『ザ・ファブル』
どんな相手も6秒で仕留める伝説の殺し屋ファブルが殺しを封印。岡田准一はコミカルな役でも強い。そしてあまりに美しいアクションを本作でも存分に披露。ああ、誰か彼の目出し帽を剥ぎ取って、素顔をみせてくれ。
公開:2019 年 時間:123分
製作国:日本
スタッフ
監督: 江口カン
原作: 南勝久『ザ・ファブル』
キャスト
佐藤アキラ: 岡田准一
佐藤ヨーコ: 木村文乃
清水ミサキ: 山本美月
小島: 柳楽優弥
砂川: 向井理
フード: 福士蒼汰
田高田: 佐藤二朗
浜田: 光石研
海老原: 安田顕
ボス: 佐藤浩市
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
超人的な戦闘能力を持つ伝説の殺し屋ファブル(岡田准一)は、育ての親であるボス(佐藤浩市)から、1年間殺し屋を休業して普通の人間として生活するよう命じられる。
誰かを殺したらボスによって処分されてしまうという厳しい条件の中、「佐藤アキラ」という偽名と、相棒ヨウコ(木村文乃)と兄妹という設定を与えられる。
大阪で暮らしはじめたファブルは、生まれて初めての日常生活に悪戦苦闘。そんな中、偶然知り合った女性ミサキ(山本美月)がある事件に巻き込まれたことから、ファブルは再び裏社会に乗り込んでいく。
レビュー(まずはネタバレなし)
ファイトコレオグラファーと呼ばれた男
講談社漫画賞を受賞した南勝久原作の人気コミックの実写映画化。本作の興行成績が良かったのか、すでに続編の公開が年明けに控えており、あわてて本作を観た。ちなみに原作は未読である。
まずは、何といってもファブルを演じる岡田准一について語らねばならない。彼の卓越した身体能力やアクションセンスは、本作でも遺憾なく発揮されている。
更に岡田は、『ボーンアイデンティティ』などのアクションで知られるアラン・フィグラルツとともに、ファイトコレオグラファーに名を連ねているそうだ。アクション振付師のことか。
◇
岡田准一のアクションに惚れ惚れしたのは『フライ、ダディ、フライ』が最初だろうか。『散り椿』の太刀裁きも美しかったが、やはり『SP』のような格闘系の動きがみたい。
そうなると、電光石火のような動きで相手を次々に仕留めていく(殺しは寸止めで)彼を存分に堪能できる、本作は俄然楽しい。
コミカルな岡田准一は、ぶっさん以来か
更に驚いたことに、このファブルは危険な殺し屋だというのに、アクション以外は笑いを取りに行くキャラなのだ。
別に笑かしてやろうというのではなく、いたってマジメにやっているのに、傍から見たら大ボケというパターンである。
◇
コミカル路線の岡田准一は懐かしい! 『木更津キャッツアイ』のぶっさん、或いは『タイガー&ドラゴン』以来と言ったら言い過ぎか。
ここ10年を振り返ると、時代劇を含むアクションものが大半で、怪しげな役は『来る』のオカルトライターくらいではないか。
チンピラ相手に喧嘩しながら動きを読み、わざと殴られて鼻血まみれで泣きべそかく役を、岡田准一がやるのは、最高にクールだ。まじめな顔してバカなことを言う彼をフェイタスのCM以外でお目にかかれるなんて。
◇
唯一の不満点は、ファブルとしてアクションをするシーンの殆どで、彼がスキーマスクのような目出し帽をしていることか。
勿論、彼のことだからスタントなんて使っていないのだろうけど、ならばなおのこと、顔を拝ませてもらいたいものだ。勿体ないにも、ほどがある。
キャスティングについて
主演についてばかり語ってしまったが、本作は共演者もみな生き生き演じている風で、こちらまで楽しくなる。
ファブルの相棒・妹設定のヨーコ。木村文乃は普段の役柄とガラッと雰囲気が違って、少しだけ見せるアクションがまたカッコいい。こういうのは、昔テレビドラマ『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』でもやっていたっけ。
◇
そして、ファブルの良き理解者というのか、ヒロインのミサキに山本美月。ファブルのヘタウマなイラストをめぐる平和なやりとりと、小島にAV出演を強要されるハラハラな場面とのギャップがいい。
大阪弁を喋る山本美月に加え、柳楽優弥、安田顕、佐藤二朗のメンバーが揃っていては、福田雄一のTVドラマ『アオイホノオ』を思い出さずにはいられない。
◇
この小島を演じた柳楽優弥は、相変わらず何をやらせてもうまい、というか、『ディストラクション・ベイビーズ』同様、この手の役をやらせると演技に見えない。
前半からクズぶりを発揮するが、後半のバトルでファブルに窮地を助けられてからは、一緒に戦うのかと思っていた。敵だか味方だか、最後まで予想がつきにくい役どころ。
新鮮に感じたのが、小島やファブルをねらう敵役のボスである砂川の向井理。そして、その一味でファブルを仕留めて都市伝説になろうとするフード男の福士蒼汰だった。
私が単に観ていないだけかもしれないが、この二人には、こういうバイオレンス系のゲス野郎な悪役は、珍しいのではないか。だから、とても楽しそうに役を演じているように見えてならない。
向井理はデビルマン(或いは大槻ケンジ)のような顔の傷も含めてとてもサマになっているし、福士蒼汰もまた、いつものゆるい笑顔を封印しての殺人狂っぽい感じがなかなか似合う。
彼にはこの路線をもっとやってほしい。そうか、福士蒼汰は『図書館戦争』でも岡田准一と共演していたから、親しい間柄なのかも。
◇
ボスの佐藤浩市は、存在感がありすぎて、映画の中ではバランスを崩しているように思う。安田顕の海老原は、岡田との掛け合いもほど良く、また役柄的にもなかなか渋くて好感。
レビュー(ここからネタバレ)
原作は知らないが、よく分からなかった点
どんな相手も6秒以内に必ず殺すと恐れられた伝説の殺し屋ファブルが、なぜボス(佐藤浩市)に育てられ、またなぜ1年間は人を殺さずにいないといけないのか。
アクション系の作品なので、あまり気にはならないとはいえ、そもそもの設定が、十分には理解できていない。
◇
サバン症候群のように、殺人のスキルが超人的に優れているというのが、まあ納得できたとしよう。
だが、それを1年間使わず放置しておけば、普通の人間に戻れるかもしれない、とボスは彼のために気を遣ってくれたというのは、ちょっと無理筋な気もする。
それゆえか、ファブルは苦手な<普通の人間なら、こうする>というものに異常に執着し、そしてはずしてしまうというパターンを繰り返す。このネタは、だんだんと食傷気味になってくる。
デッドプール越えのバトルアクション
ごみ焼却施設でのバトルはさすがの迫力で、これだけでも本作品を観る価値はある。
ファブルの戦い方や、フェイスマスクで戦う雰囲気などから、マーベル映画『デッドプール』のダークでグロい戦闘シーンを思い出した。ただ、岡田准一のアクションなのだから、こっちの方が出来栄えは上だと信じている。
◇
あれだけ長丁場でアクションをやっていたら、死屍累々のはずなのだが、そこは殺してはいけないというボスの命令もあり、誰一人死んでいないというのも、地味にすごい。殺すより寸止めで失神させる方が難しそうだから。
ある意味、『るろうに剣心』の不殺の誓いに通じるところがある。
ともあれ、岡田准一という稀少な才能のおかげで、アクションとコメディを無理なく融合することができた本作。次作公開前に観ておいて良かった。原作もぜひ。