『RAW 少女のめざめ』考察とネタバレ|食肉を生で食べることは危険です(by厚生労働省)

スポンサーリンク

『RAW 少女のめざめ』 
 Grave

ボディホラーの新鋭女性監督ジュリア・デュクルノーによる、官能的なカニバリズム世界への招待状。

公開:2018 年  時間:98分  
製作国:フランス
 

スタッフ 
監督:    ジュリア・デュクルノー

キャスト
ジュスティーヌ:ギャランス・マリリエ
アレクシア(姉):  エラ・ルンプフ
アドリアン: ラバ・ナイト・ウフェラ
姉妹の父:     ローラン・リュカ
姉妹の母:    ジョアナ・プライス

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

ポイント

  • ジュリア・デュクルノー監督の美しくもエグいボディホラーの世界を堪能したければ、まず本作あたりから入るのがオススメ。
  • なるほど、ベジタリアンの同志少女よ肉を喰え。それも生肉を、か。新たなる時代の『キャリー』なのかも。

あらすじ

厳格なベジタリアンの獣医一家に育った16歳のジュスティーヌ(ギャランス・マリリエ)は、かつて両親が学び、姉アレクシア(エラ・ルンプフ)も通う獣医学校に進学する。

見知らぬ土地での寮生活に不安な日々を送る中、ジュスティーヌは上級生からの新入生通過儀礼として、生肉を食べることを強要される。

学校になじみたいという思いから家族のルールを破り、人生で初めて肉を口にしたジュスティーヌ。その行為により本性があらわになった彼女は次第に変貌を遂げていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

『TITANE』の前の入門編

ジュリア・デュクルノー監督がカンヌでパルムドールを獲った『TITANE/チタン』(2021)は、あまりにぶっ飛んだ展開のボディホラーに正直ついていけなかったのだが、その原点ともいえる本作には関心があった。

今回観てみると、これが面白い。勿論、『TITANE』同様に目をそむけたくなるようなエグいボディホラーは本作でもテンコ盛りで、すでにジュリア・デュクルノー監督が敬愛するクローネンバーグの影響は強く感じられるが、本作ではまだマイルドで、かつ繊細に思える。

私は観る順序を誤ったのだろう。本作から彼女の作品に出会っていれば、それこそ<少女のめざめ>の副題にふさわしく、デュクルノー流の作品世界に徐々に慣れ親しむことができ、次作にも心身の準備ができた気がする。最初に『TITANE』は上級者コースすぎた。

(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

アバンタイトルでは、田舎の人気ない国道を走るクルマが突然飛び出した歩行者をよけきれず並木に激突する。その歩行者は悠然とクルマに近寄りドアを開ける。このシーンの意味は、後半にわかる。

タイトルに続き、主人公のジュスティーヌ(ギャランス・マリリエ)登場。ベジタリアンである彼女は、両親に連れられ、獣医学校のキャンパスに向かう。

両親もかつて通ったこの学校には現在、上級生で姉のアレクシア(エラ・ルンプフ)も学んでおり、ジュスティーヌは新入生として寮生活を始めるのだ。

(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

いじめ真っ盛りの学園寮生活といえば

本作に明るく楽しいキャンパスライフのシーンは微塵もない。

寮には絶対的な権力をもつ上級生たちの組織が、新人の寝具を窓から放り投げるわ、新入りを集団で深夜に犬のように野外を四つ這いで歩かせるわパゾリーニか)、最後には集団で乱交パーティ。いやはや、恐ろしい学校だ。

寮でも学校でも、至る所で先輩たちにいじめを受けるジュスティーヌ。夢と希望に溢れていたはずの、優秀な学生の落胆と苦悩。そして獣医学校ならではの、獣の血を浴びせる系の先輩たちのいたずら。

古典的ホラーの『キャリー』(1976、ブライアン・デ・パルマ監督)から『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021、エドガー・ライト監督)まで、この手の映画は気弱な女性主人公に何かの能力が覚醒してしまうもの。本作もまさにその予感が濃厚だ。

そのきっかけとなるのは、上級生が通過儀礼的に新入りに食わせるウサギの腎臓。当然、アレルギー体質だからとジュスティーヌは頑なに拒む。

「私が本当にベジタリアンなのは、姉に聞けば分かるわ」

だが、その場にいたアレクシアは妹の言い分を無視し、強引に生肉を食わせる。何という姉だ。このまま痙攣でも起こして倒れるかと思ったが、そんなヤワな演出では監督の趣味ではない。

その晩、布団の中で、体中に湿疹ができ、全身が赤くただれ、あまりの痒さに皮膚をかきむしるジュスティーヌ。そのうち皮膚はボロボロになっていく。

ああ、この気色悪さがジュリア・デュクルノー監督。とてもポップコーンを頬張りながら観られる映画ではない。アレルギーによる発疹はやがて治まるが、ここから少女のめざめが始まる。

