『グリーン・ナイト』
The Green Knight
アーサー王の甥で円卓の騎士になるガウェインが、緑の騎士との首切りゲームに挑む。
公開:2022 年 時間:130分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: デヴィッド・ロウリー 原作 『ガウェイン卿と緑の騎士』 キャスト ガウェイン卿: デーヴ・パテール エセル/ベルティラック夫人: アリシア・ヴィキャンデル ベルティラック:ジョエル・エドガートン ガウェインの母: サリタ・チョウドリー アーサー王: ショーン・ハリス 緑の騎士: ラルフ・アイネソン スカベンジャー: バリー・コーガン 聖ウィニフレッド: エリン・ケリーマン ガウェインの妃: ミーガン・ティアナン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
ポイント
- デヴィッド・ロウリー監督作品だから難解なのではなくて、単にアーサー王の円卓の騎士に関する自分の知識があまりに乏しいだけだった。ちょっと復習して再履修したら、今度はなかなか楽しめる。いつもは予備知識なしがデフォルトの方でも、本作はガウェイン卿の予備知識が多少あるといいと思う。
あらすじ
アーサー王の甥であるガウェイン卿(デーヴ・パテール)は、正式な騎士になれぬまま怠惰な毎日を送っていた。
クリスマスの日、円卓の騎士が集う王の宴に異様な風貌をした緑の騎士(ラルフ・アイネソン)が現れ、恐ろしい首切りゲームを持ちかける。
挑発に乗ったガウェインは緑の騎士の首を斬り落とすが、騎士は転がった首を自身の手で拾い上げ、ガウェインに一年後の再会を言い渡して去っていく。ガウェインはその約束を果たすべく、未知なる世界へと旅に出る。
レビュー(若干ネタバレあり)
首切りゲームから始まる騎士道
『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』のデヴィッド・ロウリー監督の新作ということだけで観る気になった。何やら中世のファンタジーっぽいビジュアルだが、誰の話かも把握していない。タイトルが緑の夜ではなく騎士だということすら、映画が始まって知ったくらいだ。
本作の元ネタは14世紀の詩『ガウェイン卿と緑の騎士』ということらしい。作者不詳ではあるが、『指輪物語』のトールキンが現代語訳したことで知られている。
◇
物語の主人公・ガウェイン卿とは、かのアーサー王の甥にあたる若者だ。本作では、『スラムドッグ$ミリオネア』の主人公の少年で人気を博したデーヴ・パテールが演じている。
このガウェインが、クリスマスの日のアーサー王の円卓の宴に招かれ、何の因果か、突如現れた緑の騎士との<首切りゲーム>を受けて立つ羽目になる。
「私に一撃を与えて傷をつけてみよ」
グリーン・ナイトの挑発に、誰も騎士たちが名乗りを上げず、ガウェインが買って出るのだ。
この乗る馬や甲冑は勿論、肌も全身緑色の騎士は、まるで樹木の妖精のような、人間離れしたファンタジックな外見ゆえ、きっと剛健なのだろう。
どんな戦いになるのかと期待すると、なんとあっさりガウェインの剣の一太刀で斬首されてしまう。だが、落ちた首を拾ってこう宣言する。
「一年後、緑の礼拝堂で待つ。今日の日と同等の一撃をお前に与える」
何だよ、こちとら生身の人間だ。首を斬られても死なないヤツに反撃されてはたまらない。こんな不利な条件がある勝負なら、先に言ってくれよといったところか。
城下町では英雄となったガウェインだが、すぐに一年の猶予期間が終わって旅に出ることになる。
約束の地へ向かう旅が始まる
本作は、このガウェインがグリーン・ナイトと約束した緑の礼拝堂を目指す旅の物語といえる。
彼の馬や斧、恋人のエセル(アリシア・ヴィキャンデル)からもらったお守りの小さな鈴、母(サリタ・チョウドリー)から授かった緑の腰帯。
道中で様々な人々との出会いを通じて、これらの大事なアイテムを奪われたり、取り返したりしながら、目的地へと近づいていく。
などと分かった風なことを書いているが、実は予備知識なしの初見では、物語のポイントがよく把握できず、かなり難儀した。
その後、アーサー王と円卓の騎士の概略や『ガウェイン卿と緑の騎士』の大まかな流れを理解したうえで、再度見直して観ることで、ようやく面白味や深みが分かるようになった。
これは多分に、中世の物語に対する私の知識不足からくるものであり、欧米の観客や、日本でもこういう文献に明るい人であれば、もっと初見で本作の魅力に近づけるのだろう。
例えばガウェインが旅に出るまでの序盤までの展開だけでも、
・ガウェインがなぜ娼館にいるのか(恋人エセルって娼婦なの?)
