『夜が明けるまで』
Our Souls at Night
ロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダの共演は 『出逢い』以来39年ぶりだって。年老いた一人暮らしの男女の恋愛物、二人なら今でも絵になっている。でも、いくつになっても男は女に翻弄されるもの。
公開:2017年 時間:103分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: リテーシュ・バトラ 原作: ケント・ハルフ 『Our Souls at Night』 キャスト ルイス: ロバート・レッドフォード アディ: ジェーン・フォンダ ジェイミー: イアン・アーミテージ ジーン: マティアス・スーナールツ ホリー: ジュディ・グリア
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
ポイント
- いくつになってもサマになる、ロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダの老いらくの恋物語。
- それは良いのだが、どうにも本作の男の方はだらしなくて、いけない。こういうレッドフォードが観たいわけじゃないんだな。
あらすじ
或る晩、妻に先立たれ一人で暮らしているルイス(ロバート・レッドフォード)のもとに、隣人女性アディ(ジェーン・フォンダ)が訪ねてくる。同じように夫に先立たれ孤独を抱えるアディは、ルイスにある提案をする。
それは、寂しい夜に肉体関係なしでベッドをともにし、語り合いながら一緒に眠りにつこうというものだった。ルイスは戸惑いながらもアディの提案を受けることにする……。
レビュー(まずはネタバレなし)
39年ぶりの共演カップル
年老いた一人暮らしの男女の恋愛もの。ロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダの組み合わせなので、老いているとはいえ美しいし、サマになっている。
二人の共演は 、なんと『出逢い』以来39年ぶりだとか。
その前にも共演作はあるが、私のイチ推しは断然『裸足で散歩』だ。ニール・サイモン脚本の、まさにロマンティック・コメディの王道。あの頃の二人が、まだこうして元気に観客を魅了してくれているのは、素晴らしい。
◇
今回はあくまで精神的な支え合いがメインテーマなので、肉体関係なしで、という当初の約束も概ね守られる。
そもそも、監督が『巡り合わせのお弁当』のリテーシュ・バトラだから、この手の、純情で女に手を出さない男の物語はお手のもの。
◇
はじめはアディの大胆な提案に戸惑って、世間体を気にしていたルイスだが、狭い田舎町の中では、夜な夜な彼女の家に泊まりに行くルイスの話はすぐに知れ渡り、ついには公に二人で外でランチを楽しむまでに開き直っていく。
二人のやりとりは、見ていて微笑ましい。年老いても恋はしたいし(二人のそれが恋愛感情なのかはともかく)、孤独に寝るよりは、二人で添い寝して自分の過去を語りながら寝付くのも、いいじゃないか、と思う。ともに独身でもあるし。
もっと傷をえぐっても良かった
でもねぇ、話がちょっとヤワなのだ。やもめ暮らしとはいえ、二人とも過去に家庭を持っていて、大きくなった子供がいて、そしてそれぞれ家族の歴史の中に古傷を抱えている。
アディの息子ジーン(マティアス・スーナールツ)が妻に逃げられたことで、孫のジェイミー(イアン・アーミテージ)をしばらく預かることになり、このあたりから、二人とも古傷がまだ癒えていないことが分かる。
この傷のほじくり方が浅いので、やや話が淡泊で耳障りのいいものになってしまった。
◇
リテーシュ・バトラ監督が『ベロニカとの記憶』でシャーロット・ランプリングに演出したような、あのミステリアスでドロドロしたものを期待した。
だが、ハートウォーミングな老齢恋愛ものには、ちょっとそぐわなかったようだ。
◇
ルイスも、冒頭の提案から終始アディにイニシアティブを握られっぱなし(まあ大抵の男性どもはそんなものなのだろうが)。
例えばクリント・イーストウッドが近年演じるような老いた男性の気骨みたいなものがあまりない。そういう役どころとはいえ、ちょっと寂しい。
その点、ロバート・レッドフォードの主演引退作品にあたる『さらば愛しきアウトロー』では、彼の持ち味である気骨と洒脱が十分に見られてよかったのだが。
レビュー(ここからネタバレ)
壊れかけのファミリー
奇妙だが楽しくもある半同棲生活。突如入り込んできたアディの孫のジェイミーも、邪魔な異分子かと思いきや、むしろ疑似家庭生活の中心的な役割を担い、川の字で寝るようにさえなって。
ジェイミーのために犬を飼い始めると、すっかりファミリー然としてくる。とはいえ周囲は彼らを奇異な目で見るひとばかり。
アディの親友ルース(フィリス・サマーヴィル)はそんな関係の唯一の理解者だったが、彼女は亡くなってしまう。
◇
ルイスは学校の先生だった。過去にタマラという人妻と不倫をし、一旦は家族を捨てているが、その後、娘のことを思いキッパリと不倫相手とは別れ、家庭に戻る。
この頃の家庭内のギクシャクが、今になっても娘ホリー(ジュディ・グリア)との距離感を生んでいるし、またアディの息子ジーンからも、<家族を捨てた男>という大昔のレッテルを貼られ続けている。
町中顔見知りの田舎町とはそういうものか。
◇
一方のアディは、幼いころの娘を庭先で遊ばせていた際に交通事故で亡くしている。その事故は彼女の大きな心の傷だが、更に彼女を傷つける出来事があった。
今になってジーンが、事故が起きた日からアディが息子である自分の顔を正視しないことから、
「ずっと俺を責め続けていただろう、認めろよ」
と母に詰め寄ったのだ。
無意識とはいえ、それは図星だったようだ。その後、アディは息子のために、町を出て孫の面倒をみながら一緒に暮らすことを決意する。
こうして、二人だけのお泊り旅行をはさみ、ちょっと盛り上がってきたルイスとアディの関係にはあっさりと終止符が打たれる。
女が一枚上手だよ
「これが最後の夜なのね」
かつてルイスの不倫相手のタマラが言ったセリフを、今度は彼自身がつぶやく羽目になる。だってアディにマウント取られているから。
思えば、冒頭の突然のお宅訪問から、「ただ寝るだけよ」といいつつも、アディはルイスを男としてみている。見た目で選んだことも白状しているし、夫の話をするときは気を使うし、デートとなれば服装にもこだわる。
◇
ルイスは当初無防備だったので、提案への回答も保留するわ、連絡先は妻の電話帳をみると言うわで冴えない対応。、おまけにクローゼットはチェック柄のシャツしかない。
そんなルイスが、さんざん振り回された挙句に、結局アディのことが気になって仕方なくなると、彼女は突然いなくなる。そういう系の恋愛映画だ。
◇
ラストでは、遠く離れたアディと孫ジェイミーに、ケータイと鉄道模型セットを贈るルイス。
鉄道模型のキットは、以前にルイスが娘ホリーとの関係修復のためにも活用したラッキーアイテム。今回の効果やいかに。そしてケータイは…。かかってくることを願おう。