『早乙女カナコの場合は』考察とネタバレ|覚悟はいいか早稲田女子。

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『早乙女カナコの場合は』

柚木麻子の原作を矢崎仁司監督が映画化。橋本愛・中川大志・中村蒼の恋愛ドラマ。

公開:2025年 時間:119分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:          矢崎仁司
原作:          柚木麻子
          『早稲女、女、男』


キャスト
早乙女カナコ:       橋本愛
長津田啓士:       中川大志
本田麻衣子:       山田杏奈
慶野亜依子:      臼田あさ美
吉沢洋一:         中村蒼

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

あらすじ

男勝りで過剰な自意識から素直に甘えられない不器用な早乙女カナコ(橋本愛)

大学進学と同時に友達と二人暮らしをスタートさせた彼女は、入学式で知り合った演劇サークルで脚本家を目指す長津田(中川大志)とそのまま付き合うこととなった。

就職活動でカナコは念願の大手出版社に就職が決まるが、3年の付き合いとなった長津田は口ばかりで脚本を最後まで書きあげることはなく、大学を卒業する気もなさそうな状態だった。

カナコと長津田の口ゲンカが絶えない日々が続く中、カナコは内定先の先輩・吉沢(中村蒼)から告白される。編集者になる夢に向かって着実に進んでいくカナコと長津田の生き方に、徐々にすれ違いがうまれていく。

レビュー(ネタバレあり)

自意識過剰で不器用な主人公カナコと脚本家志望の先輩長津田との10年にわたる恋愛模様を描いた作品。矢崎仁司監督の作品を観るのは、2006年の『ストロベリーショートケイクス』以来だ。

主人公が大学に入るところから始まる恋愛ドラマは、よくも悪くも「ありそうな」内容なのだが、柚木麻子の原作『早稲女、女、男』を以前に読んでいたので、はっきり言ってキャラ造形やら舞台設定が曖昧すぎて物足りない。

そもそも設定をぼかしてしまったのでタイトルを変えざるを得なかったのだろうが、主人公の早乙女カナコ(原作では香夏子)は、男勝りでプライドが高くて酒豪の早稲田大学生。

周囲からはその豪快さとガサツな行動から「さすが<早稲女>だよ」とあきれられるが、実は純粋で不器用な女性なのだ。

カナコが早稲田、妹は学習院、親友は立教、チャラいのは慶応だったりで、通っている学校名でステレオタイプにキャラクターを決めてしまうのは、さすがに時代遅れではないかと、原作を読んだときに感じたのは確かだ。

だが、時代に即したのか、それら学校名を排除したこの映画を観ると、どうにも、具体的な学校名や地名が溢れていた原作の力強さが弱まってしまった気がしてならない。

それでも、ロケ地が高田馬場やら早稲田界隈に見えたので、製作陣としてはやりたかったけど、早稲田大学の許可がおりなかったのかな。

柚木麻子の原作で最初に映画化された、廣木隆一監督の『伊藤くん A to E』は快作だったが、その廣木監督が同年に撮ったのが山内マリコ原作の『ここは退屈迎えに来て』。本作と同じ橋本愛の主演だが、顔立ちが都会的すぎて、退屈な日常に不満を募らせる地方都市の娘に見えなかった。

そのため、主人公カナコ橋本愛が演じると知った時には、原作の早稲女イメージとちょっと違うのではと思ったのだが、キラキラした感じは抑え目にして気の強そうな部分を強調しているせいか、意外と違和感はなかった。

さすが橋本愛、キャリアが違うといったところか。まあ、さすがに大学一年生を演じるのは厳しかったけど。

(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

新入生勧誘イベントで、キャンパスで射殺された演技でカナコを動揺させる、演劇サークル「チャリングクロス」の先輩・長津田啓士を演じた中川大志も良かった。

こちらもキラキラ系を得意とするイケメン俳優だが、今回はかなりキザな台詞を吐く、自意識過剰なダメンズだ。なかなか卒業しようとしないため、年齢不詳なところから役柄に違和感はなく、ロン毛も似合っている。

この二人のカップルが、甘い台詞を言い合うでもなく、グサグサときつい言葉でやりとりするのは新鮮で面白い。

(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

出会って3年がたち、カナコは就職活動を終え、念願の大手出版社に就職が決まる。一方の⻑津田は、口ばかりで脚本も書かず、卒業もする気はない。

喧嘩の絶えない二人だが、長津田は女子大の一年生・麻衣子(山田杏奈)と浮気し、カナコは内定先の先輩・吉沢(中村蒼)から告白される。

(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

イケメンでシゴデキのハイスペックな吉沢先輩役に中村蒼は似合っている。性格も優しそうで、落ち着いているし。

でも、大人の振る舞いの彼は、告白したカナコの返事を、「いつまでも待っているよ」と言ったり、感情の起伏に乏しかったり、ダメ男の長津田慣れしているカナコにしてみれば、きっと物足りないのだろう。

優しくて善い人キャラは、どんなにイケメンでも、結局恋愛ドラマでは危険な匂いのする男には勝てないのだ。

橋本愛・中川大志・中村蒼と美男美女同士のもつれ愛かと思ったが、カナコを取り合う三角関係は男同士で直接戦い合うこともなく、ただ彼女が決断するだけで勝負が決まってしまい、やや盛り上がりに欠けた。

早稲女と違い女子大一年で女子力の高い麻衣子役に、山田杏奈がハマりすぎている。

はじめは長津田にベタベタする嫌な女キャラ全開で辟易したが、途中から憑き物が落ちたようにまともなキャラに様変わりし、長津田に愛想を尽かすあたりから活き活きしてくる。

(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

彼女がブチ切れた、女子をオーディションする鼻持ちならない軟派野郎のイベントサークルが、慶応イメージっぽい。

この悪意あるインナーサークル描写は『愚行録』(石川慶監督)っぽいぞと思っていたら、出版社のイヤな先輩役で、同作に出演の臼田あさ美が登場したので驚いた。

(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

山田杏奈臼田あさ美のキャスティングはやや分かりやす過ぎるのが面白味にかけた気もするが、橋本愛とすぐに共演させたがる<のん>の存在もちょっと定番すぎて食傷気味。

いや、確かに同じ柚木麻子原作の『私にふさわしいホテル』では、主演の<のん>が女流作家の有森樹李を演じていて、一方橋本愛はカリスマ書店員役。本作では主客を逆転させて、カナコが手伝うサイン会に有森樹李を登場させる楽屋ネタなのは分かる。

でも、この潮騒のメモリーズの再会ネタが新鮮だったのは『私をくいとめて』までで、それ以降に話題性は乏しい。
(なお、『私をくいとめて』には、臼田あさ美も出ていて顔ぶれがかぶる)

ともに柚木麻子原作の『私にふさわしいホテル』『早乙女カナコの場合は』の二作は公開時期も2~3か月しか違わないのだが、橋本愛<のん>はそれぞれ主演をスイッチした方がしっくりくるのではと勝手に妄想したくなる。

かなり攻撃的でイタいコメディになっていた『私にふさわしいホテル』に比べると、本作は落ち着いて観られる映画ではあったが、いいかえれば、盛りあがりに欠けるともいえる。柚木麻子原作だけに、女性からの共感は得られるのかもしれない。