『ナイトクローラー』
Nightcrawler
視聴率至上主義が生む戦慄の報道パパラッチ。カメラを担いだ悪魔が、赤いダッジで現れる。ジェイク・ギレンホールが、まじで怖い。
公開:2015 年 時間:118分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: ダン・ギルロイ キャスト ルー・ブルーム: ジェイク・ギレンホール ニーナ・ロミナ: レネ・ルッソ リック: リズ・アーメッド ジョー・ロダー: ビル・パクストン リンダ: アン・キューザック
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
まともな仕事にありつけず軽犯罪で日銭を稼ぐ男ルー(ジェイク・ギレンホール)は、偶然通りかかった事故現場で報道スクープ専門の映像パパラッチの存在を知り、自分もやってみようと思い立つ。
早速ビデオカメラを手に入れたルーは、警察無線を傍受して事件や事故の現場に猛スピードで駆けつけ、悲惨な映像を次々と撮影していく。
過激な映像で高額な報酬を得るようになったルーは、さらなるスクープ映像を求めて行動をエスカレートさせていき、ついに一線を越えてしまう。
レビュー(まずはネタバレなし)
悪魔が来りて、カメラを回す
夜のロサンゼルスを駆けずり回って金になる刺激的な映像を探し求める報道パパラッチ。タイトルに偽りなしのこの作品、ジェイク・ギレンホールがこんなに役柄と一体化した作品は、かつて見たことがない。
もともと濃いめの顔立ちの彼は、黙って見つめるだけでその威圧感に相手が怖気づいてしまうほどだが、本作ではさらに12キロも減量に励み、わざわざ昼夜を逆転させた生活まで続けることで、主人公のルー・ブルームに現実味を与えている。
その努力が、あの死神のような存在を生み出したのだ。身の毛もよだつほど不気味なサイコ野郎。彼の行動はどこまでエスカレートしていくのか。
◇
陽光が降り注ぎ、ハイセンスな人々で溢れ、いつも渋滞している町。そんなステレオタイプなロサンゼルスのイメージとはかけ離れた実像。ダン・ギルロイは初監督作品とは思えない手堅い仕事ぶりだが、やはり脚本家出身だけあって、本作は脚本の出来の良さに唸らされる。
貧困に喘ぎ、夜の工場に不法侵入しては金網や銅線を盗んでは、その売り上げで暮らすルー。ある晩、交通事故現場に遭遇し、事故の映像を撮っては高値でテレビ局に売りつける報道パパラッチという仕事の存在を知る。
悪知恵が働くルーは、高級サイクリング車を盗んでは古物商で受信機とカメラに交換し、見様見真似で自分も報道映像を撮り始める。
天性の素質と勤勉さで快進撃
成り行きで始めたような仕事だが、ルーの性に合ったのだろうか、ここから彼の快進撃が始まる。いくつかの失敗を経験しノウハウを積み上げると、すぐにライバルを凌駕するようになる。傍受する警察無線のコードも、既に頭に入っている。
「僕は勤勉で志が高い人間だ」というだけあって、自分に自信を持ち、行動力があり、弁も立つ。彼は、テレビ局の女性ディレクターのニーナ(レネ・ルッソ)に体当たりし、映像の売り込みに成功する。
脚本に惚れ込んだというジェイク・ギレンホールが、台本の一字一句を忠実に再現したという、ルーの理屈っぽい台詞がはまっている。
◇
視聴率至上主義。ネタを少しでも高く売りたいルーと、刺激的な映像で数字につなげたいニーナの利害関係が一致する。また買い取ってあげるから、いい機材を使ってどんどん撮ってきなさい。
求人に応募してきたリック(リズ・アーメッド)を安月給でドライバーに雇い、ルーは次々と特ダネをモノにしていく。
とにかく数字が欲しいのよ!
