『イン・ザ・ハイツ』 考察とネタバレ:マンハッタンの北のはずれには、こんなホットなエリアがあったのか!

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『イン・ザ・ハイツ』 
 In the Heights

ブロードウェイの傑作ミュージカルがついに映画化。ラティーノのパワー全開の歌とダンスで、ワシントン・ハイツの街中が揺れる!

公開:2021 年  時間:143分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:  ジョン・M・チュウ
脚本:  キアラ・アレグリア・ヒュデス
原作・音楽:リン=マニュエル・ミランダ
キャスト
ウスナビ:     アンソニー・ラモス
ヴァネッサ:     メリッサ・バレラ
ニーナ・ロザリオ: レスリー・グレイス
ベニー:     コーリー・ホーキンズ
アブエラ:     オルガ・メレディス
ケヴィン・ロザリオ: ジミー・スミッツ
ソニー:   グレゴリー・ディアス4世
ダニエラ:  ダフネ・ルービン=ヴェガ
カーラ:   ステファニー・ベアトリス

勝手に評点:4.5
(オススメ!)

(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

あらすじ (公式サイトより引用)

ニューヨークのワシントン・ハイツは、いつも音楽が流れる、実在する移民の街。その街で育ったウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニーはつまずきながらも自分の夢に踏み出そうとしていた。

ある時、街の住人たちに住む場所を追われる危機が訪れる。これまでも様々な困難に見舞われてきた彼らは今回も立ち上がるが―。突如起こった大停電の夜、街の住人達そしてウスナビたちの運命が大きく動き出す。

レビュー(まずはネタバレなし)

元気をくれる掘り出し物ミュージカル!

トニー賞四冠とグラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞を受賞した傑作ブロードウェイミュージカルの映画化

『ハミルトン』でも知られるリン=マニュエル・ミランダが、出身地であるワシントン・ハイツを舞台にしたこのミュージカル、オフブロードウェイを経てブロードウェイで初上演されたのは2008年という。

メガホンをとったのは、『クレイジーリッチ』ジョン・M・チュウ監督。

あいにく、舞台はまだみていないし、ワシントン・ハイツにも足を踏み入れたことはないが、劇場予告を観たらあまりに楽しそうで、出演者など誰も知らなかったのだが、すでに公開中と知って慌てて観に行った。

いやあ、予想以上に、素晴らしかった! 歌とダンスのパワーに圧倒。

こんなに楽しめて、元気にしてくれる映画は、最近では珍しい。季節的にも今が旬だ。何せ、真夏の真っただ中に大停電が起きて、街中熱気でムンムンになる話なのだから。

(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

まるで現地の映画館にいるような錯覚

それにしても、緊急事態宣言のさなか、都内の映画館は来場者数がまだ低調なのは想定内だが、邦画・アニメにくらべて、あまりに洋画の動員数が寂しいのは残念。

なんと本作を観に来ていた何組かの観客は、私を除き全員ラテン系だったのには驚いた!これは初めての経験だ。みんな、当然のように音楽に合わせて身体を揺らすので、なんだか臨場感も一味違う。感動も一割増だ。

「彼女は酔っぱらったチタ・リヴェラだ」という劇中の台詞に彼らは大うけだったのだが、私には理解できず。調べてみると、ブロードウェイでは伝説的な大物女優だったのですね。勉強になりました。

(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

ワシントン・ハイツの住民たち

さて、舞台となっているワシントン・ハイツは、NYはマンハッタンの北部に位置するエリアで、ドミニカからの移民が多く住む町。

物語の主人公は、この町で小さな食料品店を経営する青年ウスナビ(アンソニー・ラモス)だ。彼には、亡き父が故郷ドミニカのビーチサイドに持っていた店を買い戻して、そこで暮らす夢があった。

そしてウスナビが恋心を抱いている、ヘアサロンで働きながらデザイナーを夢みるヴァネッサ(メリッサ・バレラ)。更に、町一番の才女で西海岸のスタンフォード大学に進学したニーナ(レスリー・グレイス)と、その彼氏で、ニーナの父の経営するタクシー会社で働くベニー(コーリー・ホーキンズ)

この二組の男女が物語のメインであり、ウスナビの店を手伝う従弟のソニー(グレゴリー・ディアス4世)、街のみんなの母親のような存在のアブエラ(オルガ・メレディス)、ニーナの父ケヴィン(ジミー・スミッツ)、サロンを営むダニエラ(ダフネ・ルービン=ヴェガ)カーラ(ステファニー・ベアトリス)など、温かい街の人々が脇を固める。

誰もが、多かれ少なかれ移民としての苦労を抱えている。優等生のニーナは街のみんなの誇りとして期待を背負ってスタンフォード大に進学するが、白人ばかりのキャンパスライフは差別ばかりで、孤独と劣等感に打ちのめされる。

ヴァネッサはデザイナーを目指そうと苦闘するも、安月給のヘアサロン勤めではマンハッタンに引っ越すこともままならない。不法移民のソニーは、自動車免許も大学進学も、あきらめなければならない。