(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

ジュスティーヌ、アレクシア、アドリアン

本作の原題である”Grave”はフランス語で「深刻な」という意味とのことだが、英語圏では「墓」のイメージが強いからか、他国では共通で”RAW”を採用している。単純に「生肉」という意味もあるが、「加工していない、剥き出しの人間性」みたいな意味も含めているのだろう。

獣医学校という場面設定もうまい。動物の解剖実験もあり、内臓や血液にも事欠かないし、アレクシアが牛の直腸に腕を突っ込むシーンのグロさも監督好みだろう。但し、これは『銀の匙 Silver Spoon』(2014、吉田恵輔監督)で岸井ゆきのが先にやってますな。

本作はジュスティーヌとアレクシアの仲がいいのか悪いのかコロコロ変わる姉妹と、ジュスティーヌのルームメイトでゲイの男性アドリアン(ラバ・ナイト・ウフェラ)の三人で、ほぼ物語が進行する。

アドリアンは女性に性的関心はないが、姉妹双方とも親しくなり、ジュスティーヌと肉体関係を持ったりもする関係だ。

(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

ちなみに『TITANE』の主人公はアレクシア、そしてアドリアンジュスティーヌという役も登場する。役柄に本作との関連性は見受けられないが、ジュスティーヌは本作同様ギャランス・マリリエが演じており、同一人物なのかもしれない。

もっとも、『TITANE』でのジュスティーヌは獣医ではなくイベント・コンパニオン、しかも呆気なく惨殺されちゃうけど。

それにしても、ホラー映画も様々なカテゴリーに細分化できるが、まさかこういう身の毛もよだつボディホラーの分野に、ジュリア・デュクルノーのような美しき女性監督が新星のごとく登場するとは、時代も変わった。

もはや、この手の映画のエグいシーンを手のひらで顔を隠して指の間から観る女性などというのは、昭和・平成の遺物なのかも。

スポンサーリンク

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

ベジタリアンじゃなかったの?

さて、ウサギの腎臓の生肉を無理やり食べたジュスティーヌに何が起きたか。

身体に変調をきたすことは予想されたが、学食のハンバーグを万引きして白衣のポケットに入れたり(ソースが滲み出てびしゃびしゃだ)、たまの外出でアドリアンとでかけたガソリンスタンドで串肉にむしゃぶりついたり。

はじめはベジタリアンなのにおかしいなと思ったが、いつの間にか、彼女は生肉の美味しさ、滴る血のうまさ、カニバリズムの魅力に憑りつかれてしまったのだ。ベジタリアンは、体質ではなく、肉を口に入れさえないための方便か。

姉妹揃って校舎の屋上で立ちションしてみたり、痛々しい股間のムダ毛処理をやってみたりとおバカなこともしでかす二人だが、姉の指を誤って鋏で切断してしまい、その血と肉のうまそうな匂いに抗いきれないジュスティーヌ。

そしてついに、血に飢えた姉アレクシアもまた、道路に飛び出してクルマを激突させ、死者の肉に食らいつくことを繰り返している事実をジュスティーヌは知る。おお、やっと冒頭のシーンにつながった。

(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

現代のバンパイア・ファミリー

本作の終盤は、悲しい展開をみせる。ジュスティーヌが朝に目覚めると、ベッドの隣にいるルームメイトのアドリアンが動かない。下半身に目を向けると、片脚がほぼ食いちぎられ死んでいる

「なぜ、抵抗しなかったの!私を殴ればいいのに」

アドリアンを男性としてだけではなく、食欲をそそるものとして見てしまうようになったジュスティーヌはこれまで必死に耐えてきたが、ついに無意識に彼に食らいついてしまったのか。

だが、彼女は彼の背中を刺したスキーストックの傷に気づく。殺したのはアレクシアだった。

結局、アレクシアは殺人罪で収監される。だが父親(ローラン・リュカ)はアレクシアに寛容だった。

「お前も姉さんも悪くない」

ジュスティーヌの前で胸をはだけると、父の身体は傷だらけ。姉妹の人肉嗜好の血は、母(ジョアナ・プライス)の遺伝だったのだ。

途中までは、残虐で冷酷に見えた姉だが、実は妹の本当の嗜好と苦悩を知っている姉ならではの思いやりだった。そして、その血を目覚めさせぬようベジタリアンと信じさせた母も、全てを知り母の人肉嗜好を受け容れる父も、みな家族を想っている。

思えば、かつて唐十郎『佐川君からの手紙』で題材にしたパリ人肉事件も、フランスの出来事だったな。マーベルの新作『モービウス』(2022)を観て、もはやバンパイア映画は時代遅れと嘆いたが、アレンジ次第でこのような秀作もできるのだ。