『未来の想い出 Last Christmas』
藤子・F・不二雄の原作コミックを森田芳光が映画化。清水美沙と工藤静香の異色コンビで贈るタイムワープの寓話。
公開:1992 年 時間:118分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 森田芳光 原作 藤子・F・不二雄 『未来の想い出』 キャスト 納戸遊子: 清水美砂 金江銀子: 工藤静香 倉美タキオ: デビット伊東 夏木寿也: 和泉元彌 杉田行男: 宮川一朗太 宇留沢等: 橋爪功 町田: うじきつよし
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
1991年のクリスマスの夜。ぱっとしない漫画家を10年も続けてきた遊子(清水美砂)は、銀座で占い師をしている銀子(工藤静香)と知り合う。
二人は意気投合するが、翌日、別々の場所で命を落としてしまう。10年前の世界で生き返った遊子は漫画家として成功して売れっ子となる。
やがて遊子は同じように時間を戻って生き返り、ギャンブルや事業で大もうけした銀子と再会。遊子と銀子は生き返ってからの10年間、順調な人生を歩むが…。
今更レビュー(ネタバレあり)
銀座の占いの物語
クリスマス前なので、ついまた観てしまった本作。藤子・F・不二雄の原作コミックを森田芳光が映画化。
舞台は90年代初めの平成になりたての頃。まだバブルの残り香が感じられ、クリスマスを誰とどう過ごすかが、人生の一大事となっていた時代の話だ。
◇
『時かけ』のように何度も同じ一日を繰り返すタイムワープものにも思えたが、死んだあとに人生を繰り返すのだから、輪廻転生ものともいえる。
売れない漫画家の納戸遊子(清水美沙)と、結婚に失敗し離婚を考えている金江銀子(工藤静香)が銀座四丁目交差点で偶然出会い、互いの不幸自慢をするうち、親しくなる。
この、製作費の多くを費やしたという銀座和光前の交差点のセットは、なかなかゴージャスで見応えがある。和光のウィンドウディスプレイを手掛けてきた矢島治久氏による作品をそのまま拝借しているという。
銀座の町に流れる電光掲示板のニュースも全く違和感がないのだが、その内容に意味があるというのは芸が細かい。
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そして、ライバルの漫画家シマヤマヒカル(鈴木京香)に連載を先に取られ、悲嘆に暮れ歩いている遊子に、占い師の銀子が声をかける。
銀子は勢いに押され結婚した夫の杉田(宮川一朗太)の横暴さに泣かされ放しで、気晴らしに趣味で占いをしているらしい。主婦の趣味でこの一等地に占い師の看板を出すとは、なかなかの度胸だ。
人生をやり直したい二人
小学館の編集部主催のゴルフコンペに借りだされた遊子はホールインワンを出したと同時に心臓発作で倒れ、その葬儀に参列した銀子もまた、空から落ちてきた謎のクリスタルにぶつかり死んでしまう。
新しもの好きな森田芳光はゴルフボールや謎の隕石にもCGを採用するが、時代が早すぎてまだ技術が拙いのはご愛嬌。
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ともあれ、こうして一度死んだ二人は、なぜか再び10年前の1981年の人生を歩み始める。タイムワープの理由は特に解明されず、不幸比べをしていた二人は、ともに同じ過ちを繰り返さないよう、人生を再出発する。
遊子は前の人生で一世風靡した漫画(ホワッツマイケル、YAWARA!、東京ラブストーリー、美味しんぼ)を模倣して、先に自分のものにして人気漫画家として歩みだす。
一方の銀子は、かつて失敗掴みした夫(宮川一朗太)を同僚に押し付け、自分は前回取り逃したデザイナーの卵・倉美タキオ(デビット伊東)に積極アプローチする。
