『21ブリッジ』
21 Bridges
『ブラックパンサー』のチャドウィック・ボーズマン最後の主演作品。マンハッタンの全ての橋を封鎖して犯人を閉じこめろ。そんな無茶な。
公開:2021 年 時間:99分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ブライアン・カーク 脚本: アダム・マーヴィス マシュー・マイケル・カーナハン 製作: アンソニー・ルッソ ジョー・ルッソ キャスト アンドレ・デイビス: チャドウィック・ボーズマン フランキー・バーンズ: シエナ・ミラー マット・マッケナ: J・K・シモンズ マイケル・トルヒーヨ: ステファン・ジェームス レイ・ジャクソン: テイラー・キッチュ アディ: アレクサンダー・シディグ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ(公式サイトより引用)
ニューヨーク市警(NYPD)の殺人課に所属するアンドレ・デイビス刑事(チャドウィック・ボーズマン)は、同じ警官だった亡き父親への想いを胸に、忙しい日々を過ごしていた。
そんな折、真夜中に事件が発生。大量のコカインを奪って逃げた犯人2人組が、現場を去る前に警察官を殺害したのだ。NYPD85分署のマッケナ署長(J・K・シモンズ)の指令により、アンドレは麻薬取締班のフランキー刑事(シエナ・ミラー)と組んで捜査を開始。
そしてマンハッタン島に掛かる21の橋すべてを封鎖し、追い詰める作戦に出た。ただし時間は午前5時まで。夜明けまでには犯人の居場所を突き止め、逮捕しなければならない。だがアンドレは追跡を進めるうち、表向きの事件とはまったく別の陰謀があることを悟る。果たしてその真実とは!?
レビュー(まずはネタバレなし)
橋の封鎖って必要だった?
マーベル映画『ブラックパンサー』の主演で一躍有名になったチャドウィック・ボーズマン。
そのあまりに早すぎた逝去が2020年8月、本作は日本では彼が亡くなったあと、21年4月に公開された。彼が刑事ドラマの主人公として活躍する貴重な作品としてなら、本作は観る価値がある。
だが、どうしても声を大にして言いたいことがある。この映画のタイトルにまでなっているが、21本もある橋を封鎖して犯人をマンハッタン島に閉じこめる必要があったか。
いや、百歩譲って、ブルックリンで盗んだ大量のコカインを売りさばくのに犯人がマンハッタンに逃げ込んだに違いないという読みが当たり、また、捜査の主導権をFBIに渡したくないというNYPDの事情があって橋を封鎖したのだとしよう。
だが、その行為自体が映画の中でまったく盛り上がりに役立っていないというのは、大きなマイナスだと言わざるを得ない。
ブルックリン・ブリッジ、封鎖できません!
24時間眠ることのない街・マンハッタンをロックダウンして、犯人を追い詰める。今は深夜1時、タイムリミットは朝の5時。
さあ、アンドレ・デイビス刑事(チャドウィック・ボーズマン)は、急遽バディを組むことになった麻薬課の女性刑事フランキー・バーンズ(シエナ・ミラー)と、制限時間内に犯人を挙げることができるか。
普通は、こういうストーリーを想像するだろう。映画の劇場予告だって、そういう誘導だったと記憶する。
◇
交通を遮断し、町全体を封鎖する設定は、それだけで非日常の興奮を呼ぶ。
マンハッタン島全体を刑務所化した、ジョン・カーペンターの『ニューヨーク1997』や、ゴッサムシティを封鎖し地獄にしようとした『バットマン・ビギンズ』。21本どころか、織田裕二はレインボーブリッジを封鎖するだけで、当時の実写邦画興行収入記録を塗り替えている。
◇
橋の封鎖は、それだけ映画的には魅力的な素材なのだ。だから、この肩すかし感は大きい。
橋が封鎖されてクルマが渋滞・混乱するシーンもない。そもそも、大きな影響のでない深夜時間帯の4時間封鎖という設定は、裏を返せば、映像的にはショボいということだ。
トリガー・ハッピー・ガイ
本作は、主人公アンドレの父親の葬儀シーンから始まる。彼の父は、暴漢の凶弾に倒れ殉職した警官だった。やがてアンドレも刑事となり、警官殺しの犯人にはひときわ高い確率で射殺すると署内でも問題視されていた。
正義感あふれる優秀な刑事だが、トリガーハッピーな男。アンドレのキャラクター設定はなかなかいい。『ダーティ・ハリー』のイーストウッドから『アンフェア』の篠原涼子まで、早撃ちの刑事は映画には欠かせない。
