『グレイマン』
The Gray Man
ルッソ兄弟がNETFLIX史上最高製作費で臨むスパイアクション大作。見えない男・グレイマンとは。
公開:2022 年 時間:122分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: アンソニー・ルッソ ジョー・ルッソ 原作: マーク・グリーニー 『暗殺者グレイマン』 キャスト コート・ジェントリー(シエラシックス): ライアン・ゴズリング ロイド・ハンセン: クリス・エヴァンス ダニ・ミランダ: アナ・デ・アルマス ドナルド・フィッツロイ: ビリー・ボブ・ソーントン クレア・フィッツロイ:ジュリア・バターズ デニー・カーマイケル: レゲ=ジャン・ペイジ スザンヌ・ブリューワー: ジェシカ・ヘンウィック ラズロ・ソーサ: ヴァグネル・モウラ アヴィク・サン: ダヌーシュ ケイヒル: アルフレ・ウッダード ダイニング・カー: カラン・マルヴェイ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
通称「グレイマン」と呼ばれ、その正体を誰も知らない優秀なCIAの工作員コート・ジェントリー(ライアン・ゴズリング)は、ある日、組織の超重要機密を知ってしまったことから、命を狙われるはめになる。
元同僚で非情な工作員のロイド・ハンセン(クリス・エヴァンス)はコートに賞金をかけ、あらゆる手段を使ってコートを仕留めようとするが……。
レビュー(まずはネタバレなし)
ルッソ兄弟がネッフリ史上最高製作費で
このところNETFLIX作品からは遠のいていたが、ルッソ兄弟が『タイラー・レイク -命の奪還-』(2020)以来久々に手掛けた作品、それもNETFLIX史上最高の2億ドル製作費をかけた大作というので、つい早速観てしまった。会員数減少傾向だから、もうこんな大盤振る舞いできなくなるかもしれないし。なお本作は一部劇場でも公開されている。
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今回はCIAの機密情報を手に入れ、組織からねらわれる羽目になる凄腕のエージェントのスパイアクションもの。主演は『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル監督)のライアン・ゴズリング。
昨今、この手のジャンルはストーリーが複雑で凝ったものになる傾向にある気がするが、本作は適度にシンプルであり、肩ひじ張らずにアクションにのめり込めるのが嬉しい。
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冒頭の刑務所面会室シーンでのつかみが良い。
服役している軽口を叩くのが好きなコート・ジェントリー(ライアン・ゴズリング)に、面会にきた初対面の男・ドナルド・フィッツロイ(ビリー・ボブ・ソーントン)が切り出す。
「今日、ここから出してやろうか?」
「あんたは俺の妖精さんか?想像してた姿と違うけど」
見えない男グレイマン
フィッツロイはコートのCIAエージェントとしての能力に着目し、彼を存在しない男として組織の使い捨ての駒として雇い入れようとしていた。
ここから、物語が始まり、一気に18年が経過する。舞台はバンコック。コートはシエラ・シックスのコードネームで、自分の流儀を貫きながらも、組織に指示された標的を始末する仕事をこなしているようだ。
標的は身体を張って倒すが、周囲の子供を巻き添えにしない気遣いをみせる。どうやらシックスは善人キャラの主人公らしい。
だが、このミッションの標的ダイニング・カー(カラン・マルヴェイ)は同じシエラのナンバーを持つ同僚であり、シックスは彼の死に際、機密データを授けられる。その瞬間から、シックスは組織の次の標的となる。
さわりの展開はこんな感じで、テンポよく進む。
ライアン・ゴズリング演じる主人公のコードはシエラ・シックス。「007の番号は誰かに取られてた」とか、バックの音楽がまんま「ミッション:インポッシブル」だったりとか、同ジャンルの先達を意識しているのが伝わる。
だが、本作の主人公は組織への帰属意識が欠落しているわけで、スパイ映画といってよいのかも微妙なところ(任務を遂行する映画ではないので)。