みんなが壁にぶつかり、もがき苦しみながらひと夏を過ごしていく中で、運命の大停電がおきる。

(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

歌とラップとダンスの波状攻撃

ラテンポップの音楽と、ラップなのか台詞なのか混然として早口でまくしたてる言葉の連続掃射に圧倒される。

会話が突然歌になる不自然さでミュージカルを敬遠する人もたまにいるが、その点ではあまり違和感がないのではないか。ミュージカルのパートは、とにかく元気がいい。

そしてキレッキレのダンス。しかも街中全員総動員のようなダンスシーンばかりだ。これだけの大人数だと、さすがに全員が一糸乱れぬシンクロ率とまではいかないが、それはスケールの大きさと振付のパワフルさでカバーして余りある。

それに、舞台装置としてのワシントン・ハイツは、いろいろなバリエーションでフル活用。

目抜き通りの左右の建物から、垂れ幕のように色とりどりの布を次々と垂らしてみたり、大停電の中で打ち上げ花火を上げてみたり、消火栓からシャワーのように街中に放水してみたり。

プールを真上からカメラがとらえた、カラフルな浮き輪のシーンも見応えがあった。

(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

パワーレスじゃラテン系の名がすたるよ

背後には、ハドソン川にかかるジョージ・ワシントン・ブリッジが常に映り込んでいる。これは、この町のシンボルなのだ。

思えば、映画の中でマンハッタンにかかる橋といえば、大抵はブルックリン・ブリッジだったような気がする。古くは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』から、最近なら『マザーレス・ブルックリン』まで。

本作も、「パワーレス(停電)・ワシントン」になりかけたけど、ヘアサロンの移転で町を出るダニエラに、「みんな暑さでぐったりだなんて、ラテン系の名がすたるよ!」と檄を飛ばされ、ジョージ・ワシントン・ブリッジの前で、ダンス大会だ。

移民の人々を描いたミュージカルといえば、『ウェスト・サイド物語』プエルトリコ系のシャーク団を思い出すけれど、ウスナビ役のアンソニー・ラモスによれば、あの映画の俳優は本物のプエルトリカンではなかったとか。

対して本作は出演者のほぼ全員がラティーノ。そこはミュージカル映画の金字塔に負けないよう、こだわった点のひとつなのかもしれない。

(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

レビュー(ここから若干ネタバレ)

ここから若干ネタバレする部分がありますので、未見の方はご留意願います。

町を愛するひとびと

ウスナビの父親は移民としてどうにかたどり着いたこの国に感激して、初めて目にした軍艦の文字を息子の名前に付けた。だからU.S.NAVY(ウスナビ)なのだ。笑ってしまった。

ラテン系の連中は総じて元気で明るいけれど、もちろん悩みがない訳ではない。ウスナビも陽気で気立てのよい若者だが、いろいろと悩みを抱えている。

アメリカは夢の国ではあったが、移民の彼らは、どの世代であっても、何かしらのつらい現実を経験している。

ヴァネッサの勤めるダニエラのヘアサロンが移転するのも、わずか地下鉄で10分の距離だが、みんな、まるで異国の果てに行くような心境になっている。この町は、それだけ住民の心の支えになっている一つの集落なのだ。

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この町は、いつまで今の結束を維持できるだろう。ニーナの学費捻出のため、父ケヴィンは会社の土地を隣人に売った。この人物が経営するクリーニング屋は、地元連中には手が出ないような価格設定の店だ。

この町も立地の良さから、ジェントリフィケーションが進んでいくのかもしれない。そうなれば、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』のように、元の住民は、やがて立ち退きするしかない。すがるものは、誰かが高額当選したはずのロッタリーだけなのか。

尊厳を忘れないでいよう

本作は観る者に元気をくれる楽しいミュージカルであるが、四人の若者たちが苦しさの中でも尊厳を捨てず、人生を切り開いていく姿を描いているところにも共感できる。

恋愛ドラマとしての要素も大きいが、それ以上に重たいテーマもしっかりと描いているのだ。

ニーナとベニーがハイツの壁に立ってダンスするシーンの美しさに目をみはるが、あれは映画のみの演出なのだろうか。出演者の多くに見せ場が与えられていることも、楽しさを倍増させる。

音楽的な小ネタだが、アブエラのお気に入りの、サビの部分で針が飛んで何度もリピートする、スローダンスの曲のレコード盤がある。終盤に再度登場するのだが、この時はその針飛びとラップが美しく重なるアレンジになっていて、ここはカッコよかった。

ラストに向けては、ここには書かない伏線回収が他にもいくつかある。ちなみに、たびたび登場するピラグア(かき氷)屋の陽気な男性は、原作・音楽のリン=マニュエル・ミランダ本人だそうだ。役がハマりすぎて、全然気がつかないけど。

エンドロール後にもお楽しみが残っているので、お見逃しなく。観客席にいた10人ほどのラテン系のお客さんは、最後まで待たずに帰ってしまったので、このシーンを客席で観ていたの私ひとりだったのは得した気分。

本作はたまたま、東京はお台場の映画館で観たのだけれど、外に出たらちょうど映画の背景とまったく同じ構図で、レインボーブリッジが光っていて、つい感嘆の声を漏らしてしまった。さすがに踊りはしなかったけど、ちょっと嬉しい。