事故でも、事件でも構わない。ヒスパニック系より、白人の被害者がいい。治安の悪いダウンタウンよりも、郊外の住宅街の現場がいい。犯人は貧困層かマイノリティがいい。肴は炙ったイカでいい(by八代亜紀)。
メインの視聴者層が求めるものは高く買うということだ。法務面や倫理面の観点で難色を示す、テレビ局の他のスタッフを強引に説き伏せ、ニーナはルーの持ち込み映像で数字を稼いでいく。
この頃のルーは、せいぜい警察の目を盗んで現場の屋敷に入り込み、壁に貼られた家族写真を撮るくらい。まだまだ、かわいいものだ。そして、ニーナが気づかないうちに、交渉の主導権は彼女からルーへと徐々に移っていく。
◇
ニーナは数字が取れないと立場が危うい時期にきているようだ。失脚とならないように、なりふり構わず数字を追う女性ディレクター。昔やってたフジテレビのドラマ『美女か野獣』で松嶋菜々子が演じていた役と似てるな、レネ・ルッソとはだいぶタイプが違うけど。
そして、撮影はエスカレートする
視聴率至上主義は、テレビがオワコンと言われて久しい今でも根強く存在していそうだが、スマホ全盛の世の中では、いくら報道パパラッチが無線傍受で駆けつけても、現場に居合わせた一般ピープルの方がいい絵が撮れてしまいそうだ。この手の職業はいまだに健在なのだろうか。
◇
それにしても、ジャーナリズムの映画となれば大抵は新聞記者が真実を求めてペンで戦う話で、テレビ局が舞台になると、ゴシップや内幕話が多い気がする。
パパラッチものも、芸能分野ならひたすら熱愛現場を張り込んで待つしかないが、本作のような報道分野だと、特ネタ欲しさについギリギリの行動をしてしまうのは、分からなくもない。
ヤラセと同じで、始めはウソではないものに少し演出を加える程度、本作でいえば、事故死体の場所を、いい絵にするためにちょっと動かすような、軽い気持ちだろう(後者は軽くないけど)。だが、だんだんエスカレートしていってしまうのだ。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
もはや、何でもやりたい放題
自信家で自己顕示欲の強いルーは、仕事が順調に回りだすと、まずはオンボロのトヨタ・ターセルから真っ赤な新車のダッジ・チャレンジャーに乗り換える。
およそ報道パパラッチ稼業には不向きなマッスルカー、それもド派手な色にしてしまうところが彼らしい。でも、イタリア製ではなくこの選択にしたことで、本作のアイコンになり得ている。ダッジといえば、映画の世界ではアウトローが好んで乗るクルマだし。
ルーの無謀な行動も、不法侵入や死体移動に飽き足らず、次のステップからは相当過激度をます。ライバルの同業者ジョー・ロダー(ビル・パクストン)のクルマに細工をして、走行中に事故がおきるように仕向け、涼しい顔でその映像を撮りに行く。ルーは、まるで悪魔の形相だ。
更には、警察が現場に到着する前に、殺人が起きた大邸宅への侵入に成功、犯人の顔や車両ナンバーをカメラに収めるが、それは提供せずに、屋敷内の惨殺死体映像を局に売る。そして、後日に犯人の居場所を通報することで、警察による逮捕劇を特ダネでモノにしようとする。
まあ、なんという非道ぶりだと思うけれど、考えればこの仕事につく前から悪行ばかり重ねてきた男だから、環境に染まってこうなったとは言い切れない。これはルーの本来の姿ともいえる。
終盤。犯人の二人組が立ち寄ったガラス張りの中華料理店。ルーから警察への通報。数分後に現れる警官と店の外でカメラを構えるルーとリック。緊張感が漲る。
そして銃撃戦。逃亡する犯人。犯人のクルマ、警察車両、ついにはダッジ・チャレンジャーの夜のLAでのカーチェイス。クライマックスにふさわしい盛り上がりだ。
◇
警察車両が大破し、犯人のクルマも横転。固定カメラで近づいて死んだ犯人を撮れ,リックにそう指示するルー。それに従うリックは、予想に反して生きていた犯人に射たれてしまう。衝撃的だ! ここまで悪魔だったか、この男は。
ルーは、自分の違法行為を知り弱味を握ったリックが、生意気な口をきき始めたのが許せず、わざとそうなるように仕向けたのだ。そして瀕死のリックを無視して、犯人逮捕劇を撮影する。これはまた、高値で売れるぞ。
ギルロイ監督好みの終わり方
ダン・ギルロイ監督は、本作の公開後、NETFLIXで『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー』というモダン・ホラーを撮っている。これもLAが舞台で、主演はジェイク・ギレンホール、おまけに監督の妻であるレネ・ルッソも共演していて、本作と顔ぶれが重複する。
作品そのものは本作とだいぶ違う路線だが、面白いことに、どちらも勧善懲悪ではなく、悪がはびこるラストなのだ。『ベルベット・バズソー』では、呪われた絵画がLAの町に拡散していく。本作では、新たに数名の若手社員を採用することで、更なる不幸の連鎖を暗示させる。
◇
私は、最後にリックが死ぬ間際まで撮っていた動画が発見され、ルーが断罪されるものと信じて観ていたのだが、ギルロイ監督は、きっとこういうダークな終わり方が好きなのだろう。
でも、本作にはその方が合う。いつも勧善懲悪じゃ、つまらない。メイクもしてないのに、なぜだかジョーカーに見えるよ、ギレンホール。新たなダークヒーロー誕生だ。この終わり方なら、ぜひ続編もみたい。