『ごっこ』
見るべきは子役の平尾菜々花の眼力あふれる名演技。映画は、泣くための準備は十分にできていたのだが。
公開:2018年 時間:114分
製作国:日本
スタッフ 監督: 熊澤尚人 脚本: 熊澤尚人 高橋泉 原作: 小路啓之 キャスト 城宮: 千原ジュニア ヨヨ子: 平尾菜々花 清水富美加 マチ: 優香 母親: ちすん
勝手に評点:
(私は薦めない)
コンテンツ
ポイント
- パパやん、ダメダメだろ人間として。途中に彼がしでかしたことにより、泣く気も、もっと言えば観る気も失せてしまった。この話にみんなついていけてるのか?
あらすじ
大阪のうらぶれた帽子店で仲むつまじく暮らす城宮(千原ジュニア)とヨヨ子(平尾菜々花)の父娘。
40歳目前にも関わらずニートの城宮と、5歳のヨヨ子は、けっして他人には知られてはいけない秘密を抱えていた。
城宮が十数年ぶりに実家に戻ってきたことを知った幼なじみで警察官のマチ(優香)は、突如として現れたヨヨ子の存在に疑いの目を向ける。
レビュー(まずはネタバレなし)
いきなりの全力スタート
はじめの5分くらいで分かることなので、ネタバレではないと思うが、引きこもりのニートだった城宮は、向かいの家で虐待を受け青あざだらけの少女を衝動的にかっさらい、一緒に暮らし始める。
仲の良い二人だが、当然赤の他人であり、実家に戻ってもマチの目を避け、ひっそりと暮らす。
◇
最初のシーンで城宮は殺人で13年の実刑で服役中と分かるが、誰を殺したのかも、またヨヨ子と名乗る少女と出会ったのがその前なのか後なのかもよく分からない。
しばらく、この疑似父娘の日常につきあうことになる。
泣くための準備はできていた
この映画で見るべきは、まずは子役の平尾菜々花の眼力あふれる名演技だ。千原ジュニアも芸人としてではなく、一人の役者として魅せてくれている。
私としては、泣くための準備は十分にできていた、はずなのだ。
でも、中盤に起きたある出来事で、すっかり泣く気も、いやもっと言えば観る気さえも失せてしまった。この話にみんなついていけたのか?
◇
疑似親子の映画やドラマというと、『八日目の蝉(永作博美/壇れい)』、『ママゴト(安藤サクラ)』、『MOTHER(松雪泰子)』とスラスラ思い出せるが、いずれ劣らぬ秀作揃いの激戦区だ。
はじめに追悼とあった、原作者の小路啓之のコミックならば、もっと丁寧に描かれているのだろうか。或いはコミックと実写版では、感じ方も違うのか。
とにかく、途中から納得のいかない点ばかりに目が行き、世間の泣ける評価とは逆張りの辛口採点となってしまった。
レビュー(ここからネタバレ)
いろいろ泣かせる演出を入れているのだが、泣けないというより、泣いていいのかこれ?というのが多すぎる。
原作由来のものもあるのだろうが、映画としてどうにも納得できない点をあげてみる。
城宮とヨヨ子の出会い
BB弾で攻撃する少年たちを撃退した引きこもり男・城宮が、向かいの家の二階の窓辺に立つヨヨ子を遠目に見ただけで、なぜベランダによじ登ってまで救出する気になったのか。
フィギュア製作の細かい作業直後に、あの距離で虐待の痕跡を瞬時に見抜くとは恐るべき遠視力。
でも、少女を照らす街灯はまるでホラー映画のように赤く、あれではあざとか傷跡は分からない。城宮の変質者疑惑もあるし、なぜヨヨ子がいきなり彼をパパやんと呼んだのかも謎だ。
父親の年金不正受給
城宮を実家に呼び寄せた父は、ひっそりと自殺をし、年金受給が継続できるように段取りする。
不正受給自体も立派な犯罪行為だが、それを知った警官の幼馴染マチも、働くようになれば見逃してやる的な甘い対応だし、床下に埋めた死体のその後も結局うやむやだ。
不正受給は是枝裕和監督の『万引き家族』でも雑な扱いだったが、こちらは更に雑だった。
「まだ、ヨヨ子に何もしてやれてない。やっと真人間になれたんや、見逃してくれ!」
とマチに懇願する城宮、まだダメ人間を脱していない。
毒グモと幼児対決ビデオ
ヨヨ子と男の子が失踪し、毒グモと対決する映像で一儲けを企む二人組に誘拐拉致されていたという、やや荒唐無稽な事件が発生する。
これは、ヨヨ子がよく拾うBB弾に、いつも城宮が場所を書くという行為が伏線になり犯行場所を突き止めるのだが、ちょっと無理筋。
そもそも、こんな猟奇的な事件にする必然性あったかというのが不明。これで、城宮のヒーローになったるぞ的な気分が盛り上がったということなのか。
ヨヨ子の母親との対峙
勤め先に出入りする宅配カレー屋の女性(ちすん)が、ヨヨ子の実の母親だと城宮は気づく。普通この手の誘拐話なら逃げようとするのに、なんと城宮は直接母親のカレー屋に確かめに行く。
なんで虐待したのか、だから通報しないのかと。そこで城宮は知る、ヨヨ子には双子の妹がいて、難病で臓器移植を待っていることを。
ここからが信じられないところだが、彼は母親を絞め殺してしまうのだ。え、何で!
