『前科者』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『前科者』考察とネタバレ|有村架純が保護司だったら元受刑者が増えてまう

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『前科者』

人生に躓いた者たちを、寄り添うことで救えるのか。有村架純演じる保護司が、元受刑者・森田剛に向き合う。

公開:2022 年  時間:133分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督・脚本:          岸善幸
原作:          香川まさひと
               月島冬二
キャスト
阿川佳代:          有村架純
工藤誠:            森田剛
滝本真司:          磯村勇斗
実:             若葉竜也
鈴木充:        マキタスポーツ
斉藤みどり:         石橋静河
高松直治:         北村有起哉
松山友樹:          宇野祥平
遠山史雄:     リリー・フランキー
宮口エマ:          木村多江
真司の父:          丸山智己

勝手に評点:3.5 
     (一見の価値はあり)

(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

あらすじ

保護司を始めて三年となる阿川佳代(有村架純)は、この仕事にやりがいを感じ、さまざまな前科者のために奔走する日々を送っていた。

彼女が担当する物静かな前科者の工藤誠(森田剛)は順調な更生生活を送り、佳代も誠が社会人として自立する日を楽しみにしていた。そんな誠が忽然と姿を消し、ふたたび警察に追われる身となってしまう。

一方その頃、連続殺人事件が発生する。捜査が進むにつれ佳代の過去や、彼女が保護司という仕事を選んだ理由が次第に明らかになっていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

保護司という職業

前科を持つ者たちと向き合い、彼ら彼女らの更生に手を添える保護司。映画やドラマで見慣れた仕事であるが、その多くは年配者だった。

だが今回、主人公の保護司・阿川佳代を演じるのは有村架純。何でも20歳代の保護司は非常に珍しいが、けして実在しないわけではないらしい。

保護司は精神的にも体力的にも大変そうだが、なんと国家公務員だが無報酬だという。なかなか若手になり手がないのも肯ける。

だが阿川はコンビニで働きながら、この仕事につき、元受刑者に寄り添っていく。そこには彼女の過去の出来事も関わってくるが、それは本編中で明かされる。

本作は原作・香川まさひと/作画・月島冬二による同名原作漫画があり、WOWOWで連続ドラマ『前科者 新米保護司・阿川佳代』が配信された。映画版は、原作にないオリジナルストーリーで描かれている。

監督はテレビマンユニオンの岸善幸『あゝ、荒野』では前編・後編を飽きさせずに見せきる牽引力を感じたが、今回は犯罪ドラマとはいえ、とても細やかな演出で前作のような暴力性はだいぶ抑え込んでいる。

元受刑者に寄り添えるか

阿川は若いが、担当する元受刑者に甘い顔は見せない。時に問題を起こす前科者の男女を、「あなたは崖っぷちにいます。落ちたら助けられなくなりますよ」と時に厳しく指導しながらも、しっかり寄り添う。

そんな彼女が新たに担当するのが、殺人罪を犯した工藤誠(森田剛)。小さな自動車整備工場の経営者も目をかけてくれる、無口でとっつきにくいが生真面目に働く工藤。その本性はなかなかつかめない。

森田剛が実にいい。演劇中心でなかなか映画には出演しない彼だが、観ればどうしても『ヒメアノ~ル』(𠮷田恵輔監督)の猟奇連続殺人犯を思い出してしまう。そんな森田剛だから、どんなに静かで真面目そうな人物でも、二面性を嗅ぎ取ってしまう。確信犯的な起用だ。

対する有村架純は、『花束みたいな恋をした』『るろうに剣心最終章』で魅せた華やかさをメガネひとつで完全に封印し、野暮ったい格好の女保護司を演じきっている。実に面白い取り合わせだ。

出所後にうまそうに牛丼屋でどんぶりをかきこんだ後、阿川と初面談に訪れた工藤に、彼女は牛丼をふるまう。何も言い訳せずに再度牛丼を食べ始めるシーンだけで、工藤の気遣いができる人柄や、阿川との上下関係みたいなものがすっと伝わってくる。

保護観察期間は6カ月。それを過ぎれば普通に更生できるし、工場も正社員にと言ってくれている。だが、舞台となっている蒲田で発生した連続殺人事件。その容疑者に工藤の名前が浮かぶ。

(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

単なる犯罪ドラマではない

保護観察期間の最後の面談の日に、工藤は阿川のもとに現れない。何が起きてしまったのか。このあたりまでは公式サイトでも開示されているので、あとは作品をご覧いただきたい。私は原作コミックもWOWOWのドラマも知らずに観たが、十分楽しめた。映画が良かったので、後からドラマも観ている。