・そこからアーサー王の宴に行くってことは、ガウェインはだらしないダメ男キャラなのか
・彼の母はなぜ息子に黙って呪術でグリーン・ナイトを召喚させるのか
など、疑問が沸き上がる。
◇
それにファーストカットが既に難解だ。庭で家畜たちが騒ぎ、遠くの山小屋で火事が発生。馬に乗って男女が逃げ去る。カメラがそこから後退していくと、エセルが顔に水をかけて、ガウェインが目覚める。
ただの夢オチなのか、なにか意味があるのか、手がかりはない。
いきなりデヴィッド・ロウリー監督が挑戦状を叩きつけてきたかのようなオープニング。ちなみにこの男女の正体は公式サイトにネタバレ扱いで書いてあるが、それを見ても全く納得感はなかったなあ。
不思議な旅は続く
ロウリー監督お得意の、何の説明もない不可思議なカットは他にもある。旅を始めてすぐに出会う、道案内を買って出る少年。バリー・コーガンが演じているだけで既にこの少年が不穏な空気だ。
その一味に待ち伏せされ身ぐるみ剥がれて森の中に縛って放置されるガウェインが、カメラが360度旋回して元に戻ると白骨化している。このひとを喰った演出と時の流れは、まさに『A GHOST STORY』の再来ではないか。
白骨から元に戻ったガウェインは、その後聖ウィニフレッド(エリン・ケリーマン)と出会い、彼女の為にコテージのそばの泉から切り落とされた彼女の頭部を探しだしてあげる。
その後も、喋るキツネを旅の道連れにしたり、「進撃の巨人」のような半裸の巨人女性たち(トールキンの世界観っぽい)に遭遇したりと、不思議な冒険の旅を続ける。
騎士として約束した以上、たとえ納得がいかなくても、グリーン・ナイトが待つ場所へ赴かなければ。その思いだけがガウェインを動かす。
ガウェインといえば、アーサー王の円卓の騎士でも最も優秀と言われる傑物らしい。懐かしき円卓の騎士映画『エクスカリバー』(1981、ジョン・ブアマン監督)で、ガウェインを演じたのがリーアム・ニーソンだったのも肯ける。
だが、本作の冒険の旅では、特にガウェインが剣の腕を披露することもない。それどころか、恋人エセルに似た人妻ベルティラック夫人(アリシア・ヴィキャンデルの二役)に誘惑され、関係を持ちそうにすらなる始末。
城主ベルティラックとの約束
以下、ネタバレになるので、未見の方はご留意をお願いします。
さて、ガウェインが旅の終盤で世話になるのが城主ベルティラック(ジョエル・エドガートン)。
「狩りで手に入れた獲物と、城内で手に入れた物を交換しよう」
ベルティラックにそう提案され、彼はそれを受けいれる。どっちが狩りをするのか混乱したが、ベルティラックは旅仲間のキツネを捕まえたらしく、それを差し出す。
ガウェインが城内で手に入れたのは、夫人からもらった緑の腰帯だ。だが、彼はそれを渡さず、契約不成立となる。
この時、ベルティラックからガウェインにキスするのだが、その意味が分からなかった。
ガウェインは夫人と親密になったのだから(最後は理性が勝ったとしても)、夫人から受けたキスをガウェインからベルティラックに返して交換条件を成立させるのなら、まだ理解できるが。
そしてグリーン・ナイトに再会
そしてついにガウェインは約束の地でグリーン・ナイトに再会し、首に一撃を浴びることとなる。だが、直前に彼はひるむ。
その後、彼が生きたまま故郷に戻り、英雄となりエセルに産ませた子供を奪い、他の女(ミーガン・ティアナン)と結婚し、やがて悪政を敷いて首を刎ねられる。
そんな幻視をみたガウェインが覚悟を決め、グリーン・ナイトに首を差し出す。
「よくやった。首と共に帰れ」
ここでエンドロールだ。最後のグリーン・ナイトの笑みから、騎士として約束を守り、命を捨てる覚悟をしたガウェインの資質を称えたということなのだろう。
つまりこの首切りゲームを魔術で仕込んだ彼の母は、息子の成長を期待したということか。童話のような寓意を読み取れる内容だが、原作にある「グリーン・ナイトの正体はベルティラックだった」というオチは排除したようだ。
◇
アーサー王の円卓の騎士の物語も、デヴィッド・ロウリー監督とA24の手にかかると、かくも不可思議なテイストの作品になるのか。
エンドロール後に登場するのは王冠で遊ぶガウェインの幼い娘。父は写ってないけど、死んじゃっているわけではないだろうな。