットで再現した違和感はあれど、大林宣彦監督の『彼のオートバイ、彼女の島』の方が、はるかに原作世界に近い。少なくとも、バイクライディングの高揚感は伝わってきた。
だが、本作からは、サーフィンの楽しさも、ピックアップを走らせる悦びも伝わってこない。
分かりやすい例が首都高から郊外に抜けていく高速道路の見せ方。走りの爽快感を伝える大林作品に対し、料金所を抜けた路面スレスレの埃っぽい道路を見せるだけの謎アングルの森田。奇をてらい過ぎだ。
薬師丸ひろ子と野村宏伸
主要な登場人物の誰にも感情移入できない点もまた、本作ではマイナスポイント。役名がみんな島の名前なのも、原作にはない森田芳光の不思議なこだわり。
薬師丸ひろ子が演じる主人公・小笠原しぶきは幼稚園の先生だが、園児の父親・御前崎渡(財津和夫)に秘かに好意を抱いており、夜に三人で食事を楽しんだり、御前崎が大阪に転勤したあとも追いかけて行ったり。
そこに砂浜で出会った大東島健(野村宏伸)とも親密になっていき、どっちに気があるんだか分からない二股女になっていく。
これまでの薬師丸ひろ子には考えられない役柄に、ファンの心理は複雑だ。せっかくの貴重な水着シーンまで、実に物足りない、ときめかないショットになっていて、モヤモヤ感が高まる。
そして、高い競争率のオーディションを勝ち抜いた相手役の野村宏伸。まあ、はっきり言って、ド素人の演技だ。
薬師丸ひろ子の相手役新人といえば、これも大林監督の『ねらわれた学園』の高柳良一を思い出すが、デビュー作の演技としてはあっちの方が自然だった。
しかも、野村宏伸の演じる大東島健は、修行中のマジシャンという映画オリジナル設定なのだが、これがイタい。
4WDの荷台に怪しい箱が置いてあって、そこから色々出てくる演出なのだが、まあ手品でもなんでもない。マジック監修の二代目引田天功にはとんだ黒歴史ではないか。
後半、万座ビーチの海開きで彼が見せるマジックショーなど噴飯ものだった。
◇
「薬師丸」にちなんで荷台の箱に書かれた08940のロットナンバーに書いたり、当時流行のパーソナル無線で「ハローCQ、こちらは08940…」とクルマで得意げに語るのも興ざめだ(パーソナル無線のカッコよさで『私をスキーに連れてって』に勝てる映画はないな)。
財津和夫と桃井かおり
そして小笠原しぶきに惚れられる、園児の父・御前崎渡には財津和夫。森田芳光はミュージシャンを役者に使うのが大好きだが、この配役はいかがなものか。
第一、御前崎は妻(渡辺真知子が怪演)がいる身ながら、ジャズシンガーの伊勢雅世子(桃井かおり)と不倫関係にあり、それゆえ、しぶきには関心がないという男なのだ。
よほど演技に説得力が必要だが、映画初出演の財津和夫には荷が重かったのではないか。
◇
それに、御前崎と伊勢の関係の複雑さも、本来2時間半ほどあったという作品を大幅に短縮せざるを得なかったせいで、さっぱり分からない。
なんで、須磨浦の駅の公衆電話で傘もささずにずぶ濡れの財津和夫が、桃井かおりと別れ話しているのか、理解に苦しんだ。
◇
御前崎(野村)と大東島(財津)はともに伊勢(桃井)に惚れており、一方、しぶき(薬師丸)はこの男二人が気になっている。そういう不思議なアンバランス恋愛相関図。
伊勢と御前崎がキスしているところにしぶきが「そこまでー!」と割って入り、「二股なんて汚いわ」と責められた伊勢は御前崎を見捨てる。
その御前崎は「じゃあお前でもいいや」と言わんばかりに、しぶきとくっつく。こう書くと、実も蓋もない展開だ。一体どこに共感しろというのだろう。
脳内がカオス状態になる
なので、本作の楽しみ方は、森田芳光がいかに映画の既成概念を崩して遊びまくっているかを味わうことだろう。
旅先で先輩マジシャン(加藤善博)と御前崎が早口で語り合う『の・ようなもの』的な話の運びを、角川映画の枠組みの中でやるとは斬新だった。
しぶきと御前崎がモーテル(当時はまだラブホテルとは言わない?)に勢いこんで向かうと大渋滞で入れず、いつのまにか周辺道路にコスプレのパレードのように色んな輩が溢れ出て、カオス状態になる。
そこに花火が打ちあがる摩訶不思議な世界は、説明不要の楽しさ、バカらしさだ。無風で煙が流れず、花火がほとんど見えなかったのが悔やまれる。
本作の併映は原田知世の『愛情物語』。二年後に公開された大林監督の『彼のオートバイ、彼女の島』の併映は『キャバレー』。片岡義男原作映画の併映は角川春樹自身の監督作になるという不文律でもあるのか。
本作で「ジャズなんて興味ねえよ」と桃井かおりにほざいていた野村宏伸が、次には初主演作『キャバレー』で「レフト・アローン」をサックスで吹いている面白さ。
ともあれ、社長自らがメガホンを取る作品とカップリングされれば、こちらはB面扱い、しかも尺は短めにせざるをえない。
そんな状況下で、目立たぬように、だが爽やかな作品を撮ったのが大林監督で、ひたすら実験に取り組んだのが森田監督だったのかもしれない。