1. 『最も危険な遊戯』(1978)
2. 『殺人遊戯』(1979)
3. 『処刑遊戯』(1979)
『最も危険な遊戯』
公開:1978年 時間:89分
製作国:日本
スタッフ
監督: 村川透
脚本: 永原秀一
撮影: 仙元誠三
音楽: 大野雄二
キャスト
鳴海昌平: 松田優作
田坂杏子: 田坂圭子
桂木警部: 荒木一郎
小日向会長: 内田朝雄
土橋卓: 草野大悟
足立精四郎: 見明凡太郎
綾乃: 市地洋子
居郷忠司: 名和宏
誘拐犯: 片桐竜次、山西道広
刑事: 苅谷俊介、大前均、阿藤海
雀荘の客: 石橋蓮司、柴田恭兵
内田裕也、榎木兵衛
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
あらすじ
国防省の防空警戒システム受注に絡んだ財界の連続誘拐事件が発生。殺し屋鳴海昌平(松田優作)は東日グループ小日向会長(内田朝雄)から五千万円で人質の救出依頼を受ける。
誘拐実行犯・居郷(名和宏)の情婦・杏子(田坂圭子)から居場所を聞き出し人質を救出するも、脱出途中に何者かに人質を射殺され、鳴海も負傷する。鳴海は報酬を返しに行くが、事件の黒幕の暗殺を再度依頼される。
今更レビュー(ネタバレあり)
いろいろな意味で重要な作品
松田優作が凄腕の殺し屋・鳴海昌平を演じる「遊戯シリーズ」の第一弾。
東映の岡田茂社長(当時)がプログラムピクチャーへの対応として新たに設立した東映セントラルフィルム。専属プロデューサーとなった黒澤満や伊地智啓が、この会社から後年大きな功績を残す訳だが、同社の作品の第一号となったのが、本作『最も危険な遊戯』。
◇
監督の村川透は一時期業界を去っていたが、石原プロのドラマ『大都会 闘いの日々』で復帰し、そこでゲスト出演の松田優作と出会う。そして、村川透が映画監督として復帰した本作で、この二人の黄金コンビが生まれ、以降の『蘇える金狼』や『野獣死すべし』などに続いていく。
そう考えると、東映アクション映画の歴史や松田優作を語るうえでいろいろと重要な役割を担う本作であるが、そんなことは知らずに観ているだけで十分面白い。
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松田優作や村川監督のみならず、シリーズ三部作全作で組むことになるカメラの仙元誠三、そして音楽の大野雄二。これらの若き才能が集結し、低予算でもカッコよくてエキサイティングな作品を撮って映画業界に新風を巻き起こしてやる、という気概が伝わってくる。
こんな映画は現代では撮れない
本作の事件のスケールは結構大きい。国内で財界人の射殺や連続誘拐が横行し、大手電機メーカー・東日電気社長も拉致される。この事件の裏には、国防省の防空警戒システム受注をめぐる東日と五大コンツェルンの激しい商戦があり、フィクサーの足立精四郎(見明凡太郎)が、東日グループ首脳を暗殺しようとしているらしい。
そこで、東日グループの小日向会長(内田朝雄)が鳴海昌平(松田優作)に五千万を払い、社長の救出を依頼する。この手の作品にはお約束の強引な展開に、懐かしささえ感じる。
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そして鳴海は、足立の懐刀で誘拐犯グループを率いている居郷(名和宏)のマンションに侵入し、情婦の杏子(田坂圭子)から居郷の居場所を聞きだそうとする。
杏子を裸にひん剥いて、あの手この手で責める鳴海。目的のためには手段を選ばない殺し屋だという彼の人物設定が徐々に分かってくる。
日活ロマンポルノ出身の村川透監督にとってはお手の物であろう濡れ場シーンの演出も冴えわたる。電話の向こうにいるであろう居郷に、彼女の喘ぎ声を聴かせて挑発するあたりのやり口もお下劣だ。コンプラ重視の風潮は大事だが、すっかりそれに飼い慣らされた感覚には、このような作品は刺激的に映る。
