『大怪獣のあとしまつ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『大怪獣のあとしまつ』考察とネタバレ|松竹と東映の初タッグが生んだ迷作

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『大怪獣のあとしまつ』

炎上商法なのか、あまりの酷評が話題になるほどの盛り上がりをみせた、小ネタのゆるさが光る三木聡監督作品。

公開:2022 年  時間:115分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督・脚本:       三木聡

キャスト
帯刀アラタ(特務隊員): 山田涼介
雨音ユキノ(大臣秘書): 土屋太鳳
雨音正彦(総理秘書官): 濱田岳
西大立目完(総理大臣): 西田敏行
五百蔵睦道(国防大臣): 岩松了
蓮佛紗百合(環境大臣): ふせえり
杉原公人(官房長官):  六角精児
中垣内渡(外務大臣):  嶋田久作
財前二郎(財務大臣):  笹野高史
竹中学(文部科学大臣): 矢柴俊博
道尾創(国土交通大臣): 笠兼三
甘栗ゆう子(厚労大臣): MEGUMI
敷島征一郎(特務隊隊長):眞島秀和
川西紫(国防軍隊員):  有薗芳記
椚山猫(特務隊員):   SUMIRE
中島隼(幕僚長):    田中要次
真砂千(国防軍大佐):  菊地凛子
八見雲登(町工場社長): 松重豊
青島涼(元特務隊員):  オダギリジョー

勝手に評点:1.5
(私は薦めない)

(C)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

あらすじ

人類を恐怖に陥れた巨大怪獣が、ある日突然死んだ。国民が歓喜に沸く一方で、残された死体は徐々に腐敗・膨張が進んでいく。

このままでは爆発し、一大事を招いてしまう。そんな状況下で死体処理を任されたのは、軍でも警察でもなく、三年前に姿を消した特務隊員・帯刀アラタ(山田涼介)だった。

レビュー(まずはネタバレなし)

それでも何か書かずにはいられない

今更ここに書き連ねたところで、すでに世間的には酷評が出尽くした感があるだろうことは承知している。だが、怖いもの見たさで、どれだけ期待とギャップがあるのかを確認した。

観た以上は書かずにはいられない、何か底知れぬ潜在力のある作品だ。ここまで滑りまくるコメディ映画というのは、インデペンデント系ならいざ知らず、メジャー作品では珍しい。

興行的には、ひょっとして炎上商法でうまくいったのかもしれないが、本作がこれほどまでに不評で盛り上がった理由を整理してみた。大きく三つにまとめられる。

(C)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

プロモーションの課題

ひとつは、売り方の問題、プロモーションの巧拙だろうか。東宝の『シン・ゴジラ』のメガヒットによって、この手の二匹目のドジョウねらいの怪獣特撮ものが作られることは、想像に難くない。それが東映と松竹の初タッグなら、なおさら真実味がある。

目線を少し変えて、死んだあとの怪獣というものにフォーカスを当ててみよう。日本政府が必死になって、怪獣処理に追われる話。どこか『シン・ゴジラ』的な匂いもするし、同作に負けないキャスティングで攻めれば、意外と面白いかもしれない。

つまり、公開当時の大衆は、まだ『シン・ゴジラ』からの怪獣もののブームの余熱に浸っており、本作が脱力系コメディだと察知する冷静さを欠いていたのだ。

でも、多くの人を誤解させ、劇場で悶絶させたのは、売り手にほかならない。「あとしまつ」という言葉だけで、コメディだと伝わると思ったのは読みが甘いと言わざるを得ない。

(C)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

それに、劇場予告も、シリアスな特撮と思えばそう見える、微妙なラインを突いていたと記憶する。だって、絵だけみたら、怪獣の死骸と山田涼介だもの。ゆるいコメディとは思わない。

例えば伊藤英明が出ていても『KAPPEI カッペイ』の予告編で誰もバイオレンス映画と思わないように、誤解のない演出が望ましいのだ。

多少コメディ要素があると気づいた鋭いひとでも、よもや大怪獣が死んだまま、目を開けることもなく終わる怪獣映画があるとは、夢にも思わないだろう(いや、冷静に考えればあとしまつなのだから正しいんだけど)

