『007 スペクター』
Spectre
新たなMの登場、MI6組織崩壊の危機、そしてペルシャ猫を抱く悪党プロフェルド。シリーズ集大成的な要素が盛り込まれたダニエル・クレイグのボンド4作目。
公開:2015 年 時間:148分
製作国:イギリス
スタッフ 監督: サム・メンデス 原作: イアン・フレミング キャスト ジェームズ・ボンド: ダニエル・クレイグ ブロフェルド: クリストフ・ヴァルツ マドレーヌ: レア・セドゥ M: レイフ・ファインズ ルチア: モニカ・ベルッチ Q: ベン・ウィショー マネーペニー: ナオミ・ハリス ヒンクス: デイヴ・バウティスタ C: アンドリュー・スコット ビル・タナー: ロリー・キニア ホワイト: イェスパー・クリステンセン スキアラ: アレサンドロ・クレモナ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
少年時代を過ごしたスカイフォール邸で焼け残った写真を受け取り、隠された謎を解こうとメキシコやローマへ向かうボンド。
悪名高い犯罪者スキアラの未亡人ルチアの協力で悪の組織スペクターの存在をつきとめるが、その頃、国家安全保障局の新しいトップのマックスがボンドの行動に疑問を抱き、Mが率いるMI6の存在意義を問い始めていた。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
まずはワンカット撮影とタコ尽くし
サム・メンデス監督が前作に続きメガホンをとる。もう6年も前の作品になるのだ。最新作まで随分間隔があいた。
由緒正しき敵組織スペクターの名前がようやく前面に出たかと、気分も高揚する。敵役の名前がタイトルになるのはゴールドフィンガー以来らしいぞ。
◇
恒例のアヴァンタイトルのアクション。メキシコシティの死者の日のコスプレ・カーニバルで、標的のスキアラ(アレサンドロ・クレモナ)を執拗に追い詰めるボンド。
ビル倒壊を引き起こす狙撃までワンカット6分近い長回しは魅せる。サム・メンデス監督はこれで味を占めて『1917 命をかけた伝令』で全編ワンカットをやったのかもしれない。
ただ、冒頭のアクションとしては前作『スカイフォール』のバイクチェイスの方が見応えがあって好き。こう言っては身もふたもないが、テンポの良さがキモの本シリーズに長いワンカットを使う効用が不可解だ。
◇
ボンドがスキアラから奪い取ったリングにはタコの刻印。そしてタイトルはテーマ曲とともにタコ尽くし映像。かつて『オクトパシー』なんてのもあったな。
だが、タコさんマークで思い出すのは、ナチスのような『キャプテン・アメリカ』の敵組織ヒドラだ。タイトルバックで男の背中から伸びる長いタコ足は、『スパイダーマン』の敵・ドクター・オクトパスみたい。どっちもマーベルだ。
過去作とのつながり
さて、これまでのダニエル・クレイグのボンド作品は内容的にも連作が多く、『カジノ・ロワイヤル』と『慰めの報酬』は連続した内容。
そこに前作『スカイフォール』でのM(ジュディ・デンチ)の死と新M(レイフ・ファインズ)への交代、マネーペニーとQの参加、旧MI6本社ビルの爆破などを受け継いで、本作がある。
ダニエル・クレイグには次にもう一本新作があるが、本作は内容的に集大成のカラーが強い。
今回4作を観直して実感したが、立て続けにみないと理解しにくいネタが多い。過去作の敵の名前なんて、普通は忘れてしまう。
ペイルキングことミスター・ホワイト(イェスパー・クリステンセン)のこれまでの悪行や、ヴェスパーの尋問テープって何、米国大使館に顔が効くフィリックス・ライターって誰、みたいなことも理解しておくと一層楽しめる。
◇
旧Mの遺言ビデオの命令でボンドがスキアラを殺し葬儀に近づき、未亡人ルチア(モニカ・ベルッチ)の情報と奪った指輪で組織の集会に侵入。
そこで議会を仕切っていた男・ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)は、身寄りのなかったボンドの養父オーベルハウザーの息子フランツではないか。父子は雪崩で死んだはず。
どうにも前作同様、ボンドの生い立ちが本作にも関係してくるようだが、彼の過去をほじくり返しても、スカイウォーカー家のような人情噺にはならないし、なってほしくもない。
プロフェルドにはもっと大物感がほしい
本作は、私の気に入っている『スカイフォール』に比べると、大きな欠点こそないが、物足りなさも否めない。
今回の敵プロフェルドのクリストフ・ヴァルツは『イングロリアス・バスターズ』や『ジャンゴ 繋がれざる者』でオスカーも獲っている名優だ。
私も好きな俳優だが、前作のハビエル・バルデムの不気味さに比べると、ちょっと分が悪い。洗練されすぎているのかも。
『オースティン・パワーズ』のドクター・イーブルの元ネタともなったプロフェルド、昔ながらのアクの強さがないと、ペルシャ猫を抱いていてもサマにならないのだ。
◇
Qの調査するPC画面で、プロフェルドがタコの頭に相当する組織の統括であり、それぞれの足にこれまでに死んだ敵の顔写真が出てくる。
ル・シッフル、ホワイト、グリーン、パトリス、シルヴァ、スキアラ(シリーズ登場順)。いや、一気通貫レビューしたおかげで、全員分かるのは気持ちよい。
ただ、これまでの敵がみなスペクターの一員だったとなれば、プロフェルドはもっと大物感がないといけないな、やはり。
レイフ・ファインズのMもよい
ダニエル・クレイグは前作ではやや疲れた感じだったが(演出か)、今回は復活。
死者の日カーニバルでは美女を相手にせず敵を追い、モニカ・ベルッチとも親密になる(従来なら殺されそうな役どころだが、彼女は健在)。
そしてホワイトの娘、マドレーヌ(レア・セドゥ)と矢継ぎ早の危機を乗り切るうちに、深い仲になっていく。
高級リゾートのスキー場とか、豪華な鉄道のビュッフェ車両とか、いかにも007シリーズらしい舞台設定もよい。
今回、予想外に楽しめたのは、時代の流れでMI6を解体し、00セクションの殺しのライセンスを剥奪しようと画策するMI5のC(アンドリュー・スコット)との戦いだ。
世界各国の諜報機関情報を集めるナイン・アイズ計画を進め、MI6に代わり全てを掌握しようというこの男が、実はスペクターの一員なのである。
◇
追い込まれたMだったが、最後にはボンドやQの活躍で挽回し、Cに反撃するところは爽快。見ようによってはボンドより目立った、レイフ・ファインズの活躍ぶりだ。
ただ、タコさんマークが共通するのみならず、組織上層部に敵のスパイがいたことや絶体絶命の監視システム起動まで『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』と重複するので既視感が強い。
Qの発明のボンドカーと爆発するオメガも印象は弱めだが、今回はQ本人の活躍が多かったからまあ、よいか。
『007 カジノ・ロワイヤル』
(2006)
『007 慰めの報酬』
(2008)
『007 スカイフォール』
(2012)
『007 スペクター』
(2015)
『007 ノータイムトゥダイ』
(2021)