『SHADOW/影武者』 考察とネタバレ:チャン・イーモウの新解釈・三国志は、振り回す傘が重そうだ

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『SHADOW/影武者』 影

これぞチャン・イーモウ監督の美学。水墨画のような色彩に舞うようなアクション。魅了されっぱなしだ。その人なしでも、影はある。

公開:2018 年  時間:116分  
製作国:中国

スタッフ
監督:    チャン・イーモウ

キャスト
都督/境州:ダン・チャオ
小艾:   スン・リー
沛良:   チェン・カイ
田戦:   ワン・チエンユエン
青萍:   クアン・シャオトン
楊蒼:   フー・ジュン
楊平:   レオ・ウー


勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2018 Perfect Village Entertainment HK Limited Le Vision Pictures(Beijing)Co.,LTD Shanghai Tencent Pictures Culture Media Company Limited ALL RIGHTS RESERVED

あらすじ

戦国時代、沛国が敵の炎国に領土を奪われて20年の時が流れた。

炎国との休戦同盟により平和な時間が続いていたが、若くしてトップの座を継いだ沛国の王・沛良(チェン・カイ)は屈辱的な日々に甘んじていた。

領土奪還を願う男たちを束ねる同国の重臣・都督(ダン・チャオ)は、敵の将軍で最強の戦士としても知られる楊蒼(フー・ジュン)に、手合わせを申し込む。

王は都督の勝手な行動に怒りをあらわにするが、王の前にいる都督は影武者だった。本物の都督は、影武者に対して自由と引き換えに敵地での大軍との戦いを命じていたのだ。

レビュー(まずはネタバレなし)

チャン・イーモウ監督の新解釈・三国志

巨匠チャン・イーモウ監督が「三国志」の荊州争奪戦を大胆にアレンジして描いた武侠アクション。レッドクリフならともかく、荊州争奪戦のことは、あいにく覚えていない。

だが、映画を鑑賞するにあたって、特に不具合はない。ひたすら、チャン・イーモウ監督の手による流麗なアクションを堪能すればよいのだ。

誰が主役かもよく知らずに観始めたので、都督が敵国の王の誕生日にゴマをすりに行く人物なのかと誤解したが、どうも勝手が違う。

沛国の王・沛良が事なかれ主義の腰抜けなのは分かりやすいが、王の命令でも領土奪還までは、夫婦とも琴を演奏しないのだという都督の妻・小艾(スン・リー)。この緊張感は何だ。

そして謎はすぐに解ける。都督と名乗っていたのは、彼の影武者・境州(ともにダン・チャオ)だったのである。

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ただアクションに惚れ惚れする至福の時

ここから物語は分かりやすくなるため、安心してアクションの美しさに没頭できる。

かつて敵の将軍・楊蒼(フー・ジュン)に敗れ、怪我をした都督は、影武者・境州を鍛えて思いを託し、再度戦いに挑もうとする。

陰と陽の太極図を描いた床で鍛錬をする二人。勢力を見せつける敵の炎国が『陽』なら、彼らは雨と水を味方につけ、『陰』の力で勝つしかない

女が傘を回すような動きで相手の攻撃をしなやかに交わすのがよいと、小艾の提案が受け入れられる。

普段は一旦同じ寝室に入るも別々に眠る影武者と妻とが、この傘を回す鍛錬で心と身体をひとつにし、ついに技を体得する。そのアクションの何と美しいことよ。

思えば『HERO』『LOVERS』でもチャン・イーモウのアクションの美しさは折り紙付きだった。

単なるワイヤーアクションの域を脱した、空中を舞う戦いだが、それはよく見る特撮アクションとは一線を画す。視覚効果やCGは、ほとんど使っていないという。

さらに今回は、全編を通じた墨絵のようなモノトーンの美しさが際立つ。総天然色に慣れてしまった目には、ほんのわずかの淡い色彩が、こうも美しいものかと気づかされる。

(C)2018 Perfect Village Entertainment HK Limited Le Vision Pictures(Beijing)Co.,LTD Shanghai Tencent Pictures Culture Media Company Limited ALL RIGHTS RESERVED

盛り上がること間違いなしの決戦シーン

さて、訓練ではただの唐傘だったが、この傘の攻撃がどうなるか。

楊蒼との勝負、そして領地奪還のために立ち上がった、田戦(ワン・チエンユエン)率いる兵士たちの武器に使われるのは、まさに飛び道具。

鋭い刃が無数に組まれた、くるくる回せば手裏剣のように刃が飛んでいく秘密兵器なのである。

まるで『キングスマン』に登場する仕込み傘のようなこのガジェットのおかげで、正統派のアクションが少し嘘っぽくなってしまった気もするが、盛り上がりのためには仕方ない。

