『天才スピヴェット』考察・ネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『天才スピヴェット』今更レビュー|なんで犬の名前がタピオカなんだろう

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『天才スピヴェット』
L’extravagant voyage du jeune et prodigieux T.S. Spivet

ジャン=ピエール・ジュネ監督がモンタナを舞台に描く天才少年のロードムービー。

公開:2013 年  時間:105分  
製作国:フランス

スタッフ 
監督・脚本:  ジャン=ピエール・ジュネ
脚本:        ギョーム・ローラン
原作:         ライフ・ラーセン
    『T・S・スピヴェット君 傑作集』

キャスト
T・S・スピヴェット:
          カイル・キャトレット
クレア(母): ヘレナ・ボナム=カーター
ジブセン:     ジュディ・デイヴィス
テカムセ(父): カラム・キース・レニー
グレーシー(姉): ニーアム・ウィルソン
レイトン(弟):ジェイコブ・デイヴィーズ
トゥー・クラウズ:   ドミニク・ピノン
ロイ(キャスター):  リック・マーサー
リッキー(運転手):
        ジュリアン・リッチングス

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

(C)EPITHETE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

    あらすじ

    米モンタナに暮らす10歳の少年スピヴェット(カイル・キャトレット)は、天才的な頭脳の持ち主。

    しかし、時代遅れなカウボーイの父と昆虫の研究に夢中な母、アイドルになりたい姉という家族に、その才能を理解してもらえない。さらに弟が突然死んでしまったことで、家族は皆、心にぽっかりと穴が開いていた。

    ある日、スミソニアン学術協会から権威ある科学賞がスピヴェットに授与されることになる。家族に内緒で家出をし、数々の困難を乗り越えて授賞式に出席したスピヴェットは、受賞スピーチである重大な真実を明かそうとする。

    今更レビュー(ネタバレあり)

    ジャン=ピエール・ジュネの持ち味が薄い

    モンタナの牧場に育った天才少年T・S・スピヴェットが、永久運動機関を発明し、スミソニアン学術協会から権威あるベアード賞を受賞する話。

    協会は相手が子供だとは夢にも思っていないが、あることが原因で、少年ははるばるワシントンDCまで無賃乗車の旅に出る。

    ライフ・ラーセンによる原作は、マーク・トウェイントマス・ピンチョン『リトル・ミス・サンシャイン』をひとつにした宝物のような小説だと、スティーヴン・キングが評している。

    私は未読であるが、確かに映画から『リトル・ミス・サンシャイン』は感じ取れた。

    『天才スピヴェット』という邦題は原題の一部から訳したものだが、T・Sという彼のファーストネームが天才の略にも思えて、ちょっと面白い。

    監督は『アメリ』ジャン=ピエール・ジュネ。随所に彼らしい遊び心の小ネタが仕掛けられているのは嬉しいのだが、正直、本作を彼の作品と思うには苦労がいる。

    だって、冒頭が雄大なモンタナの大自然の中、牧場で仲良くやんちゃに兄弟で遊ぶT・S・スピヴェット(カイル・キャトレット)と双生児の弟レイトン(ジェイコブ・デイヴィーズ)のシーン。これは、雄大で健康的かつ牧歌的すぎる。

    (C)EPITHETE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

    舞台がアメリカなら当然会話も英語。ジャン=ピエール・ジュネが英語の作品を撮るのは、忌まわしい『エイリアン4』(1997)以来か。

    個人的な思いとしては、シニカルなネタと、ダークな雰囲気、ゴチャゴチャしたパリの街並みと、聞き取れないけどフランス語、そしてバンドネオンのようなノスタルジックな音楽、これらが全てジュネ作品の魅力なのだが。

    とはいえ、本作はけして大味なハリウッド作品ではない。野外のロケ地もスタジオもすべてカナダで、米国では1カットも撮っていない。最終編集権を自分の手に残すために、フランス映画にこだわったという。その辺はいかにもジュネらしい。

    しかも本作は監督としては初めて3D映画にも取り組んだ。あいにく私は通常版でしか観ていないが、公開当時、本作の3Dは結構楽しいという声が多かった気がする。

    スピヴェット一家

    さて、この天才少年T・S・スピヴェット。あまりに優秀すぎて、小学校でも理科の先生と口論しては、最後に自分の記事が掲載された科学雑誌を見せるなど、ちょっと小賢しいガキに見えるところもある。でも天才とはいえ、まだまだ子供なのだ。大目に見よう。

