『この世界の片隅に』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』今更レビュー

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『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』 

<のん>の広島弁のすずさんとコトリンゴの絶妙なハーモニー

公開:2019 年  時間:168分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:   片渕須直
原作:    こうの史代
            『この世界の片隅に』
音楽:     コトリンゴ

声優
北條すず: のん
北條周作: 細谷佳正
黒村晴美: 稲葉菜月
黒村径子: 尾身美詞
白木リン: 岩井七世

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

ポイント

  • (さらにいくつもの)シーンを追加し味わいの増した長尺版で、もう一度すずのいる世界へ飛び込もう。何度観ても、冒頭のコトリンゴの曲と、<のん>のほんわかした広島弁にすっかりやられてしまう。

あらすじ

1944年2月、18歳のすずは広島から軍港のある呉の北條家に嫁ぐ。

戦時下、物資が徐々に不足する不自由さの中、すずは持ち前の性格で明るく日常を乗り切っていたが、翌年の空襲によって大切なものを失う。

広島への原子爆弾投下、終戦。それでもすずは自分の居場所を呉と決め、生きていく。

レビュー(ネタバレなし)

長尺版ならではの深みがあった

キネ旬日本映画ベストテン堂々の1位、異例のロングランヒットも記憶に新しい『この世界の片隅に』に、約30分の新たなシーンを追加した長尺版だ。新たに作成したシーンであることから、ディレクターズカット版ではないと、片渕須直監督は語っている。

オリジナルを複数回、テレビドラマも観ていたのでもういいかなと思っていたが、なるほど、遊郭に暮らす白木リンとすずの交流を中心としたシーンの追加には、前作ではやや説明不足の感が否めなかった展開にも光が当たり、大変深みの増した作品に仕上がっている。

アニメで168分という長尺は、あまり比肩する例が思い浮かばないが、まったく退屈を感じさせないのは、さすが原作の魅力であり、作画と声優陣の努力の賜物だと思う。

(C)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

改めて感じたこと、あれこれ

追加されたシーンは大体認識できたように思うが、そこだけ取り上げて感想を書くわけにもいかず、かといって元の作品について改めてレビューするのも変なので、今回はちょっと書きにくい。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』という題名同様、追加の仕方がユニークなので、取り扱いが難しいのだ。前作同様のコメントになってしまうが、改めて感じたことをいくつか書かせていただく。

本作は紛れもなく反戦映画だと思っているが、同じ広島を舞台にした代表的な反戦マンガである『はだしのゲン』の直球勝負のメッセージ性に比べると、あまりに自然体であり、貧しく苦しいながらも、時にほのぼのとした日常生活が、戦争と共存する形で描かれている。

だからこそ、戦争の怖さ、愚かさ、醜さが、多くの人々の胸に浸透していくのだろう。

反戦映画には多種多様なスタイルがあってよく、本作でのすずは正面から戦争を反対するわけではなく、むしろ玉音放送を聞き悲嘆するのだが、観る者は、彼女の慟哭のなかに本心を読み取るのだ。

すずの声優を担当した<のん>の仕事ぶりがやはりハマり過ぎている。彼女抜きにしてこの作品がここまで愛されることは考えられない。観終わっても、彼女の広島弁が心地よく耳に残っている。

劇中では全編を通じ、原爆投下の日をカウントダウンするかのように、丹念に日付が表示されていく。朝ドラ『あまちゃん』でも、東日本大震災の日にむけて日付が示されていたのを、<のん>の声で思い出した。

そして、忘れてはいけないのが、コトリンゴの楽曲だろう。この歌声も、すずの声同様に、しばらく頭の中を駆け巡っている。本作の世界観にこれほど合うミュージシャンが、思い浮かばない。両者はすっかり私の脳内でマッチングされてしまった。

最後に作画について。素朴な2Dアニメはとても柔らかく、本作になじんでいるが、その中においても、海の上のうさぎの表現や、爆撃と絵の具を重ねる描写、空を浮かぶ戦艦あおば、そして手をつないだ晴美を失ってしまう際の落書きのようなアニメなど、作画そのものの表現力の豊かさは、当然ながら本作の魅力のひとつだと思う。

白木リンとすずの交流

今回大きくシーンが追加された遊女のリンについても少し触れておきたい。

妊娠していないと分かり気落ちするすずに、

「跡取り産むまで頑張るのが嫁の務めなの?ダメだったら、実家に戻されて挺身隊?それでも悪くなさそうじゃない。この世界は何とかなるものよ」

と励ましてくれ、すずの絵を褒めてくれ、こんな場所(遊郭)にやってきてはダメだと諭すリン。

前作でもほのめかしていたが、周作がすずと結婚する前に、遊郭に行って、店をひかせて結婚しようとしたのがリンだ。

すずにとっては、恋敵のような存在だが、不思議とそういう関係ではなく、むしろそのことが分かってさえも、リンとの友情の方が大切に思える間柄で、周作が邪魔に思えるほどである。

彼女の優しい人柄が伝わってくる。すずが幼少の頃、祖母の家の屋根裏に秘かに潜んで生活していたみなしごのリンと出会っていて、それはすずの大事な隠し事であった。

一方で、これは前作にもあった気がするが、北條家にすずの幼馴染の水兵・哲が現れ、周作は気を利かせて納屋で二人だけの時間を作ってやる。

夫婦の夜のシーンに加え、この幼馴染ともエロティックな雰囲気になりかけるシーンがあるのだが、ここで彼女は、故郷にいたときから好きだった哲の存在と、結婚してから好きになっている夫の存在に葛藤する。

ただそれは三角関係的な苦悩というよりは、すずを強引に呉に連れてきて結婚した引け目から、妻に哲との夜をお膳立てする周作の妙な気遣いと、夫のいる自分に思いやりもなくガサツに迫ってくる哲の強引さに、腹が立っただけなのかもしれない。

ともあれ、男女四人の奇妙な関係は、戦争の波の中で次第に崩れていく。

(C)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

戦争で失った大切なもの

そして、すずの両親や兄、晴美やリン、妹の青春や自分の右手、あまりにも大きな数々の大切なものを失って戦争は突然に終わる。右手を失ったすずが、その右手にまつわる数々の思い出を独白する、その無感情な声が蝉しぐれのように反響する。

母親を失い、戦争孤児になった子を、背負って呉の実家に帰ってくるすずと周作。みんなで、気丈に、明るく、この子を育てていこうとする北條家の人々。希望のあるラストで少し救われた思いだ。

「この世界の片隅に、うちをみつけてくれてありがとう」

そう、すずは周作にいう。生きていく場所をみつけてもらったすずが、同じように小さな命に、生きる場所をみつけてあげたのだ。

タイトルが<片隅で>ではなく、<片隅に>である理由を最後に思い出した。