『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
Captain America: Civil War
ソコヴィア条約署名の是非を巡ってアベンジャーズが真っ二つに分裂。それどころか全員参加でガチンコ乱闘戦になるなんて。こんな豪華な紅白戦、ほかではお目にかかれない。
公開:2016 年 時間:148分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: アンソニー・ルッソ
ジョー・ルッソ
キャスト
スティーブ・ロジャース / キャプテン:
クリス・エヴァンス
トニー・スターク / アイアンマン:
ロバート・ダウニーJr.
バッキー/ ウィンター・ソルジャー:
セバスチャン・スタン
ティ・チャラ / ブラックパンサー:
チャドウィック・ボーズマン
ナターシャ・ロマノフ:
スカーレット・ヨハンソン
ワンダ / スカーレット・ウィッチ:
エリザベス・オルセン
ヴィジョン:
ポール・ベタニー
サム・ウィルソン / ファルコン:
アンソニー・マッキー
ローディ・ローズ / ウォーマシン:
ドン・チードル
クリント・バートン / ホークアイ:
ジェレミー・レナー
スコット・ラング / アントマン:
ポール・ラッド
ピーター・パーカー / スパイダーマン:
トム・ホランド
シャロン・カーター / エージェント13:
エミリー・ヴァンキャンプ
ブロック・ラムロウ / クロスボーンズ:
フランク・グリロ
ヘルムート・ジモ:
ダニエル・ブリュール
サンダーボルト・ロス:
ウィリアム・ハート
メイ・パーカー:
マリサ・トメイ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
人類の平和を守るアベンジャーズの戦いは全世界へと広がるが、その人的・物的被害大きさから、アベンジャーズは国際的な政府組織の管理下に置かれ、無許可での活動を禁じられる。
一般市民を危機にさらしてしまったことへの自責の念から、アイアンマンはその指示に従うが、「自らの行動は自らの責任で持つべき」という持論のキャプテン・アメリカは反発。
二人の意見はすれ違い、一触即発の緊張感が高まっていく。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
ヒーローはつらいよ
タイトルこそキャプテン・アメリカだが、アベンジャーズの名を冠していないのが不思議なほどヒーローの過密状態だ。
しかも、彼らヒーローたちが、国連の管理化で活動を統制されるべきとするソコヴィア協定に署名するかどうかで、二分し対立する。
◇
これまでもヒーロー同士の戦いは行われてきたが、本作はそれが映画のメインイベントになっている点がユニークだ。しかも、逮捕者や重傷者をだすほどのガチンコ勝負なのである。
事の発端は、ヒドラの残党・宿敵ブロック・ラムロウのテロ計画の阻止。スティーブを救おうとしたワンダが誤って市民の犠牲者を出す。
このラゴスの一件と、過去のニューヨークやソコヴィアの戦いでの市民の犠牲から、アベンジャーズは乱暴な自警団かという世間の声が高まる。
そしてソコヴィア協定の署名を求められるのだ。ヒーローに世間の風当たりが強まるのはピクサーアニメの『Mr.インクレディブル』と通じる設定だが、彼らも契約社会に生きているのだという描き方はアメリカ的だ。
◇
契約とは無縁であろうソーとハルクが、本作に登場しないのも合点がいく(欠員がいるからアベンジャーズと銘打っていないのか)。
もっとも、彼らに署名を持ちかけるのが、なぜか国務長官に出世しているロス長官なので、この老獪に積年の恨みを持つハルクがいたら、一波乱あっただろう。
賛成派と反対派への分裂
さて、両派の分裂状況を整理してみる。
賛成派:トニー、ナターシャ、ヴィジョン、ローディ、ピーター、ティ・チャラ