◇
母親「虐待なんかしてへん。あれは自傷行為や、妹のために臓器あげたい、殺してくれと何度も言われて気い狂いそうやった。あんたが誘拐するとこ見てたけど、止めへんかった。ほっとしたわ」
城宮「あの年齢で、死にたいなんて言う訳ないやろ!」
それでも、城宮は家に戻って、毒グモ事件の後でヨヨ子に確かめてみる。
ヨヨ子「パパやん、何でそんなつらいことを思い出させんねん。お姉ちゃんなんやから、妹を助けてやって、代わりになってって、お母さんが…」
母親に嫌われないように自傷行為に及んでいて、ヨヨ子が苦しんでいたと理解した城宮が、後日再度カレー屋に押しかけて母親絞殺に及ぶわけだ。
当初訪問時の衝動的犯行ではなく、明確な殺意ありだろう。それなら、母親に非があるかの確認もしてほしいし、母親に「死んで臓器くれてやれや」っていうのも無茶な話。
◇
いくらなんでも、女手ひとつでカレー屋切り盛りして難病の娘を養っている母親を、絞殺しちゃう城宮ってあまりに直情的というか、鬼畜だ。これ、ホントに泣ける美談になるか?
ヨヨ子との再会
13年服役中で無言を決め込む城宮に、ヨヨ子(清水富美加)が面会に来る。
話しているうちに、彼女が幼い頃に読んでいたマンガがみんなカラーだったのは、城宮が色塗りしてたからだとか、大事に持っているBB弾を見せて「行きたい所いっぱいあんねん」って涙流したりとかで、感動テンコ盛り。
◇
京大法学部に合格したヨヨ子は、城宮を釈放させるために弁護士を目指すといいだす始末。殺された母親は二人に完全スルーの非情さだし、結局病死してしまった妹も浮かばれない。
ここで疑似父娘が感動再会ごっこをしていることの違和感がハンパない。
◇
子役だった娘が成長して大学に合格し、まるで『義母と娘のブルース』のような涙の親子会話だったが、本作はどうにも感情移入できず。
清水富美加の熱演は良かったが、声が出せない設定の千原ジュニアに表情だけの演技を求めるのは、ちょっとハードルが高かった。
父と娘のシーンだけ思い返せば、縁日の金魚すくい、階段でのじゃんけん、最後の温泉旅行、二人だけしかいない遊園地と、ほろ苦い名シーンがいっぱい。
終盤の各所でBB弾を拾う回想シーンも泣かせどころなのだろう。
作為的なのは泣かせ映画である以上受け容れられるものだが、さすがにあの<母親絞殺+父娘で完スルー>の非情ぶりは、私にはダメだった。
◇
「パパやんはヨヨを助けるためにヒーローになってくれたんやな」
ヒーローではないと思うぞ。
「パパやん、昔から生き方下手くそや」
下手くそすぎです。
◇
川谷絵音のラストの曲は良かった。ただ、最後に映画の内容を総括するように歌詞がスクリーンいっぱいに出るのは、ちょっとやりすぎ。曲だけ聞いていた方が、感動したかもしれない。
原作コミックは、感動できるのかも。