CIAでシックスと言われると、同じNETFLIXの『6アンダーグラウンド』(マイケル・ベイ監督)を思い出す。あちらはライアン・レイノルズ、こっちはライアン・ゴズリング。混同するのは私だけか。
キャスティングについて
ライアン・ゴズリングのアクションというのは、あまり記憶にないが、無表情に淡々と仕事をこなす感じがよく似合う。スパイではないが、『ブレードランナー 2049』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)を思い出す。
同作でAIのバーチャル美女だったアナ・デ・アルマスが、本作では彼を助けるCIAエージェントのダニ・ミランダを演じている。戦闘能力的には、シックスに劣後していない。
アナ・デ・アルマスはスパイ映画ご本家の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でもキューバのCIAエージェントだったが、アクションはこっちの方がハードかも。
そして、CIAに雇われ、シックスを世界各地で狙う拷問大好きなサイコ野郎の口ひげ男・ロイド・ハンセンが、一見だけでは分からなかったがクリス・エヴァンスなのである。これは痛快。
ずっと、アメリカの良心と正義を背負わされ、キャプテン・アメリカという学級委員をアベンジャーズでやってきた反動なのだろう。こういう無茶なサイコ野郎役を楽しんでいる感が伝わる。
アナ・デ・アルマスはクリス・エヴァンスとも『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(ライアン・ジョンソン監督)で共演している。ここでのクリスも、羽目を外した役を満喫。更に、同作主演の探偵はダニエル・クレイグだったりして、なんか世界が繋がっている。
なお、本作でロイドを補佐するCIAのスザンヌ・ブリューワーを演じたジェシカ・ヘンウィックは、『ナイブズ・アウト/グラス・オニオン』に出演。また、アナ・デ・アルマスはクリス・エヴァンス主演の『Ghosted』(撮影中)でも、共演が予定されているようだ。
そうそう、キャストで忘れてならない、シックスをこの世界に引き込んだ男・ドナルド・フィッツロイ役のビリー・ボブ・ソーントン。近年は彼の出演作を観る機会があまりなかったのだけれど、久々に観たら渋くなっててカッコよかった。
レビュー(ここからネタバレ)
やっぱアクションでしょ
ネタバレと言うほどのものはないのだが、やはり本作の売りはルッソ兄弟の得意とするところのド派手なスケールのアクション。更には、米国を中心に、バンコック、モナコ、ウィーン、ベルリン、プラハなどなど、めまぐるしく世界各地に舞台を移す展開も、コロナ禍と円安のダブルパンチでなかなか海外に行けないからか、新鮮に目に映る。
派手さと言う点では、序盤のバンコックでの花火大会の打ち上げ会場でのバトルの華やかさもよいし、終盤のクライマックスといえる、プラハでの路面電車をたくみに使ったCIAの部隊やら現地警察のSWATやらが入り混じっての総力戦もよい。
特に後者は、計算されつくした電車やクルマの動きとカット割りで、何のストレスもなく戦況を把握しながらアクションを堪能できる。これはさすがのルッソ兄弟ならではの仕事ぶり。
そして、ド派手なバトルのあいだにはさまる銃撃戦にも手抜きがなく、変化に富んでいる。2時間の多くをアクションに割きながらも、中だるみさせないところも気が利いている。
最後の戦いは、夜明け近くの庭園で、シックスとロイドの噴水の中での殴り合い。ああいう迷路のような幾何学庭園、映画で観るのは『シャイニング』(1980、スタンリー・キューブリック監督)以来だよ、きっと。
途中でステゴロをやめて一人ナイフを振り回し始めるロイドの、なりふり構わないキャラが笑える。この勝負の決着のつき方と映画のエンディングには、ややスッキリしない点が残るものの、シリーズ化を狙っているのかも。
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全体として詰めの甘さはあっても、このキャストとアクションの興奮度から、観ておいて損はない作品。