『バットマン・ビギンズ』
Batman Begins
クリストファー・ノーランのダークナイト・トリロジーはここから始まった。ゴッサムシティを守るために立ち上がったダークヒーロー。
公開:2005 年 時間:141分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: クリストファー・ノーラン キャスト ブルース・ウェイン:クリスチャン・ベール ヘンリー・デュカード:リーアム・ニーソン ラーズ・アル・グール: 渡辺謙 レイチェル・ドーズ: ケイティ・ホームズ アルフレッド: マイケル・ケイン ジム・ゴードン: ゲイリー・オールドマン ルーシャス: モーガン・フリーマン ジョナサン・クレイン: キリアン・マーフィー ファルコーニ: トム・ウィルキンソン リチャード・アール: ルトガー・ハウアー
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)は少年時代に井戸でコウモリの大群と遭遇し、ただならぬ畏怖に襲われる。そしてある日、大富豪である彼の両親が目の前で殺されるのを目撃し、強いショックを受ける。
だがトラウマを抱えたまま成長した彼は、謎の男デュガード(リーアム・ニーソン)と出会い人生の転機を迎える。やがて彼ら自警団のもとで修行を積んだブルースは、自我に目覚め勧善懲悪を誓う。
こうして彼は、ゴッサム・シティへと舞い戻ってきた。街は悪の組織と暴力がはびこり、腐敗が進んでいた。自らの使命を確信したブルースはバットマンとなり、巨悪に立ち向かっていく。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
トリロジーはここから始まる
ここから始まるトリロジーをどこまで想定していたのか知らないが、クリストファー・ノーラン監督は、既に過去に何本も作られていたバットマンの映画からは一線を画すかのように、まずその成り立ちを描こうと考える。
タイトルに偽りなしだ。邦題にまで<ビギンズ>と、きちんと三単現のSを付ける企業姿勢は好感が持てる。
◇
ここまで名の売れたヒーローの映画を作るのに、ご丁寧に本編の半分近くを費やして、その経緯を深く掘り下げる映画は珍しい。何せバットマンの姿が登場するまでに、相応の時間が経過している。
MCUの『インクレディブル・ハルク』などは、超人になるまでを<前回までのダイジェスト>かのように早口で語ってしまっているだけなのに。
だが、それが本作、ひいてはバットマン・トリロジー全体に通底する、ただ派手にアクションをこなすだけのヒーロー映画ではない、ダークで深いメッセージ性に繋がっている。
生身の人間がスーツを着ている
超人ヒーローの活躍を見慣れてしまった目には、バットマンがあまりに生身の人間であることに改めて驚かされるとともに、感動を覚える。
彼が敵と戦えるのは、自ら鍛えた強靭な肉体と戦闘術、蝙蝠の恐怖心の克服、そして卓越した精神力。
◇
無論、それを増幅させる特殊なスーツやバット・モービルはあるけれども、スーツがあれば秘書でさえ敵と戦えてしまうアイアンマンの手軽な強さとは、似て非なる代物なのだ。
アイアンマンとバットマンには、ともにスーツの源泉となる技術を生み出した、資産家で街の中心に自分の名のつくタワーを持つ偉大な父を持つ。父の非業の死で会社は他の役員に経営が奪われそうになるところも似ている。
だが、あっけらかんと自己顕示欲の強いトニー・スタークに比べ、ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)は圧倒的にストイックで、シャイだ。
そんな彼が、デュカード(リーアム・ニーソン)やラーズ・アル・グール(渡辺謙)のもとで過激な訓練を受け、ついには蝙蝠が空へはばたくかのように成長する姿には、感動を覚える。
バットマンは心理戦法でいく
バットマンは自身も生身だが、その敵もまたかなり生身の人間であるという点がユニークだ。本作のスケアクロウ然り、次作に登場のジョーカーも然り。
手強い凶悪犯ではあるものの、超人パワーがある訳ではない。そこは、同じように町の平和のために働くスパイダーマンとも、ちょっと立ち位置が違うところだ。
◇
まばゆい陽射しの下でニューヨーク決戦などしてしまうアベンジャーズたちに比べると、バットマンは心理戦の男だから、蝙蝠のように夜闇に紛れて戦い、相手に正体をさらさず疑心暗鬼にさせる戦法。
必要以上に重低音を強調する声色は、自分でやっているのか機械操作なのか分からないが、迫力アップには効果大だ。
安全作業着と装甲車然としたワークマン男子の装備、しかもすべてマットブラック仕様と重苦しい。これで身軽に動けるのはさすがブルースと感心。
ただ、バット・モービルのデザインはあまりにゴテゴテで無骨すぎないか。ブルースが普段使いするランボルギーニ・ムルシェラゴの洗練さとあまりに差がある。
敵陣営と味方陣営
ブルースをサポートするおじさま軍団はなかなか層が厚い。
ウェイン家に長年仕える執事のアルフレッド・ペニーワース(マイケル・ケイン)、007ならQ役に相当する秘密兵器担当のルーシャス・フォックス(モーガン・フリーマン)、それに当時はまだ若い、ゴッサム・シティで貴重なまともな警官のジム・ゴードン(ゲイリー・オールドマン)。
みな、存在感があって、この先のシリーズでの活躍が楽しみな面々。
一方で悪党連中はやや貧弱だ。影の有力者ファルコーニ(トム・ウィルキンソン)は影響力こそあるが、ただのマフィアでヒーローの敵ではない。
幻覚剤を操るスケアクロウことクレイン(キリアン・マーフィー)は有望株だったが、麻袋をマスク代わりにかぶっただけの敵では、さすがに弱っちい。
なお、キリアン・マーフィーは本作以降、ノーラン組の一員として『インセプション』や『ダンケルク』でも存在感をアピール。
◇
結局、あまり活躍しなかった渡辺謙がラーズ・アル・グールの影武者とわかり、本物はリーアム・ニーソンだったと判明するのだが、これ自体はさして面白味に繋がっていないのは残念。
会社を株式公開し、好き勝手にやっていた、強欲な経営者リチャード・アールが、あのルトガー・ハウアーだとは気づかなかった。彼がヴィランだったら、もっと盛り上がったかも。
人間の本性は行動で決まる
本作で貴重な女性キャストである、ブルースの幼馴染のレイチェル(ケイティ・ホームズ)。正義感のある検事ゆえ、スケアクロウに狙われる羽目となる。
彼女は、散財して遊び惚ける(仮の姿の)ブルースを軽蔑するが、「人間の本性は行動で決まるのよ」という彼女の言葉をバネにゴッサムの平和を取り戻したバットマンの正体に気づく。
「私の愛した人は、いつかゴッサムがバットマンを必要としなくなったら、また会えるのね」
今後の展開を知る者には、悲しみを誘う台詞である。
◇
なぜかケイティ・ホームズは本作のみで降板し、次作ではマギー・ギレンホールがレイチェルを演じる。個人的には、ケイティのレイチェルの方が、イメージに近いのだが。
ともあれ、バットマンやゴードン刑事の活躍で、街には束の間の平和が訪れた。だが、最近ゴッサムには新たな怪人が現れたという。画面には、その人物の遺留品である、トランプのジョーカーが写る。
『バットマン・ビギンズ』
(2005)
『ダークナイト』
(2008)
『ダークナイト ライジング』
(2012)