セクハラ・パワハラ、積極的な恋愛ゲーム、ついでに社内喫煙横行の社会の描き方が、80年代を感じさせる。
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『家族ゲーム』の教え子がそのまま成長したような宮川一朗太のキモイ感じも絶品だが、善人面で清水美沙に抱きつく、出版社担当のうじきつよしも、相当に性悪だ。
銀子の同僚の計算高い女に見覚えがあると思ったら、爆問・太田の奥さん、太田光代社長ではないか。太田光がキムタク好きを公言してたのは知ってたけど、奥様同士がこんな役で共演していたとは。
エピックソニー一色
時代の流行を覚えている遊子と銀子。遊子のマンガはヒットを飛ばし、銀子は株式で大儲けし、カリスマ投資家となっていく。
時代を彩る音楽は、タイトルチューンでもある、ワム!のクリスマス曲を筆頭に、洋楽ではフリオにEW&F、シンディ・ローパー、邦楽では元春に大澤誉志幸、米米CLUB等々、人気曲のオンパレード。
冒頭の久保田早紀「異邦人」からシャネルズ「街角トワイライト」あたりまでは良かったけど、さすがにやりすぎだ。なんだこの予算度外視の節操のなさは。
どうやらエピックソニーのご厚意で、音源好きに使っていいよと言われたことによるらしい。さもありなんだが、ベタな選曲に呆れる。
さて、二度目の人生は失敗せずに過ごすことができた二人。だが、再び死ぬ時期が近づいてくる。
今度生まれ変わったら、人まねではない自分の描きたい漫画で勝負するという遊子。恋人のタキオ(デビット伊東)を売れっ子デザイナーに育てたいという銀子。それぞれ、三度目の1981年に戻っていく。
キャスティングについて
本作はチョイ役にお馴染みのメンバーが多数出演しているのがいかにも森田作品らしいが、お堅い優等生っぽい清水美沙と、ヤンチャしちゃってゴメン系の工藤静香の異色組み合わせが、良くも悪くも印象的だ。
意外だったのは、二人の相手役。まずは銀子の恋人役のデビット伊東。昨今はお笑い芸人にもイケメンはチラホラいるが、彼などはその先駆けではないか。氏素性を知らず彼の芝居や立ち姿をみていると、まずお笑いの人だとは思えない。
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そして、遊子の恋人となる、未来を知っている風なミステリアスな若者・夏木寿也に和泉元彌。本作公開当時は襲名スキャンダルの前であり、狂言の舞台の外でどれだけ名前と顔が売れていたのか存じ上げないが、映画は初出演。
道路工事の仕事を終えたら狂言を舞うような謎の男の役なんて、和泉元彌にしかできないわ。まあ、狂言のシーンは彼のためのあて書きなのだろうけど。
パリ発成田行きルナ航空便
本作のクライマックス、フランスに滞在していた寿也が、クリスマスに遊子に会うために帰国することになる。だがそのフライトは、これまでの過去ではクリスマスに墜落してしまい大ニュースとなった便なのだ。
違う日のフライトで戻るよう懇願する遊子、だが、「不吉なこというなよ。クリスマスに他の男とでも会うのか」と寿也は聞き入れない。
さあ、はたして運命は同じ事故を繰り返すのか、それとも、彼女たちは新しい人生を切り開くことができるのか。
中盤まではマンガ的な展開(当然か)だったが、この帰国フライトをめぐるやりとりから、ドラマは盛り上がりを見せる。森田芳光監督作品としては、寄り道せずに破綻なく物語が突き進んでいくのは好感だ。
だが、大人向きの恋愛ドラマとして観るにはちょっと子供じみており、ヒット曲の安易な多用や、ボートで会話する遊子と銀子のリップシンクをわざとずらしているのか、口パクと台詞が合わずスッキリしない演出もある。
大林宣彦監督作品にはよく散見される、監督のファンなら笑って楽しめる、一般受けしない映画というヤツかもしれない。森田芳光監督ファンだけのためのクリスマスプレゼント。