影武者・境州と楊蒼の三本勝負のような技の競い合い(ルールはいま一つ意味不明だったが)、そして並行して繰り広げられる、田戦らの沛国の有志たちと楊蒼の息子・楊平(レオ・ウー)率いる炎国兵士の戦いは、どちらも見応えがある。

レビュー(ここからネタバレ)

影武者とは何と苦しい生き方か

黒澤明監督の『影武者』を例に出すまでもなく、影武者というのは、歴史にその名は残さないものの、実にドラマになる存在である。

本作でも、病気になった都督に代わり、兵士たちを惹きつけ、敵と戦うのはこの影武者なのだ。

時代もジャンルも全く違うが、クリストファー・ノーラン監督の『プレステージ』に出てくる影武者を思い出した。本人が怪我をすれば、影武者も自分の身を刻む

そして、有名になってくると、本人よりも影武者が主導権を持ち始める。このあたりは、両者に共通する部分だ。

影武者として実力をつけた境州だが、自分とは何者なのか、或いは何者でもない影なのか、自問自答しながら生きている。

領地を奪還すれば自由の身にし、母親とも暮らせるようにしてやる。都督の約束を前に、彼は楊蒼と戦わざるを得ない。彼の苦しみを理解し、慰めてくれるのは、都督の妻・小艾ただ一人。

沛国の王の秘策は、妹の青萍(クアン・シャオトン)を楊蒼の息子・楊平の妻に差し出し、政略結婚で戦争を回避することだ。

だが、楊平の返答は、側室でなら迎えてもよい。この屈辱に「それも一つの手立て」と平静を装うヘタレ王。思えば、男女合わせて豪傑ぞろいの本作において、唯一のチキン野郎はこの王ではないか。なかなかの熱演ぶりだ。

そして敵国の楊蒼と楊平の父子は、頑強でカリスマ性のある父と、切れ者でイケメンの息子。あまりに差がある。

「屈辱に甘んじるなら、殿の代で国は滅びます!」
勇ましい家臣の田戦が注進し、決戦は盛り上がろうとしている。

この沛国と炎国の争い、そして境州と楊蒼のタイマン勝負をどう描くかが本作の肝だ。

その点では、アクションの切れ味水墨画のような美しさも、また戦いのバックで流れる、小艾と都督の琴の響きも、どれをとっても一級のエンタメであり、チャン・イーモウ監督の美学に改めて感服する。

彼のフィルモグラフィを振り返ると、多種多様な引出しのある才人なのだと再認識。

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ここから激しい二転三転が始まる

この戦いを見れば、映画としても満足なのだが、最後にまだ二転三転が続く。ちょっとひねりすぎではと、正直思う。誰にどう感情移入していいか、混乱してしまうのだ。

以下、具体的にネタバレしていますので、未見の方はご留意願います。

殺人傘戦法で楊蒼を倒した境州、油断した楊平を相討ちにして息絶えた姫・青萍、そして田戦らの善戦で炎国から領地を奪還した沛国。

だが、この後、王・都督・境州の三人の利害関係が、複雑にからみあう。

王は、本物の都督を殺害することで、境州と小艾を本当の夫婦として自分の配下に置こうと企んだ。都督の仕業と見せかけて境州の母親を殺したのも王だ。

一方、都督は刺客に易々とは殺されず、王を斬りつけた後、境州にとどめを刺せと言う。都督は沛国を支配したかった。それには王が邪魔だ。更には、全てを知る影武者の存在も邪魔だった。

都督は境州に不意討ちを仕掛けるが、返り討ちにあい、死ぬ。そして、境州に、王暗殺の罪をなすりつけられるのだ、仮面をつけた賊として。

最後に残るは境州だった。彼は、ようやく、「その人なしでも影はある」ことを悟ったのだ。影は本人になり、この国の王となろうとしていた。

この目まぐるしく善悪が入れ替わる展開に、映画の余韻を楽しむどころではなくなってしまった。

ラストは、都督になりすまして兵士たちの前に躍り出て王の死を告げる境州。彼が影武者だと知っている田戦も、複雑な表情だ。都督が死んだのなら、自分はこの男に従うべきなのか。

そして妻・小艾もまた、境州に同情はしても、都督を愛していた。夫を殺された衝動で屋敷から飛び出そうとしても、自分にはもはや、境州を夫として生きていくしか、道がないのだ。

その絶望が、彼女の身体を震わせているのだろうか。