『神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』
入江悠監督がラッパー映画の次に撮ったのは、神聖かまってちゃんのライブ活動と、それに惹かれるファンたちの群像劇。
公開:2011 年 時間:89分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 入江悠 キャスト 成田美知子: 二階堂ふみ 飯島かおり: 森下くるみ 飯島りょうた: 坂本達哉 ツルギ: 劔樹人 神聖かまってちゃん: 本人 (の子 mono ちばぎん みさこ) 美知子の彼氏: 宇治清高 美知子の親友: 三浦由衣 美知子の父: 中村育二 美知子の母: 大沼百合子 飯島健介: 大西信満 ツルギの上司: 堀部圭亮 広告代理店: 野間口徹 保育園園長: 河屋秀俊 かおりの隣人: 坂井真紀 棋士: 水澤紳吾、駒木根隆介
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
プロ棋士になる夢を抱く女子高生の美知子(二階堂ふみ)は、彼氏に「神聖かまってちゃん」のライブに誘われるが、その日はアマ王座決定戦の決勝戦だった。
一方、昼夜を問わず働くシングルマザーのかおり(森下くるみ)は、神聖かまってちゃんのネット動画に夢中な息子が保育園で問題を起こして厳重注意を受けてしまう。
今更レビュー(ネタバレあり)
かまってちゃんは誰?
入江悠監督が『SR サイタマノラッパー』北関東三部作の二本目までを仕上げた後に撮った作品。主演の二階堂ふみは、本作が映画初主演となる。
てっきり彼女が<かまってちゃん>キャラの女性主人公を演じるのだと思っていたが、人気バンド「神聖かまってちゃん」の名曲群をモチーフにオリジナル脚本で撮り上げた青春群像劇なのだった。
◇
不勉強にして、このバンドについてはまったく存じ上げなかった。その一種独特な音楽性、とくに独創的なボーカルの節回しに序盤から唖然となり、拒絶反応を示してしまったが、映画が進むにつれて身体が順応していく。
しまいにはついつい映画のサントラまで聴いてしまった。「神聖かまってちゃん」の音楽には、不思議な中毒性があるのかもしれない。
プロ棋士をめざす女子高生
群像劇は大きく三つのエピソードが同時並行で走っていく。
まずは、プロの棋士を目指す女子高生・美知子(二階堂ふみ)の話。
アマ王座決定戦の決勝に勝ち進む実力の持ち主だが、彼氏(宇治清高)には将棋なんてカッコ悪いとバカにされ、大学に進学しないことで両親とも険悪になる。
だが、そんなことには一向にめげない美知子のタフさと豪快さ、そして鋭い目力。これ以降順風満帆に女優業を進んでいく二階堂ふみの演じるキャラの基本形は、まさに本作で形成されたともいえるフィット感だ。
彼氏に誘われた「神聖かまってちゃん」のライブとアマ王座決定戦の決勝の日が重なり、ライブを選ぶつもりが彼氏は美知子の親友(三浦由衣)と浮気。
満身創痍で臨む決勝戦。将棋の駒を盤に置く美知子の指さばきは、練習の成果あり。アマ王座戦の対戦相手に水澤紳吾と駒木根隆介というレペゼン・サイタマの二人。勿論、ラップはなしだけど。
◇
「大学行かないのなら、この家出てけ!」と娘を叩く父親(中村育二)のメイクが濃すぎるのか、まるで自宅の居間が新宿三丁目のバーに見えて笑える。
<あるてぃめっとレイザー!>を聴きながら夜道を自転車爆走させる二階堂ふみがいい。なお、二階堂ふみは本作に続き入江悠監督の『日々ロック』(2014)にも出演。
保育園児の息子を抱えるシングルマザー
続いてのエピソードは、夫と別れ、昼は清掃、夜はポールダンサーで子どもを養うシングルマザーのかおり(森下くるみ)。
保育園に通う息子のりょうた(坂本達哉)は、父の残したPCで「神聖かまってちゃん」のニコ動に夢中になっている。
りょうたに感化され、園児たちは「神聖かまってちゃん」の曲を歌うようになるが、その不穏な歌詞で、保育園の保護者会から母子はバッシングを受けてしまう。
元AV女優の森下くるみの映画初出演。言うことを聞かない息子につい厳しく接してしまう、重労働の母親役を好演。誰に言われるでもなく、りょうたの指揮で園児たちが<芋虫さん>を合唱する。
「死にたいなあ 生きたいなあ どっちでもいいや」
歌詞とメロディ、そして園児の歌声の組み合わせがシュールだ。これを頭ごなしに排除しようとする母親たちの了見の狭さ。板挟みの園長役には『れいこいるか』(いまおかしんじ監督)の河屋秀俊。いい味を出す。
「神聖かまってちゃん」のマネージャー
最後のエピソードは、「神聖かまってちゃん」のメンバーが本人役で登場。ただし、メインは彼らではなく、そのマネージャーのツルギ(劔樹人)だ。
ツルギは上司の音楽プロデューサー(堀部圭亮)と、大手広告代理店のクリエイター(野間口徹)から、「神聖かまってちゃん」の企画提案を受ける。
彼らの曲<ロックンロールは鳴り止まないっ>を引きこもり撲滅キャンペーンの応援ソングにしようというのだ。そのポスターが、まあダサい。
彼らの音楽性を信じ、ツルギはその提案をメンバーに告げられず悶々としていたが、彼らの好きにやらせてあげたいという思いから、上司に盾突く道を選ぶ。なかなかカッコいい。
というか、堀部圭亮と野間口徹が雁首を揃えている時点で、二人が憎まれ役でこの企画が的外れなことがすでに観る者の共通認識になっているところが面白い。
そしてライブは始まる
てなわけで、3つのエピソードはクライマックスである「神聖かまってちゃん」のライブに向けて収束していく。
歌だけではなく、ステージ上の動きも独創的なボーカルの の子、そしてmono・ちばぎん・みさこというメンバーが数曲を披露する。
ここまでのドラマ展開のおかげで、一見さんには取っつきにくい彼らの歌の世界観に身体が馴染んでいる。
失礼ながら、はたして彼らの音楽で、ロックを題材にした映画が成立するのか当初は疑問だったが、杞憂だったようだ。むしろ、この曲で映画を撮りきっているところに存在意義さえ感じる。
「10年後に生き残ってなくていいです。だから、彼らに応援ソングなんてやらせない」
上司に啖呵をきったマネージャーのツルギの言葉が頭をよぎる。引きこもりの若者の心に届くかもしれないが、それが応援になるかどうかは、受け手が決めることだ。
本作は群像劇といいながら、ポスタービジュアルは二階堂ふみが圧倒的メインであり、また肝心の「神聖かまってちゃん」のメンバーは、映画では申し訳程度の演技しかしていない。
入江悠監督の出世作『SRサイタマノタッパー』や、例えば『さよならくちびる』(塩田明彦監督)のハルレオのように、ミュージシャン主役の映画なら、もっとストレートに感動が伝わっただろう。
各エピソードの熱量がイマイチ噛み合っていないのが勿体ない。
◇
なお、ラストでは「神聖かまってちゃん」のライブが、美知子の引きこもりの兄の部屋のドアを開けることに成功する。ダサいポスターなどなくても、歌は心に届いたのだ。「よっしゃーっ!」