◇
相棒が子持ちの女性刑事というのも、バランスが良いではないか。そういえば、ハリー・キャラハン刑事も、過去に新人女性刑事と組んでいたっけ。
そう、本作はシンプルに刑事ドラマとして観る分には、決してつまらない映画ではない。下手に橋など封鎖するものだから、あらぬ方向に期待が行ってしまうのだ。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
何を演じても怪しく見えるのは、この人
退役軍人のマイケル(ステファン・ジェームス)とレイ(テイラー・キッチュ)は、ブルックリンの店のワイナリーを襲い、コカインを盗み出そうとする。
だが、聞いていた量の10倍もブツがあり驚いていたところに、運悪くパトロール警官の連中がやってくる。何人もの警官を撃ち殺し、二人は命からがら逃げていく。
◇
この事件を追うことになるのが、アンドレだ。NYPD85分署のマッケナ署長(J・K・シモンズ)の指示で、麻薬課の女性刑事フランキーと組む。
あまりに詳細に公式サイトにストーリーが書かれているので、興味のある方は、そちらをお読みいただきたいが、オフィシャルにここまで自ら語っているのは、事件の裏にある<驚愕の事実>というものに、相当自信があるのだろう。
◇
ただ、ネタバレになるけれども、事件の序盤でJ・K・シモンズが登場した時点で、こいつはただ者ではないな、というオーラが十分に放出されている。
警官殺しの麻薬強奪犯二人を追い詰めていくのはよいが、アンドレ以外の刑事たちは、仲間の仇討ちというよりは、口封じに犯人を殺そうとしている様子がミエミエだ。
アンドレとフランキー、そしてマッケナ署長以外の警察官は、率直に言ってあまりキャラが立っていないので、みな書き割りのように見えてしまう。
犯人側の魅力的キャラが早死にしすぎ
一方で、犯人の二人組マイケルとレイは互いを補完しあうような性格の描き分けがなされていて、中盤で一人死んでしまったのは、早すぎたような気もする。
大量の牛肉がぶら下がった冷蔵室でのチェイスなんかも、もう少しドキドキさせてほしかった。『ブラックレイン』の松田優作と牛肉の揺れるカメラワークを観てほしい。
早死にしすぎて勿体ないのは、マネーローンダリングを引き受ける謎の人物アディ(アレクサンダー・シディグ)も同様だ。
犯人の二人組マイケルとレイにとって、この男は信じていいのかどうか、100万ドルを渡してマネロン後に約束通り入金してくれるのか、など緊迫のシーンだったのに、あろうことか突如猛襲をかけてきた警官にドアの覗き穴から銃撃されてしまうのだ。
次々と魅力あるキャラを殺していって、映画は成り立つのか。不安になってしまう。
結局、カギを握るのは、そのアディから託されたUSBメモリー、伝えられたのは<8-5>というメッセージに<coolhand>なるパスワード。これでUSBから情報引き出すプロセスは、あまりに日常的な動作で興奮ゼロ。
Cool Hand(最高の手札)なのは分かるけど、8-5(Eight-Five)が85分署の意味で、そこに悪徳警官の不正データが入っているって、あんなに厳重なセキュリティの部屋に住んでる割には、安直すぎないか。
エンディングは夜明けが良かった
本作は、途中から<驚愕の事実>が姿を現し始めたせいで、本来の目的に思えた、制限時間内に犯人を捕まえることは、中途半端に達成されてしまう。
夜明け前に地下鉄の車内で、残った犯人が射殺されてしまうのだ。アンドレが怒りにまかせて撃ったのではないのが救いだが、まさか犯人がみな死ぬとは意外。
夜明け近くのグランド・セントラル駅に警官が集まっているシーンは絵になるのだが、事件が解決してハッピーエンドという雰囲気ではない。
だって、アンドレは疑っていた相棒フランキーのスマホを借りて、彼女と悪徳警官との通信記録を見てしまうのだ。スマホの記録で真相をつかむっていうのも、ひねりがないなあ。
そんでもって、マッケナ署長の家に朝駆けして、署長に真相を自白させた後、襲ってきた85分署の悪徳警官たち(5人位いたか)を全員撃ち抜いてしまう。アンドレ、強すぎるだろう。ヴィブラニウムの戦闘スーツも着てないのに。
◇
時間ギリギリでどうにか犯人(或いは悪徳警官)を逮捕して、グランド・セントラル駅で夜明けを迎える。そして朝焼けの下で、橋にはまたクルマが流れ出す。
夜中に橋を封鎖して犯人を追う映画であるなら、そういう定型的な終わり方が良かったのだけれど、ベタすぎるか。