『1917 命をかけた伝令』
1917
サム・メンデス監督が仕掛けた、全編ワンカット撮影という気迫の反戦映画。
公開:2020 年 時間:119分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: サム・メンデス
キャスト
ウィル・スコフィールド:
ジョージ・マッケイ
トム・ブレイク:
ディーン=チャールズ・チャップマン
スミス大尉: マーク・ストロング
エリンモア将軍:
コリン・ファース
マッケンジー大佐:
ベネディクト・カンバーバッチ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
1917年、第一次大戦のさなか、フランスの戦線ではドイツ軍と連合国軍の消耗戦が続いていた。
そんな中、若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクに、エリンモア将軍から重要な任務が与えられる。ドイツ軍を追撃しているマッケンジー大佐の部隊に、明朝までに作戦中止の命令を届けること。
進行する先には、ドイツ軍の罠が張り巡らされている。最前線にいる1600人の兵士の命を救うため、危険な戦場を駆け抜けて、時間内に伝令を間に合わせなければならない。二人のミッションが始まった。
レビュー(まずはネタバレなし)
そこに意味はあるのかい
ストーリーは至ってシンプルである。ドイツ軍の罠が待ち受けていることを、連合国軍の最前線にいる大佐に伝えて作戦を中止させなければ、大勢の兵士が犠牲になり、壊滅的な被害を被る。
二人の若き伝令兵が翌朝までに命令を届けなければいけない。
◇
電話線も切られ、無線機の普及もまだの第一次世界大戦ならではの話なのだが、とにもかくにも、このミッションのための危険な旅の一部始終をワンカット・ワンシーンで撮っているというのが、本作最大の売りらしい。
公式サイトでも冒頭に<驚愕の全編ワンカット映像>と謳っている。
そこにとてつもない労力がかかっているであろうことは、想像に難くない。目を凝らしてみれば、厳密にはワンカットではなく、暗闇シーンやフレームアウトの瞬間で編集しているようにも思えるが、それでも驚嘆に値する。
実は、ワンシーン・ワンカットの長編映画は、過去にも何本か公開されている。直近で私が観たものは、三谷幸喜の『大空港2013』だ。空港でのドタバタ喜劇を延々と撮る。
同作はよく出来ている作品だが、これらの作品に共通して言えるのは、製作側の頑張りは分かるけど、観客はそこに大して価値を見出していないのではない、という点だ。要は、「自己満足じゃね?」ということである。
◇
だから、本作についても、そこが最大のセールスポイントってどうよ? 手段が目的化するとは、まさにこのことではないかと思う。それに、観始めると、ワンカットのことなど忘れてしまう自然な映像だ。
◇
サム・メンデス監督の意図は、ワンカット撮影による緊張感、臨場感、さらにはミッションに同行しているような感覚の共有だ。
相応の効果はあったと思うが、逆説的にいえば、しっかりした編集がなされた映画だって同様の感覚は得られるわけで、残念ながら、さしたる必然性は(私には)感じられなかった。
昔流行ったTVドラマ「24」のように、1時間のシーンを60分で見せるとなれば話は別だが、連続ドラマでない以上、そんな暴挙に出たら、オールナイト興行で上映するしかなくなるしね。
ワンシーン・ワンカットの弊害?
考えれば当然なのだが、ワンシーン撮影の思わぬ余波といえることがある。
マーク・ストロングやコリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチといったビッグネームの英国人俳優を要所に配しておきながら、カメラが伝令兵目線なので、みんな1回きりの短い時間しか出てこないのだ。
もったいない気はするが、弊害というよりは、むしろリアリティなのかもしれない。その短い出番でそれぞれ鮮明な印象を残すのだから、さすが実力派俳優揃いだ。
◇
ワンシーン撮影の是非はともかく、映画自体は純粋に面白いことは言っておきたい。
ドラマとしては、若き伝令兵のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク (ディーン=チャールズ・チャップマン)の正義感も気持ちよいし、若者らしさが感じられる展開もよい。
彼らの取った行動や入手したものが、次のステージで役に立つといったゲーム性も感じられる。
◇
一発撮り必須のワンシーン長回しを、どう撮影したのかは聞くだけ野暮なので特に深堀しなかったが、例えば戦闘機のバトルや墜落、照明弾が背後であがるシーンなど、およそ撮り直せそうにないものを無事に仕上げているところは、地味にスゴイ、伝令ボーイである。
レビュー(ネタバレあり)
そう言いながら、今回はほとんどネタバレしていませんので未見の方でも支障ないかと。
リアルな戦場シーンに足らないもの
第一次世界大戦の時代だからか、塹壕戦である。大勢の英国兵が配置されている塹壕の中を、二人が延々と突き進んでいく様子は、戦争映画でもなかなか見たことのない映像だ。
同じ時代の戦争もので近年臨場感があったと記憶しているのは、ノーラン監督の『ダンケルク』だろうか。
戦線も時期も異なるので、単純に比較して語れるものではないが、あの作品には、戦場の悲惨さと合わせて、悪臭も漂ってきたようなリアルさがあった。
◇
本作は戦傷者も出てくるし、残り物に食いつくドブネズミも出ては来るが、悪臭や不潔さという点では、結構小ざっぱりしていて、映画全体として清潔感がある印象である。
まあ、なんでもリアルにすればよい訳ではないけれど。
書かずとも想像できることはある
伝令の映画だから、ネタバレせずとも、さすがに相手に伝令は届けられるのだろう。ただし、伝令が二人いる必要はないな。一人は途中で死んでしまうか、ドイツ軍に捕まってしまうかもしれない。
そう思いながら観ているので、ハラハラ感は半分くらいだ。少なくとも、橋を渡るときに撃たれて死んだりはしないだろう、とは思った。
◇
本作はどのくらい史実に忠実なのか。エンドロールでメンデス監督自身が、イギリス軍で西部戦線の伝令を務めていたという祖父のアルフレッドから聞いたエピソードだと書いている。
真偽のほどは分からないが、信じて観たほうが面白いだろう。
◇
「伝令をマッケンジー大佐に伝えるときには、第三者をたてろよ。軍人には意地で戦うやつもいるからな」
ミッションの途中で出会った部隊の上官に、そう忠告される。勝利寸前のここまで来て、作戦中止などできるか、という上官もいるぞということなのだろう。最後まで大佐の反応が読めなかったのはスリルがあった。
メンデス監督の狙い通り、ミッションに同行した気分になったということなのか、観終わるとどっと疲弊している。
ワンシーン・ワンカットは売り込み過ぎで、本来のスリルとスケール感で十分推せる作品なのに。二人の伝令兵が延々と続く塹壕に配置された兵士を押しのけて突き進む、その背中を撮り続けるカメラが圧巻だった。