    牧場主の父テカムセ(カラム・キース・レニー)は酒好きで根っからのカウボーイ。自室はまるでカウボーイ博物館の一室のように古風なスタイルの頑固者。母クレア(ヘレナ・ボナム=カーター)は昆虫学者で、幻の甲虫を追い求めている。

    まるで性格の違う二人がどうやって出会い、結婚したか想像がつかないが、夫婦に強烈な個性を持たせるのは、『デリカテッセン』からのジャン=ピエール・ジュネ監督お馴染みのスタイル。

    ハリウッドスターになるのを夢みる姉のグレーシー(ニーアム・ウィルソン)は、モンタナの田舎町に燻っている自分に耐えられない。

    (C)EPITHETE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

    そして、T・S・スピヴェットと仲のよい双子の弟レイトンは、動くものを撃ちたがるガンマニア。だが、このレイトンがある日、銃の事故で死んでしまう。

    この悲劇が物語を転がし始める。レイトンは自分なんかより、はるかに家族に愛されていたのに。スピヴェットは悩んだ挙句、スミソニアン学術協会の授賞式に出席するために、黙って家を出てワシントンDCに向かう。

    列車の旅が始まる

    ここから先はロードムービー的な様相で、ワイオミング、ネブラスカ、そしてシカゴと進んでいく。

    とはいえヒッチハイクなどという安易な手ではなく、巧妙に列車を停めては、土砂運搬用のベルトコンベアで貨物車に入り込み、あとは人目を逃れて無賃乗車を続けるスピヴェット

    道中に彼が出会う、或いは追いかけられる人々が誰もみな味わい深い面白キャラで、なんとも楽しくなってくる。

    無賃乗車を追う人のいい警官、車窓で目が合う逆さブランコの少女、列車庫に住む謎の老人、ホットドッグ屋のおばさん、そして最後にはトラック運転手に拾われて、ついに少年は目的地へと到達する。

    夜の駅で出会う謎の老人がジュネ作品の常連ドミニク・ピノンなのは、あれだけ変装していてもすぐに分かってしまう。

    (C)EPITHETE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

    さあ、授賞式には何が待っているのか。ここからはネタバレになるので未見の方はご留意ください。

    お人好しの私は、訪ねてきたのが子供だとスミソニアン学術協会のスタッフたちが驚く姿を見て、アカデミックな彼女たちはこの天才少年に心底驚いて、畏敬の念を抱いてくれているのだと早合点した。

    だが、協会の実質的な責任者ジブセン(ジュディ・デイヴィス)は、スピヴェット少年の理解者のふりをして、彼の才能と年齢的な話題性を、うまく協会のために政治利用することを画策する。

    スピヴェットが抱えていた苦しみ

    スピヴェットは受賞スピーチを大勢の列席者の前で披露する。このスピーチのシーンは素晴らしい。カイル・キャトレットは膨大な台詞をしっかりと自分のものにし、少ないテイクで見事に撮り終えたという。

    その真骨頂は、少年がポイントは三つあるといいながら、当初言い忘れていた三番目の真実。それは、銃の事故で死んだ弟のレイトンに関することだった。

    (C)EPITHETE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

    レイトンの遊んでいた銃が詰まってしまったのをスピヴェットが直そうとした。引き金には触っていないが、銃は暴発した。

    少年は、自分を責めずにはいられなかった。彼はその大きな心の傷を、スピーチの最中に一瞬だけ感情を露わにして語る。その後、すぐに淡々と語り終えるところが、そこらの泣かせ映画とは違うジュネらしさか。

    スピーチが終わり、テレビ番組のキャスター・ロイ(リック・マーサー)がスピヴェットに独占インタビューを仕掛ける。

    ここでサプライズ・ゲストの母クレアが登場するが、番組などそっちのけで、心から詫びた後に我が子を抱き締める。

    「子供に銃を持たせて、見ていなかった親が悪いのよ。悲しい事故だったけど、あなたに罪はない」

    (C)EPITHETE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

    その後に父テカムセもスタジオに現れて、両親揃って、周囲の連中をぶん殴って、少年を連れてモンタナに戻る。

    日本では子供が猟銃で遊ぶことなど考えにくいが、ここは銃社会アメリカ。冷静に考えれば、母親のいうように、弟レイトンの死はこの親たちの責任なわけだが、最後に両親が我が子を守ってスタジオから光り輝く戸外に出ていくところ、感動をくれる。