プロモーションの仕方を間違えるとえらい目にあうことを、関係者はきっと痛感したはずだ。

(C)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

キャスティング

次にキャスティングにも問題があると思う。本作が誤解を招いた要因の一つは、『シン・ゴジラ』の向こうをはるかのような、中途半端に豪華キャストだ。

メインに山田涼介土屋太鳳、その他、オダギリジョー菊地凛子の名前も見えるし、嶋田久作笹野高史などの名前で、やはりシリアスな作品と思えてしまう。

これだってよく見れば、西田敏行が総理大臣で、秘書官が濱田岳というダブル浜ちゃん(釣りバカ日誌)のキャスティングは、コメディもあり得ることに気づける。

それに大臣連中の中に岩松了ふせえりが揃っているのだから、どう考えてもまともな特撮映画ではないことは分かったはずだ。

でも、そこまで注意を払って映画を観るひとは限られる。このキャストと売り方では、みんな誤解しますよと、誰かこの企画を押し戻す勇気ある関係者はいなかったのだろうか。

(C)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

監督の名前と実績の押し出し

最後に、三木聡監督の名前と実績を、もっと前面に出しても良かったと思う(出てたっけなあ?) 

少なくとも、監督のフィルモグラフィの数々のどれをとっても、ゆるい小ネタ満載のコメディ映画に違いないことは容易に想像できる。だから、誤解を多少は防げたと思うのだが…。

ただ、本作は、通常の三木聡作品との比較でみると、正直、脱力系のゆるさが足らないと思う。

つまり、シリアスでもダメだが、コメディとしても中途半端になってしまっている。これは、怪獣を始末するというミッションをきちんと描こうとするあまり、ギャグもストーリー進行を妨げないレベルにならざるを得ないためだろう。

三木聡作品には絶対的に不可欠な、共感できるけどくだらない小ネタと、学生映画のようなチープ感が、大資本の映画ゆえに精彩を欠いている。

「石鹸は陰毛でよく泡立つ」をはじめ、岩松了が次々と量産するくだらないボヤキはかろうじて三木聡の作風を感じさせるし、怪獣の菌子で全身キノコが生えてしまった男の股間にだけは、別のキノコ状のものが(本来のもちもの)ボカシとともに映し出されるバカらしさも彼らしい。

だが、この手のネタは一般受けしないんじゃないか。いや、はじめから三木聡監督のそういう作品と思って観るのなら、全然ありだが、怪獣映画だと思って観にきている特撮ファンや山田涼介ファンに、
「大臣、死骸の匂いはう〇こなのかゲロなのか?」

「死骸の匂いは、銀杏ぎんなんです」

みたいな小学生レベルの下ネタや、水洗トイレのように流してしまえという発想は受け入れられにくい。

腐敗ガスを死骸に穴をあけ噴出させ、それで気流を作って大気圏外まで排出するという、焼肉屋のロースターから着意を得た計画(松重豊起案)も、発想はよいが、匂ってきそうできつかった。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

観客にとどめを刺すラスト

さて、本作にまさかネタバレを気にする部分があろうとは思わなかったが、一応、終盤の展開はネタバレ扱いとさせていただく。

主人公の帯刀アラタ(山田涼介)は、過去の怪獣退治の際に姿を消している。そのときに現れた光の戦士が怪獣を退治したと思われる。

だが、ラストに仲間から怪獣の死骸ともどもミサイル攻撃を受けた彼は、光の戦士と姿を変えて、怪獣を抱えて空に去っていく。それを見送る雨音ユキノ(土屋太鳳)「ご武運を」と空を見上げて、映画は終わる。

特撮映画と思って二時間の脱力ギャグにつきあってきた観客は、このラストの一撃で息絶えてしまったかもしれない。

アラタが最後の最後でついにヒーローに変身するのはよいとして、なぜそこまで引っ張るのか、彼が失踪していた期間に何があったのか、はたまたユキノとその夫の雨音正彦(濱田岳)との三角関係があったのか何も多くを語られないまま、映画はひたすらエンディングに向かう。

何という空回り感。製作者の意図が(あったのなら)、うまく伝わっていない。光の戦士にしたところで、姿カタチをチラ見せもせず、ただまばゆく輝くだけなのだ。

結局日本政府は何もできず、ヒーローが現れるという神風が吹いて、物事は解決する。こういう不条理を描きたかったのだろうか。だがそんなことは、ウルトラマンの時代から、特撮ではお約束のデフォルト設定ではないか。

このすべりまくりのあとしまつはどうするのだと、世間で言われているが、そんなことはお構いなしに三木聡監督はしっかりと逞しく次作『コンビニエンス・ストーリー』を公開している。そうそう、監督は本作のあとしまつなどプロデューサーに任せてしまえばいいのだ。

そして、お得意のチープな世界観で小ネタ山盛りの作品を変わらずに撮ってくれることを、隠れファンのひとりとしては(勝手な感想を述べながら)願っている。