『ナイブズ・アウト/グラス・オニオン』
Glass Onion: A Knives Out Mystery
ダニエル・クレイグ演じる名探偵ブノワが帰ってきた。今度の相手は、エドワード・ノートン演じる大富豪。
公開:2023 年 時間:139分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: ライアン・ジョンソン キャスト ブノワ・ブラン: ダニエル・クレイグ マイルズ・ブロン: エドワード・ノートン アンディ・ブランド: ジャネール・モネイ クレア・デベラ: キャスリン・ハーン ライオネル・トゥーサン: レスリー・オドム・Jr バーディ・ジェイ: ケイト・ハドソン ペグ: ジェシカ・ヘンウィック デューク・コーディ:デイヴ・バウティスタ ウィスキー: マデリン・クライン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
ポイント
- 前作も好評だったが、けして二番煎じにはなっていないし、自らのオリジナル脚本で勝負するライアン・ジョンソン監督、さすがっす。
- 気軽に楽しめる探偵もののミステリーという点では安心の出来栄え。エドワード・ノートンの憎まれ役も何だか嬉しい。
あらすじ
IT企業の大富豪マイルズ・ブロン(エドワード・ノートン)が、地中海にあるプライベートアイランドに親しい友人たちを招待し、ミステリーゲームの開催を持ちかける。
ところが島で実際に殺人事件が発生。遊びだったはずのゲームは一転して恐ろしい事件となり、参加者は容疑者候補になってしまう。
名探偵ブノワ(ダニエル・クレイグ)は友人同士のなかで交錯する思惑や、その裏に隠された真相を明らかにすべく、事件の調査に乗り出す。
レビュー(まずはネタバレなし)
寄木細工の招待状
前作『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)で古典ミステリーの現代解釈のようなオリジナル脚本で新たな才能を見せたライアン・ジョンソン監督が、ダニエル・クレイグとのタッグで贈る第二弾。
コロナ禍のロックダウンで自宅に引きこもって活躍の場がない名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)に、お誂えのような殺人事件の招待状が舞い込んでくる導入部分。
◇
相変わらず、ブノワはあくまで推理で勝負の探偵でアクション派ではない。
また、孤島で起こる殺人事件という古典的な舞台設定の中に、コロナ社会でのファッション消費動向やユーチューバーの台頭など、現代風のアレンジを加えるところもライアン・ジョンソン監督のスタイルとして定着している。
まずは序盤に、住む世界も仕事も異なる男女5人にマイルズから招待状が届く。といっても手紙ではなく、最新技術で作り上げた寄木細工の大きな秘密箱のようなものだ。
受取人たちが相談しながら、次々と現れる仕掛けを解いていく流れは面白い。まるで、凝り過ぎて実用的でないジェームズ・ボンドのスパイ道具だ。
玉ねぎの下のミステリーパーティ
こうして謎を解いた招待客たちが、大富豪マイルズ・ブロン(エドワード・ノートン)の待つギリシャの孤島へとクルーザーで向かう。その中の一人がブノワというわけだ。
彼を除いて他の招待客はみなマイルズの知人であり、毎年このイベントに集まっているらしい。それはマイルズが自らの殺人を皆に推理させる「マーダー・ミステリー・パーティー」。
そして当然の流れとして、今回はそこに実際に殺人事件が起きてしまうという展開になる。
前作では、嘘をつくと吐いてしまうという特異体質キャラのヒロイン(アナ・デ・アルマス)のおかげで、ややコメディ色が強かった。今回もけしてシリアスタッチとは言わないが、おふざけ演出はさほど目立たないのは好感。
タイトルにある<グラス・オニオン>とは、マイルズの暮らすこの大邸宅の最上部にあるガラス張りの玉ねぎのようなホールのことだが、同時に、中身は良く見えるのに、容易に到達できない(解明できない)もののメタファーとなっている。
本来は、彼らが若い頃にたまり場としていたバーの名前が<グラス・オニオン>で、そこで今のマイルズのビジネス成功のアイデアが生まれた。
登場人物について
ブノワ・ブラン
名探偵ブノワ・ブラン役のダニエル・クレイグはすっかり定着した感ありで、もはやアストン・マーティンを大破させたり、上質なスーツ姿で撃ち合いをしたりしなくても不足感はない。
本人もノリノリで演じている雰囲気満々。推理の手腕を早速発揮して、マイルズに商品のipadをもらう場面にニヤリ。
マイルズ・ブロン
マイルズ・ブロンは巨大ハイテク企業アルファ社の創業者にして億万長者。
演じるはエドワード・ノートン、自ら監督・主演の『マザーレス・ブルックリン』(2019)以来最近あまり見かけない。『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』くらいか。
