『バクラウ 地図から消された村』
Bacurau
ブラジルの田舎町バクラウで一体何が起きようとしているのか、ジャンル不明の不安感を楽しむ前半から、怒涛の後半へ。『ミッドサマー』とはまた違う、辺境の地の村人の集団的破壊力。
公開:2020 年 時間:131分
製作国:ブラジル
スタッフ 監督: クレベール・メンドンサ・フィリオ ジュリアーノ・ドルネレス キャスト ドミンガス:ソニア・ブラガ テレサ: バルバラ・コーレン マイケル: ウド・キア パコッチ: トマス・アキーノ ルンガ: シルベロ・ペレイラ トニー・Jr:サーデリー・リマ エリヴァウド:ルーベンズ・サントス
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
村の長老・老婆カルメリータが亡くなったことをきっかけに、テレサ(バルバラ・コーレン)は故郷の村バクラウに戻ってきた。
しかし、テレサが戻ったその日から、村で不可解な出来事が次々と発生。インターネットの地図上から村が突然姿を消し、村の上空には正体不明の飛行物体が現れる。
さらに、村の生命線ともいえる給水車のタンクに何者かが銃を撃ち込み、村外れでは血まみれの死体が発見される。
レビュー(まずはネタバレなし)
ジャンル不明というワクワク感
私の評点はちょっと辛口になってしまったが、こういうのが好きな人にはたまらない作品だと思う。
そもそも、前半部分はジャンル不明でどんな展開になるか皆目見当が付かない。予備知識なしで観てこその面白味なので、こんなブログで語ること自体、自己矛盾も甚だしいのは承知している。
なので、ネタバレの項に移るまでは、極力情報を小出しにしつつ、邪魔にならないように心がけたい。
◇
ブラジルの俊英クレベール・メンドンサ・フィリオ監督が本作で描くのは、ブラジル北東部にある架空の集落、バクラウで起きる不可解な事象。
村の長老である老婆カルメリータの死をきっかけに、バクラウに戻ったテレサ。冒頭の人工衛星の肩越しの地球の俯瞰、ノスタルジックな歌謡曲、道路に転がる大量の棺、はじめから不穏な空気が漂いまくる。
村はインターネットの地図上から姿を消し、ケータイの電波は圏外になり、更には村人を偵察するかのように小さなUFOが飛来する。
市長選の票集めに現市長トニー・ジュニア(サーデリー・リマ)が村を訪れるが、人々は姿を隠す。トニーは利権の為に彼らを騙してダムをせき止めたのだ。バクラウの人々は給水車に頼らざるを得ない。
◇
どこかの農家から馬が何頭も村に押し寄せ、そして給水車には散弾銃が撃ち込まれる。派手なバイクスーツの男女のライダーがツーリングで村に立ち寄り、そして、村はずれでは一家が惨殺されている。
次々に繰り出される材料を咀嚼する余裕がない。というか、ジャンル不明なので先が見通せない。ブラジルの片田舎の村というのが、余所者の想像をかき立てる。
カンヌ審査員賞受賞は一旦忘れよう
最近の秘境の村系映画でいえば、『ミッドサマー』のような北欧の異教徒の世界なのか、はたまたシャマラン監督の『ヴィレッジ』的ミステリーなのか。
市長の悪徳ぶりを見ると、政治的な腐敗もテーマとしてはありか。前半だけでは、どんな選択肢もまだ捨てきれない。
◇
本作は、カンヌ国際映画祭ではブラジルの作品として初の審査員賞を受賞したほか、各国の映画祭でも高い評価を得ているようだ。だが、芸術性が高いとは言い難い。むしろ暴力性が高い。
本作が好きな人はきっと、カンヌだろうがラジー賞だろうが、受賞自体にはさして興味がない気がする。それで良い、というか、それが良い。正しいスタンスだと思う。
