『最後の追跡』
Hell or High Water
銀行強盗兄弟とそれを追うテキサスレンジャー。兄弟が同じ銀行の支店ばかり襲う背景は?
公開:2016年 時間:102分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: デヴィッド・マッケンジー
脚本: テイラー・シェリダン
キャスト
マーカス: ジェフ・ブリッジス
トビー・ハワード: クリス・パイン
タナー・ハワード: ベン・フォスター
アルベルト: ギル・バーミンガム
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
テキサスの田舎町で、兄タナー(ベン・フォスター)と弟トビー(クリス・パイン)のハワード兄弟は、両親が遺した牧場を差し押さえから守るため、連続銀行強盗に手を染める。
慎重派のトビーが練った完璧な計画のおかげで兄弟は次々と襲撃を成功させていくが、刑務所から出所したばかりのタナーの無謀な行動のせいで次第に追い詰められていく。
一方、定年を目前にしたテキサス・レンジャーのマーカス(ジェフ・ブリッジス)は、相棒のアルバート(ギル・バーミンガム)とともに事件の捜査に乗り出す。
レビュー(まずはネタバレなし)
現代版西部劇
銀行強盗と保安官の対決という古式ゆかしい西部劇の構図をベースにしているゆえ、単純明快なストーリーだと言ってしまえばそれまでだ。
だが、それが兄弟による犯行であることや、テキサス・レンジャーという設定を持ち出すことによって町の地域特性をうまく引き出している作品。
102分というコンパクトなボリュームも、うまくマッチしている。
◇
立て続けに銀行の支店を襲う荒っぽい犯行のように見えるが、田舎町の小さな支店ばかりをねらい、高額紙幣を避けて金をかき集め、逃走後には使用したクルマを地中に埋めるという、意外と用意周到に考えられた計画だ。
途中から真打ち登場とばかりに現われるマーカスとアルバートのテキサスレンジャー、この2対2の対決で、どう犯人を追い詰めていくのかがストーリー展開の核になる。
犯人が襲うのは決まってテキサス・ミッドランズ銀行だが、そこは監視カメラ映像が支店では見られず、手がかりもつかめない。
テキサスの土地柄だろうか、一般市民でも男どもの多くは銃を携帯しており(本当なのか)、銀行ロビーにいる老人客でさえ好戦的で、隙あらば、この銀行強盗に銃口を向ける。のみならず、ためらいなく発砲もする。
いやはや、正義感が強いといえば聞こえはいいが、これは物騒な土地だ。銀行強盗するなら、テキサスは避けて計画した方がいい。
◇
白人であるマーカスが、相棒アルバートが先住民とメキシコ人の血をひいていることをネタに、四六時中からかってばかりいる。アルバートはうんざりしているが、上司なので一応つきあっている様子。
この人種ネタもご当地にありがちな設定なのだろうか。昨今米国中で穏やかではない情勢だが。ただ、この二人は表向きは、いがみ合っている関係のようにみえるが、根っこには信頼関係があるようだ。
配役について
獲物を追う老いたレンジャーのジェフ・ブリッジスはコーエン兄弟の西部劇『トゥルー・グリット』を思い出させる、久々のハマリ役だったのではないか。
本作に続く『キングスマン: ゴールデン・サークル』では、今回の荒くれ保安官の印象を悪ノリしたようなキャラだったし。
◇
クリス・パインは『スタートレック』のカーク船長、ベン・フォスターは『X-MEN:ファイナルディシジョン』 のエンジェルの印象しか覚えてない。
ギル・バーミンガムは『ウィンド・リバー』でも先住民の血をひく役で出ていたような気がする。
◇
銃撃戦ばかり多いように書いているが、実はそうでもない。犯行シーンで連射するわけではないし、後半戦では弾丸数も増えるが、抑制が効いている。
ひたすら撃ちまくる系のドラマではないということだ。なので、ちょっと展開も読めなくなった。
定年間近の最後の事件で命を落とすのは、刑事ドラマあるあるのネタだが、どうなるか、マーカス。
レビュー(ここからネタバレ)
正義の復讐
ここで、犯行計画と動機について振り返ってみたい。
勿論カネ目当ての犯行なのだが、それは最近死んだ母親の借金を返済しないと、テキサス・ミッドランズ銀行に担保の牧場を取られてしまうという事情から。
しかも銀行はその土地から石油が採掘できることをにらんで、完済できぬよう、あくどい条件でカネを貸していたのである。
つまり、これは正義の復讐であり、ミッドランズ銀行から盗んだカネを、カジノでローンダリングして、期日までに完済しようという計画なのだ。
◇
計画を立てたのは弟のトビーだ。疎遠になっている息子のために財産を残し、自分とは違う人生を歩ませるために。
兄はかつて、弟思いで家族のために父親を殺し、またその他にも悪事を働き服役していたが、出所したら弟に協力して犯行を手伝う。
慎重派の弟に対し、兄は思い付きでミッドランズ以外の銀行を襲ってみたり、大きな支店を狙おうと急遽計画外のことを言い出したりする。
怪しい内情もあるのかミッドランズ銀行は捜査に非協力的。それもあって、同じ銀行ばかり襲っても足が付かないのだろうか。
母親に貸していた融資条件はどんなものなのだ。石油採掘でシェブロンからは月5万ドル入ってくると言っていたような。それでも返済が追い付かないのか。
◇
犯行に及んだ経緯が分かってくると、この兄弟にもつい感情移入してしまうのだが、とはいえ銀行強盗で一般客も巻き込んだり、警備員を撃ったりしている彼らに、あまり義があるとも思えない。
そもそも、慎重で温厚なはずの弟だって、ガソリンスタンドで若造をボコったりしている(スタンドでドクターペッパーの代わりにミスターピブを買ってくるやり取りはツボだった)。
◇
それにしてもテキサス。トビーから高額なチップをもらったので捜査協力を一切しないダイナーのウェイトレス、野次馬のようにダイナーの中で犯人の動向を眺めているカウボーイたち。
更には逃走する兄弟をピックアップトラックで追いかけ銃撃戦をはじめる自警団。どうにもフツウの犯罪アクションとは様相が異なる土地なのだ。
予感は的中するが
マーカスたちが次の犯行を待ち伏せする銀行の支店。兄弟たちの計画。鉢合わせしそうでなかなかしない展開に焦れるが、最後にマーカスの読みは的中する。
弟を逃がして単独行動にでる兄だが、驚いたことに、いともあっさりと、マーカスの相棒アルバートの額を撃ち抜いてしまう。これは意表をつかれた。
◇
レンジャーが射殺されることは映画的に当然ありえるだろうが、これはあまりに早い。もっと盛り上げようがあったろうにと思う。
この映画でまともに役名とセリフがある俳優は数えるほどしかいないのに、アルバートを秒殺扱いとは。
老体に鞭打って復讐を果たそうとするマーカスは、まさに西部劇のお作法に則っている。そこに破綻はないが、この遠距離狙撃の見せ場の扱いも、アルバートに呼応するように淡泊である。
◇
定年退職してもマーカスは、兄が死んで事件が解決した後も被害者面して生き残っている弟が共犯者だとにらみ、つきまとっている。マーカスは驚くほど正確に事件の真相をつかんでいる。
いつも口汚く罵っていたが大切な相棒を失ったマーカスは、どこまでも犯人を追い詰める気だろう。たとえ火の中、水の中までも(come Hell or High Water)。なるほど、原題はそういう意味だったか。