『インセプション』
Inception
脳の老化防止には、まずは本作、次に『TENET テネット』で決まり。
公開:2010 年 時間:148分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: クリストファー・ノーラン キャスト ドム・コブ:レオナルド・ディカプリオ サイトー: 渡辺謙 アーサー: ジョセフ・ゴードン=レヴィット モル・コブ: マリオン・コティヤール アリアドネ: エリオット・ペイジ イームス: トム・ハーディ ユスフ: ディリープ・ラオ ロバート: キリアン・マーフィー マイルス: マイケル・ケイン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
ポイント
- 畳み掛ける夢の多層構造で、獲物に考えを植え付ける。脳トレに最適。娯楽で観られる程ヤワじゃない。ノーラン監督の代表作だが、何度観ても疲れる。夢の中の地下3階か4階で、何十年も暮らすのは結構快適かも。
あらすじ
ターゲットの夢の中に入り込み、潜在意識から情報を盗み出す男たち。
ドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)と相棒のアーサー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、盗みに失敗したターゲットのサイトー(渡辺謙)から、逆に、相手に考えを植え付ける<インセプション>の仕事を持ちかけられる。
ライバル企業の社長後継者であるロバート・フィッシャー(キリアン・マーフィー)に、父親の会社を解体させる考えを植え付けるのだ。
コブにはある事件の犯罪容疑がかけられており、米国への再入国ができず、愛する子供たちに会うことができなかった。サイトーは、ミッションが成功すれば、入国できるようにしてやるという。コブは仕事を引き受け、チームの編成に入った。
レビュー(ネタバレなし)
夢の階層構造による複雑さ
『TENET』の公開に先立ってノーラン夏祭りなるものが映画館で上映されていた。本作もその中で採り上げられており、更には公開10周年だそうで、ついまた観たくなった。
練りに練ったストーリー構成で知られるクリストファー・ノーラン監督にして、20年の構想期間をかけたという本作は、その複雑さも群を抜いている。
なかでも難解なのは、夢が階層構造を持っていることだろう。夢の中で夢を見る、いわゆる多重夢というやつだ。
現実世界でターゲットとともに眠り、夢の第1階層で難航すればさらにその下の第2階層、さらにその下にと、どんどん潜っていきながら、潜在意識の中でターゲットに考えを植え付けようとするのだ。
『インターステラー』と違いこちらは夢だが、本作でも時間の流れ方が一様ではない。時間の流れは深い階層ほど早く、第1階層の1時間は現実では5分。
このくらいの感覚差なら、私も実体験からもそういうことがあった。だが、深い階層で50年も暮らしていた話が出てくると、さすがに想像しにくい。
また、ターゲットも防衛策を講じることができ、夢に侵入してきた外敵に攻撃を仕掛ける武装部隊もでてくる。
ドリームチームの結成
チーム編成としては、コブがヘッドで、アーサーがその補佐。夢の中の設計を担うのがアリアドネ(エリオット・ペイジ)、相手の思考を誘導するのがイームス(トム・ハーディ)、眠りの鎮静剤を調合するのがユスフ(ディリープ・ラオ)といったメンバー。これに、仕事の成果を見極めるため、サイトーも参画する。
◇
映画は難しいが、キャスティングは最高だったと思う。レオや渡辺謙は勿論いいが、光っていたのはジョセフ・ゴードン=レヴィットとトム・ハーディか。
キリアン・マーフィーは、『ダークナイト』のスケアクロウの印象が強いけれど、こういう役も似合う。マイケル・ケインも出てたから、ちょっとバットマン色が濃厚。
レビュー(ネタバレあり)
たまには脳を鍛えよう
夢から上の階層に引き上げるためには、キックと呼ばれる行為でトリガーをひく。特定の音楽を聴かせたり、落下や水中に落とすことで内耳の三半規管を作用させたりして、夢から覚醒させるのだ。
また、夢の中で殺されれば普通は目を覚ますものだが、鎮静剤が強すぎると、そのまま虚無の世界に落ちてしまうという厄介なルール。
更には、死んでしまった、コブの妻モル(マリオン・コティヤール)が夢の中に頻繁に登場することも、複雑さに拍車をかける。
第1階層は雨降るロスアンゼルス、第2階層はホテルの一室、第3階層は雪山の中にある病室、そして第4階層はコブとモルが50年間を過ごした虚無の世界。一応すぐに見分けは付くものの、目まぐるしく階層を移り変わる編集により、相当に脳が鍛えられる映画になっている。
なにせ、恥ずかしながら最初に観た時は、ロバートが父親の病室で「俺のマネをせずに、お前の考えで会社をやれ」と告げられた時に、ロバートと一緒にこちらまで感動してしまったくらい混乱していた。
観ているお前がインセプションされてどうすんだ、という話である。
これは娯楽大作なのか
さて、能書きが長くなってしまったが、贅沢なキャストとすばらしい特撮映像、さらには奇想天外なストーリーをぶちあげ、アカデミー賞も複数受賞した本作は、ノーラン監督の代表作のひとつなのだろう。
◇
ただ、率直に言って、この映画って、皆さん観ていて楽しめましたか、と疑問に思ってしまう。
いや、内容を忘れた頃に再観賞を複数回繰り返している私も、地上から地下4階くらいまでの夢の階層構造を追いかけるのがやっとで、とても感情移入なんてしている余裕がない。だから、観ていても、さほど楽しくないのだ。
ノーラン作品でいえば『メメント』だって『インターステラー』だって、話は複雑でも本作ほどではないので、もっと楽しく観ることができたのに。少数意見とは思うが、そこがちょっと残念。
少数意見(Minority Report)といえば、スピルバーグ監督の『マイノリティ・レポート』でトム・クルーズが、小さな男の子の幻影を追いかけて、苦しみながら仕事をしていたのを思い出す。子供たちに会えないコブと重なる。
コマは倒れるのか回り続けるのか
最後にラストシーンのトーテム(コマ)が回り続けるのか倒れるのか(現実か夢か)について語りたい。
この議論は公開当時から盛り上がりを見せたと記憶するが、改めて観てみると、その議論自体がナンセンスなのではないかと思う。
そこに答えがあるのならば、何らかのヒントを(通常は冒頭部分に)仕掛けておくのがノーラン監督のスタイルのはず。だが、今回は見当たらない。
これは、現実でも夢でもどちらでも正解。というより、そんなことは重要じゃないんだよ、ということではないか。
モルは、現実社会を夢だと信じ(そう植え付けられたため)、現実に戻ろうと自殺してしまうが、両者の違いを自信をもって我々は語れるだろうか。
現実(地上)と思ってるこの世界は、実は地下1階(第1階層)で、誰かのキックで突然引き戻されるかもしれないのだ。そう思えば、トーテムが倒れようが回り続けようが、大差はない。
現に、子供たちを抱きかかえるコブは、そんなことに関心を払っていないように見える。