今回は久々に、エドワード・ノートン得意のふてぶてしい天才肌の男が堪能できて嬉しい。
ライオネル・トゥーサン
ライオネル・トゥーサンは科学界のトップへと上り詰めた切れ者のサイエンティスト。
マイルズの部下で、海水から抽出可能な新固形水素燃料<Klear>を有人ロケットに使う許可を出した。演じるレスリー・オドム・Jrは、本作の対抗馬ともいえるシリーズ『オリエント急行殺人事件』(2017)ではポアロを助ける医師役をやった舞台俳優。
バーディ・ジェイ
バーディ・ジェイ(ケイト・ハドソン)は元ファッションアイコン。マイルズの援助で高級ジャージ<スウィーティー・パンツ>を発売し、それがパンデミックによるロックダウン期間に大流行。
そしてペグ(ジェシカ・ヘンウィック)は長年バーディに付き従うアシスタント。スウィーティー・パンツの製造拠点であるバングラデシュの劣悪環境に関するバーディの責任の声明発表をマイルズから迫られている。
クレア・デベラ
クレア・デベラ(キャスリン・ハーン)はコネチカット州知事。普通の主婦でありながら既存政治に囚われずに州知事になった。マイルズから援助を受けていて、新固形水素燃料<Klear>に関わる発電所の事業計画を認可した。
ケイト・ハドソンとキャスリン・ハーンって『10日間で男を上手にフル方法』(2003)で共演の二人だったねえ、懐かしや。
デューク・コーディ
デューク・コーディはかつてTwitch初の100万フォロワーを抱えていたインフルエンサー。マイルズの支援を受けて、Youtubeへと活躍の場を移す。
演じるは、屈強な体型で分かるデイヴ・バウティスタ。海パンから銃を取り出して撃つマッチョな姿が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』だ。本シリーズのマーベル俳優枠は、前作のクリス・エヴァンスからエドワード・ノートンになったのではなく、こっちか。
そして、ウィスキー(マデリン・クライン)はデュークの恋人でチャンネルのアシスタント。知名度アップのために、デュークの配信に参加。
アンディ・ブランド
そして最後がカサンドラ・“アンディ”・ブランド(ジャネール・モネイ)。テクノロジー起業家でありマイルズと共にアルファ社を創業した元ビジネスパートナーだが、彼の逆鱗に触れ、追放される。
起業のアイデアは自分のものだと紙ナプキンに書かれたアイデアの知的所有権を争ったが、現物がないために敗訴する。なぜ彼女が今回招待に応じて現れたのかは謎。
◇
この中で、招待状をもらった5人が、マイルズとともに、それぞれの世界で旧来の枠を破って成長した<破壊者>ということらしい。
カメオ出演
カメオ出演は遊びすぎ。クルーザーの前でコロナワクチン銃を撃つイーサン・ホーク、ブノワと同棲のヒュー・グラント、オンラインゲームの相手に本作が遺作となったスティーヴン・ソンドハイム(昨日『tick, tick…BOOM!』で観たばかりの伝説の人だ!)。
あと大物ではヨーヨー・マとかセリーナ・ウィリアムズも。この辺は悪ノリな感じだが、みんなロックダウンで時間があったのかな。
ちなみに、マイルズの島に暮らす不思議な流れ者には、ライアン・ジョンソン監督作品にはデビュー作以来常連のノア・セガン。前作にも警官役で参加。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
さて、マイルズはブノワを招待した覚えはないという。誰かの策略で会場に呼ばれたのかと思ったが、実はそうではない。
アンディは既に自殺していたとされていたのだが、双子の妹のヘレンが、死ぬ直前に、姉が「証拠の紙ナプキンをみつけた」と関係者にメールを送ったことを知る。ヘレンは、姉は殺されたのだと確信、ブノワに真相究明を依頼したのだ。
◇
この経緯が明かされると、物語は俄然面白くなる。正直いうと、密室である孤島でゲストが一人ずつ殺されていく話なら、過去に傑作も多く、見飽きた感があった。
本作もその系統だと疑わなかったが、はじめに意外な人物が死んでから、死体は単純に増えていかない。というか、増えたかと思ったら元に戻ったりで、けしてシリアルマーダーケースにならないところが新鮮だった。
フランス政府から高価で借りだした「モナリザ」の絵と音を感知して開閉する保護ガラスの仕組み、ジェレミー・レナーの顔が付いたチリソースの瓶(ポール・ニューマンのドレッシングから発想?)、パインジュースのカクテル、燃料が充満して爆発するヒンデンブルグ(飛行船)。
ちょっとした会話や小道具が後半にきちんと回収されるところは、さすがミステリー好きのライアン・ジョンソン監督。
◇
前作に続き、本格ミステリーとしては疑問の残るオチではあるが、誰も本格だなんて宣言してないし、楽しめることは請け合い。前作の二番煎じではない面白さがあった。