『ドクター・ストレンジ』
Doctor Strange
遂に登場、自信家で人格破綻した妖術使い。ベネディクト・カンバーバッチが似合い過ぎ。山奥の修行にビル街の倒壊など、いろんな過去作の繋ぎ合わせのようではあるが、頼れるヒーローがまた一人誕生したのは朗報。
公開:2017 年 時間:115分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: スコット・デリクソン
キャスト
スティーヴン・ストレンジ:
ベネディクト・カンバーバッチ
モルド: キウェテル・イジョフォー
クリスティーン・パーマー:
レイチェル・マクアダムス
ウォン: ベネディクト・ウォン
パングボーン: ベンジャミン・ブラット
カエシリウス: マッツ・ミケルセン
エンシェント・ワン:
ティルダ・スウィントン
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
ニューヨークの病院で働く天才外科医、スティーヴン・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)。交通事故を引き起こした彼は、外科医としては致命的な、両手にマヒが残るケガをしてしまう。
一瞬にしてその輝かしいキャリアを失った彼は、あらゆる治療法を試し、最後にカトマンズの修行場カマー・タージに辿り着く。
そこで神秘の力を操る指導者エンシェント・ワン(ティルダ・スウィントン)と巡り会った彼は、未知なる世界を目の当たりにして衝撃を受け、ワンに弟子入りする。そして過酷な修行の末に魔術師として生まれ変わったストレンジ。
しかしそんな彼の前に、闇の魔術の力で世界を破滅に導こうとする魔術師カエシリウス(マッツ・ミケルセン)が現れ、人類の存亡をかけた戦いの渦に巻き込まれていく。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
ストレンジャー・ザン・アベンジャーズ
新たに登場したこのヒーローも、コミックとしては60年代から存在し、何度も映画化の企画が出ては消え、ようやく日の目を見た。
ベネディクト・カンバーバッチという配役は、なかなかうまいと思った。アベンジャーズの一員として見た時にも、独特の存在感がある。
◇
直前の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、大勢のヒーローたちの活躍に目が慣れてしまった身には、今回の単体ヒーローもの、しかも生身の人間の成長話となると、ちょっと物足りなさを感じてしまうのは正直なところ。
実際、今後他のヒーローたちとも絡みはでてくるが、本作では、ほんの僅かに「アベンジャーズ云々」という台詞が出てきたり、ニューヨークに彼らのタワーが一瞬みえるくらいなものだ。それはそれで良い。
ノーヒットではないがノーラン
単独の作品ゆえに時間をかけて、主人公スティーヴン・ストレンジが不思議な力を持つまでの経緯が語られる。
天才外科医ぶりと傲慢な性格、自業自得でランボルギーニを大破させた自動車事故と絶望的な後遺症。そしてエンシェント・ワンに出会い、弟子入りし修行するまでが、丹念に描かれるのだ。
◇
いや、待てよ。どこかの山奥で導師に弟子入りし、厳しい修行の末に力を手に入れる、このヒーロー成長のプロセスには既視感がある。
そうだ、『バットマン ビギンズ』で、渡辺謙演じるラーズ・アル・グールに学んだブルース・ウェインの境遇と似ているぞ。
それだけに留まらない。本作のヴィランであるカエシリウスが使う魔術によって、マンハッタンが街ごとくねくねと曲がったり、逆さまになったりする様子は、まんま『インセプション』の夢の中と同じではないか。
MCUもついにネタ切れで、クリストファー・ノーラン監督の作風をパクるようになったか。
などと思っていると、終盤でドクター・ストレンジは、アガモットの目(タイムストーン)を駆使して、時間を逆行させてしまうではないか。これも、ノーランの『TENET』と被ったぞ。
とはいえ、公開は本作の方が早いので、一矢報いた感じではある。
あれも惜しい、これも惜しい
この作品は何度か観ているが、残念に思う点がいくつかある。
◇
魔術師カエシリウスはMCUの歴代ヴィランの中では、わりと魅力的なキャラだと思う。マッツ・ミケルセンがカッコいい。『007 カジノ・ロワイヤル』で彼が演じた、冴えない金庫番のような悪役とは大違いだ。
強いのは勿論、目の周りを黒塗りした装飾も『ブレードランナー』のレプリカントみたいでクールだ(そのメイクをしてたのは女優ダリル・ハンナだったけど)。
だが、勿体ないことに、そのカエシリウスが香港での最終バトルでスティーヴンたちと決着をつける前に、ラスボスのドルマムゥに消されてしまうのだ。うーん、消化不良。
指導者エンシェント・ワンについても不満がある。
ティルダ・スウィントンのキャスティングは、原作のアジア系の老人を白人女性に変えたことで<ホワイトウォッシュ>だと叩かれたが、私はあまり気にならなかった。
三蔵法師の夏目雅子的な雰囲気(古いね)もあるし、何よりここにアジア人男性を置くと、より一層バットマンに近づくし。
だが、エンシェント・ワンが禁断の暗黒の力を隠れて悪用し、長寿を得て、といった彼女の裏の顔をあえて話に盛り込んだ理由が、よく分からない。
話を複雑にするだけで、感情移入を妨げているように思う。彼女を実は悪人のように誘導する演出もまた<バットマンウォッシュ>になるので、避けた方が良かったのではないか。
さて、スティーヴンそのもののキャラはどうか。エベレスト山頂への放置プレイであっという間に術を体得し、きがつけば、名うての魔術師カエシリウスとタイマン勝負が張れるのだから、なかなかの才能なのだろう。
『アントマン』の量子の世界同様、本作による魔術の世界も、MCUに新たな切り口を見せてくれる。相棒となる浮遊マントが持ち主を無視して勝手に戦う様子も、どこか『ど根性ガエル』のピョン吉シャツのようで面白い。
タイムストーンを使い何百回も自分の負け戦を繰り返し、とても勝ち目のないドルマムゥを根負けさせるという、想像を超える無茶な技で交渉を成立させるのも、凡そヒーローものとは思えない着地の仕方だ。
◇
以上、本作単体ではイマイチ盛り上がりに欠けた本作ではあるが、今後続編も予定されており、巻き返しを期待したいところである。