カンヌ受賞作なら観てみようか、というアプローチだと、ちょっとはずすかもしれない。ネタバレせずにいえるのは、その程度だというのが、もどかしい。
レビュー(ここからネタバレ)
ここから内容のネタバレとなる部分がありますので、未見の方はご留意願います。
ようやくみえてきた、ジャンル
さて、やっと内容を語れる。本作が転機を迎えるのは、能天気なツーリスト風の男女二人のライダーが、一家斬殺の現場に近づいていくシーンだ。
死体発見者の村人二人は、このライダーたちに、いともあっさり射殺される。ここでSF映画の線は消えた。血で血を洗うブラジル映画だ。『シティ・オブ・ゴッド』を思い出す。
◇
チープな形状のUFOはドローンと判明。そのUFOで偵察し、ライダーに指示を与えていた殺人ミッションのメンバーがついに登場する。
リーダーはマイケルというドイツ系アメリカ人。あとは若い男女で構成され、みんな殺人大好きのクレイジーな連中だ。ライダーたちも、指示なしで村人を射殺した罰として、銃殺されてしまう。
ざっくり言えば、この連中は何者かの指示により、村全体の電波を遮断し、地図から消し、道路も通行止めにして、電気も止めて、全員を葬り去ろうとしていた。
彼らにはみな、同日には他所にいるアリバイが確保されており、年代物の銃器で仕留めようということから、村人同士の殺戮行為というふうに偽装工作するのかもしれない。
窮鼠は猫を噛む
このクレイジーな連中がバクラウに襲い掛かってくると分かり、村では荒くれ者をかき集めたり、老若男女が一丸となったりして、敵への反撃を企てる。
窮鼠は猫を噛むどころか、八つ裂きにしてくれるわ、というスカッとする映画なのだ。村人VS悪党集団という構図は、『七人の侍』、いや西部劇っぽいので『荒野の七人』の現代版が近いのかもしれない。
敵のリーダー・マイケルを演じたウド・キアはラース・フォン・トリアー監督作品の常連のほか、多数出演作のある大ベテラン。
最近はS・クレイグ・ザラー監督のカルト作品での彼が個人的には気に入っている。本作でも、ムチャなキレっぷりがいい。
ただ、本作に関しては村人たちの健闘は称えたいけれど、このマイケルのチームには消化不良な点が多い。
◇
何の解明もせず観客を煙に巻いたまま終わる映画ではなかったのは好感だが、すべては悪徳市長のトニー・ジュニアの策略であったという結末なのか。
壮大なプランの割に、やろうとしていることの全貌と理由がよく見えないのと、マイケルがリーダーというよりスタンドプレーでいろいろ動いたり、仲間を無意味に撃ち殺しちゃったりするのは、理解不能だった。
要塞警察バクラウ
バクラウの村がいつのまにか遮断された閉鎖空間になっていくところや、博物館に展示されていた古い銃器で村人が武装するところ、更にはマイケルのメンバーが次々と屠られていくグロい展開など、監督が敬愛するジョン・カーペンターへのオマージュを感じる。
いや、でも、地獄の瀬戸際でスカッと爽快感は似てるけど、カーペンターはもっとシナリオがしっかりしていたぞ。
◇
最後に彼らに捕まった市長に、「俺たちはクスリを飲んでいるから。お前は死ぬぞ」という台詞。何か解毒剤でも服用しているから村人は安全だという意味かと思ったが、「精神安定剤のおかげで、どんな拷問でも冷静に続けられるぜ」的な意味だろうか。
◇
パコッチ(トマス・アキーノ)やルンガ(シルベロ・ペレイラ)の狂気あふれる攻撃力には、ブラジル人のカポエイラで鍛えたパワーを感じた。
この強靭な肉体やアシッドな音楽、風俗嬢とかものすごく昔風な見せ方も多いのに、小学校授業のインターネット、ケータイや街頭には大きなモニターがあって、生首並べてみんなでスマホ撮影みたいな不気味なハイテクさも混在。何とも、忘れがたい一本になった。