阿川の上司のような存在の保護観察官・高松(北村有起哉)や、阿川の初めての保護観察対象者だった斉藤みどり(石橋静河)など、ドラマのレギュラーもいるので、観ていれば一層面白味が深まると思う。

突如失踪してしまった工藤を追い始めるあたりから、彼のこれまでの苦難の人生を知り、安易に「あなたの更生に寄り添う」などと言いながら、何もできない自分の無力さを痛感する阿川

工藤への想いや行動が母性愛からのものなのか、恋愛感情なのか。そして、連続殺人事件の容疑者である工藤を追いかける刑事・滝本真司(磯村勇斗)は、かつて中学時代に阿川と仲の良かった同級生。

朝ドラ『ひよっこ』ではヒロイン有村架純の恋人役だった磯村勇斗。だが本作では彼もまた、ニヒルな笑みを封印して捜査活動に邁進する。彼はこの事件、そして二人の関係に、どう絡んでくるのか。

途中からは普通に犯罪ドラマになっていくのかと思われた本作だったが、保護司・阿川佳代の存在感をみせつける展開に落ち着いたことに感心した。油断していると、つい泣いてしまう。周囲からもすすり泣きが聴こえた。

有村架純は、女優としてこういう役も演じられるのか。コンビニ前の駐車場に座って、「惚れんなよ」と元気づける石橋静河の前で、「惚れちゃう」と涙をこらえた変顔をみせる彼女。これは強い。

(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

助演俳優陣もみないい

本作はメインのキャスティングもよいが、脇を固める助演俳優陣も、みないい仕事をしている。

前述の北村有起哉石橋静河のほか、滝本刑事の上司で一人張り切るマキタスポーツ、話に踏み込まないコンビニ店長の宇野祥平、意外と好人物の元受刑者・正名僕蔵、中学生の阿川を守って刺された真司の父・丸山智己

かつて工藤の母を刺し殺した義父のリリー・フランキーと、当時彼を担当した宮口弁護士(木村多江)『ぐるりのこと』(橋口亮輔監督)のカップリングも面白い。

名前は伏せるが、連続殺人犯の被害者たちも顔ぶれもいい。みんなが要所要所を抑えて、いい作品に仕上がっている。

(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

若干作為的に思えた部分もある

さて、少し具体的に書かせてもらう。本作はオリジナルストーリーだが、観ているうちは、結構出来過ぎた話で、話の流れにも無理がある気がした。

例えば、容疑者を追ってその保護司である阿川の勤めるコンビニを訪ねた滝本刑事が、中学生の同級生だった彼女と再会する。

或いは、ラーメン屋で工藤のテーブルに相席になった、ちょっと頭のネジが足らなそうな若者(若葉竜也)が、実は彼の生き別れた弟だと分かる。

偶然の再会も一つなら許せるが、複数ではちょっとやりすぎだ。河原で撃たれた先生の遺体の爪に、なぜ工藤のDNAが残っているのかも、撃たれたシーンからは納得できなかった。

(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

だが、意外なことに、これらは話が進むとある程度納得できるようになる。

ラーメン屋は、かつて工藤兄弟(いいとも青年隊じゃないよ)が殺された母と通った思い出の店だったのだ。また、工藤のDNAについても、射殺後に偽装工作をしていた事実が判明する。

本作で起きた連続殺人事件は、子供の頃に殺された母親の恨みを晴らそうと、その事件にかかわる有形無形の罪を犯した者たちに罰を与えていくものだ。

『護られなかった者たちへ』(瀬々敬久監督)やドラマ『ウロボロス〜この愛こそ、正義。』の系統といえるか。

張り込みの刑事たちは減給処分もの

終盤、犯人が襲うであろう義父の家の周囲で容疑者を待ち構える刑事たち。そうとは知らずにやってくる工藤兄弟。

マキタスポーツ、ここまでよく頑張っていたが、この刑事たちはどうもみなポンコツ揃いなのか、結構凡ミスを繰り返すし、それが悲劇を呼ぶ。

緊迫した作品で、この凡ミスだけはどうもいただけない(子供時代のビデオとのオーバーラップの発想は良かっただけに残念)。

ドラマは逮捕劇で終わるのかと思えば、そのあとに更なる展開が待っている。ここでの工藤と阿川の魂のぶつけ合いのようなやりとりは、とても見応えがあった。森田剛鼻水垂れさがりも全く気にならない。

工藤を救い出したい阿川の叫び。ようやく寄り添ってくれる人に出会えた工藤。

「佳代ちゃんは弱さが武器なんだよ」

みどりにとってはそう見えたのだろうが、ここでの阿川は強くて、温かい。ぜひいつの日か、二人には約束通り、ラーメン屋に一緒に食べに行ってほしい。