反対派:スティーブ、サム、ワンダ、クリント、スコット、シャロン、バッキー
賛成派は、ヒーローの活動にも秩序が必要だという理屈だ。無頼派のトニーや裏稼業のナターシャがこの陣営なのは意外だが、過去に被害を出した贖罪的な意味もある。
トニーと近しいヴィジョンやローディも賛成派。新参者のスパイダーマンは断然若いルーキーで特に意見はないが、トニーのスカウトで参戦。
ブラックパンサーも表向きは賛成派だが、テロで殺された国王の父の仇を討つべくバッキーを執拗に追う。
◇
一方の反対派は、ヒーローは自分の信念と責任で行動すべきであり、国連が常に正しいとは限らないという意見だ。
スティーブは、亡くなった恋人ペギーの「譲らない点は決して譲るな」という言葉に背中を押される。サムやワンダ、そして引退しかけたクリントも彼に追随する。
ペギーの姪シャロンも味方し、前作でサムと戦った縁でアントマンも参戦。本作では敵であるバッキーは追われる身だが、パワーバランス上は反対派だろうか。
さて、この両陣営が激突するシーンは、確かに圧巻の迫力と興奮がある。
各メンバーの戦い方には個性があるし、新たに加入したスパイダーマンとアントマンは格下扱いで笑いも取りながら、バトルシーンに変化を与えている。アントマンには、ハルクに代わって巨体キャラの役割も担わされている。
昔から仲間意識のあるナターシャとクリントが敵対するのも面白いし、親密さが濃厚になるワンダとヴィジョンがすれ違うあたりも、にくい演出だ(これが後の『ワンダヴィジョン』の布石とは想像だにしなかったが)。
◇
新キャラとして出色なのは、ブラックパンサーだ。
彼のワカンダ王国のプリンスとしての出自が詳しく説明されるには、2018年の単独主演作品まで待たねばならない。だが、その名の通り黒豹のような俊敏な動きと鋭利な爪によるバトルアクションは、他のキャラを凌駕する。
チャドウィック・ボーズマンの佇まいもいい。2020年に癌で早逝してしまったのがあまりに悔やまれる。
何とも残念な脚本のあらっぽさ
さて、ブラックパンサーと巨大化アントマンの登場で、昭和の戦隊ヒーロー臭が漂ってはいるが、アクションそのものはよく出来ていて飽きがこない。
惜しむべきは脚本だろうか。まずは今回のアベンジャーズ内紛を画策した、ソコヴィアの暗殺部隊員のヘルムート・ジモ。
家族を失った逆恨みという動機も悲しいが、普通の人間が一人で、ここまでヒーローを苦しめてしまうのは、怖さよりもチープさが目立つ。
いや、内輪もめさせる発想はよいのだが、それは予算の尽きたテレビシリーズが苦肉の策で一話を仕上げるような話で、メガバジェットの本作には馴染まないと思う。
バッキーに至っては、ティ・チャラの父親の爆死は冤罪だったけど、その昔にトニーの両親を殺して血清を奪ったのは、彼なのだ、という矢継ぎ早の展開で感情移入が難しい。
◇
更には、スティーブとバッキーが苦労して退治しに行った、ウィンターソルジャーズの残党は、活躍の場もなくジモに殺されているという肩すかし感。
うーん、冒頭のラムロウの生物兵器テロも本題とは無縁だし、分かりやすいバトルに比べ、物語はだいぶ複雑で無理筋だ。
◇
本作では、信念を貫くスティーブに対し、自分の誤りを認めて再び共闘の姿勢を見せたトニーが、両親を殺したのがバッキーだった事実を知り、また対決を始める。
「お前には、父の作った盾をもつ資格はない」
二人の英雄の間にできた溝は深い。
◇
結局、150分近い時間をかけても、本作ではヒーローたちの分裂は収まらずに終わる。
劇中でスパイダーマンが、『スターウォーズ 帝国の逆襲』を模倣した戦いで、巨大化したアントマンの脚をもつれさせるシーンがある。
本作自体も、SWシリーズ随一の面白さといわれた『帝国の逆襲』同様に、危機的状況の解決は次作に先送りして、エンタメ追求に走りたかったのかもしれない。