『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(1995)
『undo』(1994)
『undo』
公開:1994 年 時間:47分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 岩井俊二 キャスト 妻(萌実): 山口智子 夫(由紀夫): 豊川悦司 カウンセラー: 田口トモロヲ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
あらすじ
マンションに暮らす一組の夫婦。妻・萌実(山口智子)の歯列矯正の治療が終わり、やっと二人の時間ができたと思った矢先、夫・由起夫(豊川悦司)の仕事が忙しくなる。
萌実は退屈な一人の時間を埋めるために編み物を始めるが、自分の手を毛糸で縛っていることに気が付く。それをきっかけにあらゆるものを縛りたいという欲求にとらわれる萌実。
心配した由紀夫は萌実を連れてカウンセラー(田口トモロヲ)に診てもらったところ「強迫性緊縛症候群」と診断された。次第に萌実の症状が悪化していき、やがて「私を縛ってよ」と言いはじめる。
今更レビュー(ネタバレあり)
きっかけとなったのは、雑誌「ザ・テレビジョン」での岩井俊二と山口智子の対談だったようだ。当時売れっ子の彼女は、健全で逞しい役ばかりで、「私はもっと屈折した役もやりたい」と。
その後に岩井俊二が雑誌「BRUTUS」で山口智子の緊縛写真を撮り、それいつの間にか、このフジテレビによるオリジナルビデオに繋がった。
初長編『Love Letter』の公開前に単館で限定レイトショー公開されたが、あまりの反響の大きさに『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』と二本立てで正式公開されたという出自である。
◇
それこそインターネットなどまだ盛んではないが、メディアはいろいろな形で変貌と拡散の術を模索していた時代だ。岩井俊二も時代の寵児のひとりとして、熱烈なファンがここまでの道筋を作っている。
作品は50分近くあるが、ストーリーは極めて抽象的だ。一応、田口トモロヲ扮する怪しげなカウンセラーが「強迫性緊縛症候群」なるもっともらしい病名をあげるが、要は、見るもの全てヒモで縛らずにはいられなくなる女の話である。
夫役に、『Love Letter』の豊川悦司も登場するが、本作では添え物に近い(まあ、岩井作品において、全ての男優は添え物かもしれないが)。
ただし、トヨエツは、岩井俊二監督に山口智子の魅力をアピールし、前述の対談を実現させた功労者であり、この場に登場するのは必然であるらしい。
同日に公開中の『鳩の撃退法』を鑑賞したばかりなので、豊川悦司の変貌ぶり、というか役者っぽい年の取り方に、四半世紀の歴史を感じる。
本作で観るべきは、歯列矯正から解放されたとたんに、縛られなくなることに不安を感じ始めたのか、ペットのカメであれ、はさみであれ、夫であれ、自分の指であれ、全てを縛り付けずにはいられない女を映像化した、非日常の美しい光景であり、それ以外にはない。
矯正器具を外された後の、ふたりのキスは、けして濃厚というのではないのだが、実に美しくまたエロティックなのが印象的だ。こんな山口智子は、当時見たことがなかったはずだ。
ポスタービジュアルにも使われている、坂道の途中で二人が抱き合ってキスするシーン。そしてその下を何人もの制服姿のこどもたち(幼稚園児か小学校低学年の女児たち)が通り過ぎていく、モノクロで衣装が統一されたシーンは、息をのむほどに幻想的だ。これだけで、本作は見る価値がある。
そして、雰囲気を盛り上げるREMEDIOS(麗美)の叙情的なメロディもピタリとハマる。
最後には男を残して、彼女は消えてしまう。ぼくらは縛られていたのか、ほどけていたのか。この問いかけが繰り返されるが、この際どうでもいい。あれ、このフレーズは、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』でも使った気がする。