アメリカの友人(1977)
リプリーズ・ゲーム(2003)
『リプリーズ・ゲーム』
Ripley’s Game
公開:2003 年 時間:110分
製作国:イタリア
スタッフ 監督・脚本: リリアーナ・カヴァーニ 原作: パトリシア・ハイスミス 『アメリカの友人』 キャスト トム・リプリー: ジョン・マルコヴィッチ ジョナサン・トレヴァニー: ダグレイ・スコット リーヴス: レイ・ウィンストン サラ・トレヴァニー: レナ・ヘディ ルイーザ・ハラーリ: キアラ・カゼッリ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
今更レビュー(ネタバレあり)
もうひとつの「アメリカの友人」
本作は日本ではDVDのみの未公開作品だが、畏れ多くもヴェンダースと同じ『アメリカの友人』の映画化を試みている。
ヴェンダース監督作品は同じパトリシア・ハイスミスによる『贋作』からも一部取り込み、また終盤の展開は原作をだいぶアレンジしている。その意味では、本作の方が原作に忠実なことは認める。
終盤にある、リプリーの邸宅にジョナサンと二人でこもり、敵の襲撃に備えて返り討ちにしようとする展開も、原作に近い。
だが、皮肉なことに、まったく冴えない。ヴェンダース版『アメリカの友人』の面白さに改めて感じ入る。
キャスティングとキャラ造形
キャスティングと、主要キャラの設定がなっていないと思う。今回トム・リプリーはジョン・マルコヴィッチだ。役者としては申し分ない。
だが、アラン・ドロンやデニス・ホッパーのイメージが刷り込まれている身には、頭が禿げあがって怪僧のような風貌のマルコヴィッチは、リプリー役にはアクが強すぎる。不気味すぎるのだ。
冒頭に取引相手の用心棒を殴り殺すのも、好戦的すぎてリプリーの洗練さがない。まあ、勝手なイメージといえばそれまでだが。
◇
そして額縁職人のジョナサン(ダグレイ・スコット)もいい男すぎ。もっと、誠実そうで無骨な男でないといかん。
それに、この物語は彼が初対面のリプリーに「お噂はかねがね」と嫌味っぽく言ってしまった一言が、彼の反感を買うところからゲームが始まるわけだが、本作のジョナサンは、ホームパーティでリプリーの陰口をもっと叩いている。
つまり、その後殺人をしでかす羽目になっても、あまり同情する気になれないのだ。
また、ヴェンダース版や原作では、善良な市民のジョナサンが、地下鉄の駅で委託殺人を本当にするのか、無事に終わるのかでハラハラさせるのが大きな魅力だった。
だが、本作ではジョナサンは検査結果が悪かったと医師から聞いただけで、すぐ銃を受け取って殺す気になる。場所も人気のない水族館・昆虫館の館内で危なげなく射殺し、スリルは皆無だ。
そして、二度目の電車内の委託殺人などは、突然現場のトイレに現れるリプリーも滑稽だし、ジョナサンが、およそ殺人に対して恐怖感も興奮も感じてなさそうなところに違和感がある。
◇
殺人の委託者であるリーヴス(レイ・ウィンストン)もただの間抜けな裏稼業の男であり、二度目の殺人にリプリーが加担することも最初から聞いていたり、妻子が心配だなとジョナサンを脅迫したりと、あまりにキャラ設定が薄っぺらい。
リーヴスはヴェンダース版ではもっとミステリアスだったし、原作でも気骨のある人物として描かれているのに。
原作に近いのは認めるが
終盤の、リプリーとジョナサンが屋敷にこもり、恨みを買ったマフィアの襲撃を待ち構えるシーンは原作に近い。
だが、本当に敵など来るのかと不安になった頃に何者かが呼び鈴が押す原作と違い、映画では銃を持った男たちが屋敷を囲んでいるのをはじめから見せる。ここもハラハラとは無縁だ。
◇
結局、表面的には原作に近い映画になっているが、雑な演出のために、ヴェンダース作品には見られた映像的な美しさや本質的なサスペンスの面白さが、欠落してしまったのではないか。
唯一、ジョナサンがラストに身を挺してリプリーを救うところは、ヴェンダース版にはなかった男の友情といえる気がするが。