田坂圭子は逸材と思ったが、<ニュースター>と大きく謳っておきながら本作以降名前を聞かないので、早々に引退されてしまったのだろうか。
鳴海昌平のキャラクター
アジトに単身乗り込んでは、居郷をはじめ誘拐犯グループを次々と射殺する鳴海。だが、肝心の人質である東日電気社長を、何者かに撃たれて死なせてしまう。鳴海自身も銃創を負い、部屋に戻ってウィスキーを口に含んで霧吹きしてはアイタタタタと唸る。ここは定番の演出。
「失敗したからカネは返すよ」と、依頼主の小日向会長のもとに出向く鳴海に、「キミの腕は見させてもらった。実はやってもらいたいのはフィクサーの足立なのだ」と新たな仕事の依頼。こうして鳴海は、更なる大物を標的に据えることとなる。
鳴海昌平のキャラクター設定は、ハードボイルドアクションや刑事ドラマの脚本を書きまくってきた永原秀一が膨らましていったのだろうか。
スナイパーとしても超一流だし、殴り合いも強い。ボウリングの球(自室がボウリング場の上なのだ)で肉体を鍛え上げるストイックな姿勢は『タクシードライバー』でデ・ニーロが演じたトラヴィスのようだ。
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一方で、押しかけ女房面で鳴海をかまうようになる杏子には冷たく接しながらも、最後は体を張って救出に行ったり、冒頭では賭けマージャンで敗けが300万も膨らみ文句をいうような情けない一面を見せたりと、人間味も感じさせる。
本作の翌年から始まるドラマ『探偵物語』の工藤ちゃんの原型ともいえる、ちょっと抜けてるところもあるハードボイルドな人物造形。
それにしても、冒頭の雀荘の面子が凄かった。石橋蓮司、内田裕也、榎木兵衛、柴田恭兵。こりゃ絶対イカサマやってるよ。まだ駆け出しの柴田恭兵は台詞もないし、クレジットも恭平になっている。
圧巻のアクションシーン
本作で圧巻だったのは、麻布にある広大な寺を見下ろすビルの屋上で、足立の狙撃に成功した鳴海を、大量の警官隊が一斉射撃するシーン。
あの辺一帯は今や六本木ヒルズとなり、かつての面影は見る影もないのだが、逃げ場のない屋上で、機関銃のように大量の銃弾が撃ち込まれ、必死の体の鳴海。ヘリも投入しての大迫力映像。でも、これだけ大勢の警察隊がいて、なぜロープにぶら下がってビルを降りる標的を仕留められないか(まあ、映画だからね)。
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そして、警察の人間でありながら、実はこの誘拐事件の裏で暗躍していた桂木警部(荒木一郎)たちが、杏子を攫っていき、そのクルマをひたすら鳴海が追走するシーンも凄かった。
さすが元ジーパン刑事だけあって、自動車を追い抜いてしまうのではないかという、獲物を追う獣のような疾走。一体どれだけの距離を走ったのだ。クルマの中には桂木のほかに苅谷俊介、大前均、阿藤海といった図体のでかい武闘派揃い。手帳見せられても、刑事にはみえない。
最後に鳴海は、依頼人の小日向会長が実は結託していた、標的の足立の屋敷で将棋を打っているところに現れる。至近距離で足立を射殺し(前回のは替え玉だったのだ)、眼前の小日向に仕事は完了したと告げる。そしてカネを払ってくれる約束手形だと称して、小日向の足を撃ち抜くのだ。
「素敵なゲームをありがとう」
そう言って、鳴海は去っていく。これこそが、彼にとって遊戯だったのだ。決まったぜ。
ここで終われば正統派ハードボイルドだが、おまけにOS劇場のストリッパー(岡本麗)とのやりとりをはじめ、鳴海のズッコケな独白で映画は終わる。この、ゆるい感じが好きだなあ。