『メランコリック』考察とネタバレ|必殺仕事人は銭湯にいる

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『メランコリック』 

凄腕の必殺仕事人の表の顔は銭湯の従業員。求人募集にきた東大卒の無職男。設定の面白さで勝負あった。これぞ巻き込まれ系の犯罪サスペンス・コメディ。

公開:2018年      時間:1時間 54分   
製作国:日本
  

スタッフ 
監督・脚本: 田中征爾

キャスト
鍋岡和彦:  皆川暢二   
副島百合:  吉田芽吹   
松本:    磯崎義知   
銭湯店主:  羽田真
田中:    矢田政伸
田村:    大久保裕太

 勝手に評点:4.0 
(オススメ!)

(C)One Goose

ポイント

  • 死体をさばいて燃やして洗いやすい場所っていえば、銭湯じゃね?という安易な発想から、低予算でも楽しいサスペンスコメディを生み出す。
  • 学生映画っぽいノリだが、期待過剰にならなければ、掘り出し物感が得られるはず。

あらすじ

東京大学を卒業後、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・鍋岡和彦(皆川暢二)。ある夜たまたま訪れた銭湯で高校の同級生・副島百合(吉田芽吹)と出会ったのをきっかけに、その銭湯で働くこととなる。

やがて和彦は、その銭湯が閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。そして同僚の松本(磯崎義知)は殺し屋であることが明らかになる。

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レビュー(まずはネタバレなし)

ああ勘違いで恥ずかしい

スプラッタ映画としては実に上品だ。銭湯での殺人やら遺体処理シーンの回数は多くても、飛び散る血の量は抑制されている。

などと感心したのは、東京国際映画祭・日本映画スプラッタ部門監督賞の受賞作だとすっかり思い込んでいたからなのだが、正しくは、スプラッシュ部門監督賞と後で気づく。でも、どっちも飛び散ることに違いはない

勘違いはともかく、映画が想像以上に面白かったことは、ちょっと得した気分だ。依頼を受けた殺人を正確無比に片付ける敏腕の必殺仕事人、表の顔は銭湯の従業員

そこに何も知らずに求人募集で飛び込んできた東大卒の無職男が、洗い場での遺体処理業務を任されるようになる。まさに巻き込まれ系サスペンス・コメディ。

彼らがオレンジ色のツナギ服で、黙々とミッションをこなす姿は、まるで懐かしの『アルマゲドン』ではないか。あのユニフォームは銭湯服です、とでも言いたいかのようだ。

(C)One Goose

銭湯をロケ地に選ぶ発想力

設定の奇抜さ一本で勝負する潔さや自主映画っぽさが全編に漂っていて、実に愛すべき作品だと思う。

とはいえ、企画脚本の最重要ポイントであるはずの、

死体をさばいて燃やして洗いやすい場所っていえば、銭湯じゃね?

という案は、制作途上で決めた苦肉の策だというから恐れ入る。

田中征爾監督は本作が初長篇とのことだが、低予算ながらもチープな感じはなく、安心して楽しめる一本に仕上がっている。

本作はキャスティングにも、映画やTVでよく見かけるような、見慣れた俳優はいないのだが、むしろそのおかげで、なさそうでありそうな独特の世界観にも自然と浸れてしまう効能があった気がする。

なんでも、主演を含めた俳優陣がスタッフも兼ねていたそうで、その手作り感が伝わってくるようだ。比較されそうな『カメ止め』上田慎一郎監督ともども、今後の更なるご活躍が待ち遠しい。

【特報】映画「メランコリック」

レビュー(ここからネタバレ)

怪しく楽しい導入からの惹きつけ

導入部分、銭湯で高校時代の同級生・副島さん(吉田芽吹)と再会する鍋岡(皆川暢二)の怪しさが満点で秀逸だ、この段階ではまだ彼のキャラが読めないので。

やがて、東大卒でも定職にも付かずパッとしない若者と分かってくる。

だが、その栄光と挫折ゆえに、副島さんに誘われて参加した同窓会でも誰とも打ち解けられず、結局彼女とまた会いたいが為に、よく行くという銭湯でバイトすることになる。この強引な展開、嫌いじゃない。

鍋岡を巡るエピソードが、自分にもあるあるって感じで、とても他人のような気がしない。例えば、同窓会で輝かしくみえる連中からの疎外感や劣等感。

はたまた、銭湯で死体処理を任されることで妙に自分の格が上がったと感じて、次の仕事が待ち遠しくなる一方で、バイトの後輩・松本くん(磯崎義知)が更に重職を担うことを知り、すねてしまうところとか。

(C)One Goose

仕事仲間がいい味出している

この松本くんが途中から素性を明かし、フラフラしてそうな茶髪の若造から突如頼もしさが漂い始める。

「実家通いとか、彼女作るとか、こんな仕事しててあり得ないんすけど」

と、危険度の認識が甘い鍋岡にダメ出しするあたり、彼の優しさやタフさが伝わってくる。

また、副島さんも、冒頭の銭湯でのすっぴん茶髪で、ちょっと華がないかと思っていたら、中盤の食事シーンあたりからはにかみ笑顔が眩しくなってくる。

更には、その後の別れ際の立ち振る舞いに至っては、天女のような神々しささえ感じられた。

泥沼から足を洗うためには、裏稼業の依頼主である田中(矢田政伸)を消すしかない。そう決心してからは、よく考えれば読める展開ではある。

ただ、犯人捜しのミステリーではないし、鍋岡・松本のバディ・ムービーのようになっていくことを考えれば、納得の脚本だと思う。

銭湯の店主・(羽田真)が最後に銃口を向けたのは田中なのか鍋岡なのかは、思わせぶりなカット割りでよく分からなかったが。

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「東大出たら、いい会社入って幸せにならないといけないんですか! 
 まあ、幸せにはなりたいけどね…」

鍋岡が松本くんと飲んでいるときに呟くセリフ、まさに彼の心の叫びだろう。

終盤で、事業を立ち上げ成功しているチャラい同級生・田村(大久保裕太)に、鍋岡は経営指導を仰ぎに会いに行く。ここで、もうひとひねり欲しかったのだが、ちょっと残念。

そうそう、最後に意外な存在感を発揮する鍋岡のご両親の無敵の包容力に感服する。こっちは無事に伏線回収。

「お風呂屋さんの仕事も結構あぶないんですね」

そうなんです、お父さん。