『ザ・バイクライダーズ』
The Bikeriders
オースティン・バトラーとトム・ハーディの共演。60年代のバイク集団青春ムービー。
公開:2024年 時間:116分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ジェフ・ニコルズ
原案: ダニー・ライオン
キャスト
ベニー: オースティン・バトラー
キャシー: ジョディ・カマー
ジョニー: トム・ハーディ
ジプコ: マイケル・シャノン
ダニー: マイク・ファイスト
ブルーシー: デイモン・ヘリマン
コックローチ: エモリー・コーエン
ワフー: ボー・ナップ
カル: ボイド・ホルブルック
コーキー: カール・グラスマン
キッド: トビー・ウォレス
ソニー: ノーマン・リーダス
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
1965年、シカゴ。不良とは無縁の日々を送っていたキャシー(ジョディ・カマー)は、ケンカ早くて無口なバイク乗りベニー(オースティン・バトラー)と出会って5週間で結婚を決める。
ベニーは地元の荒くれ者たちを束ねるジョニー(トム・ハーディ)の側近でありながら群れることを嫌い、狂気的な一面を持っていた。
やがてジョニーの一味は「ヴァンダルズ」というモーターサイクルクラブに発展し、各地に支部ができるほど急速に拡大していく。
その結果、クラブ内の治安は悪化し、敵対クラブとの抗争も勃発。暴力とバイクに明け暮れるベニーの危うさにキャシーが不安を覚えるなか、ヴァンダルズで最悪の事態が起こる。
レビュー(まずはネタバレなし)
今の時代でも刺さる暴走族映画
「なんだ、令和の時代に暴走族の映画かよ」と舐めてかかったら、とんでもなくクールな映画だったよ、『ザ・バイクライダーズ』。
写真家のダニー・ライオンが、60年代にシカゴに実在したというバイカー集団を撮った写真集にインスパイアされた作品。
登場する「ヴァンダルズ」という集団は架空だが、本作で描かれた結成から数年の軌跡は、事実をベースにしているという。
監督はジェフ・ニコルズ。『テイク・シェルター』と劇場未公開の『ミッドナイト・スペシャル』は観たことがあるが、この手の映画は畑違いの監督と思っていた。
ところがどうだ。こういうのもお手の物じゃないの。というか、こういう男祭り的な作品の方が、本領発揮してるんじゃないか。
ちなみに、ジェフ・ニコルズ監督作品の常連マイケル・シャノンは、大きく風貌を変えてヴァンダルズの一員として今回も出演。
映画は、主人公ベニー(オースティン・バトラー)の妻であるキャシー(ジョディ・カマー)の回顧録形式で語られる。
冒頭は、ヴァンダルズの紋章が背中に描かれた革ジャンを着てバーで酒を飲むベニー。常連客に喧嘩を売られ、派手な争いとなる。
終始荒っぽいバトルだらけの作品かと思いきや、次はキャシーとベニーの出会いの場面。
ヴァンダルズが大勢で入り浸る店に女友達に届け物をしに訪れたキャシーは、男の見本市のように次々とナンパしにくる連中に恐れをなすが、その中でも孤高に見えたベニーに惹かれる。
ろくに会話もないまま、彼女はベニーの単車の後ろに乗って、仲間たちと大勢で夜のハイウェイに繰り出している。
結局その晩からベニーはキャシーの家の前にバイクを止めて、無言で一晩中彼女の登場を待っているだけ。その間に、彼女の元カレはベニーに激昂して彼女の元から去り、二人は出会って5週間で結婚する。
ベニー、ジョニー、そしてキャシー
ヴァンダルズの野郎どもが大勢で店にたむろしている当初のシーンでは、連中が全員とんでもない悪党に見えるのだが、それぞれの個性が分かってくると、なかなか居心地のよい集団に思えてくる。
集団を統率しているリーダーはジョニー(トム・ハーディ)。そして、群れの中でも一匹狼のように見える、寡黙だが喧嘩っ早いベニー。
揃いの革ジャンでバイク集団が走っていく姿が痺れる。体重をかけてスターターをキックし、ドッドッドと腹に響くエンジンの重低音。これだよ、これ。
バイク乗りでない自分だが、このサウンドにはやられてしまうな。ろくにエンジン音のしないハイブリッド車に飼い慣らされた耳が、野生に帰っていくようだ。
◇
ベニーを演じるオースティン・バトラーの、無口で孤独で繊細そうな姿と暴力性のアンバランスな共存がいい。男の色気が溢れ出る。『エルヴィス』のプレスリーも似合ってたけど、こっちのライダーの方が更にカッコいい。
ベニーが警察車両をぶっちぎって信号無視を続け、最後には田舎道でガス欠で捕まるまでの何ともいえない爽快感。
そしてヴァンダルズのヘッド、ジョニーを演じるトム・ハーディには、ベニーとは違うリーダーとしての統率力と胆力。年相応の男の魅力が漂う。不満分子には、「拳か、ナイフか」を尋ね、相手の挑戦を受ける。
全ての意思決定はジョニーが行う。その権力の裏には、並々ならぬ覚悟と思慮がある。トム・ハーディには、『ヴェノム』ばかりでなく、こういう映画にもっと出てほしいのだ。
60年代の若者文化全部入り
ヴァンダルズは日本の暴走族とはファッションも走り方も異なる。年齢層も高いせいか、純粋にバイクを愛している集団にも思える。荒っぽい騒ぎも多いが、けして暴力集団でも犯罪者でもない。
みんなで週末にはピクニックに集まり、バイクでバカ騒ぎするのが好きなのだ。
◇
そんな集団のなかに、キャシーも溶け込んでいく。だが、彼らに憧れる連中は仲間に入りたがり、気が付けば組織は多くの支部を抱えるようになっていく。ジョニーが統制をとれる規模を越えてしまった組織は、次第に変容していく。
「こんな集団からは足抜けしてほしい」とベニーに懇願するキャシー、「自分の後釜はお前しかいない」とベニーを買っているジョニー。板挟みの中で、ベニーの心はどちらに転がっていくのか。
キャシー役を演じているジョディ・カマーは、どこか満島ひかりっぽい雰囲気だと思ったが、リドリー・スコットの『最後の決闘裁判』で、まさに決闘の原因となった被害者女性を演じていた女優。あまりに雰囲気が違うので気づかなかった。
このキャシーを始め、ヴァンダルズのメンバーに写真撮影や取材をしているのがダニー(マイク・ファイスト)。本作の元になった写真集を撮ったダニー・ライオンのことなのだろう。
演じるマイク・ファイストはスピルバーグの『ウェスト・サイド・ストーリー』でジェッツ団のリーダー・リフ役でブレイクした俳優だ。
◇
酒にドラッグにバイクにロックミュージック。60年代の若者文化が全部入りの青春ムービー。
昔はこの手の映画はよく見かけたものだが、最近ではむしろ新鮮に見える。ほぼ紅一点のようなキャシーが、陽気な回顧録にしているおかげで、作品全体の重苦しさが多少和らいでいるのも良い。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
さて、ヴァンダルズの初期メンバーの中で、私のお気に入りはジョニーの右腕のような燻し銀のブルーシー(デイモン・ヘリマン)だったが、彼の事故死を境に、組織は変容していく。
拡大しすぎた組織には、もはや、ヴァンダルズの革ジャンを着ていても、ジョニーが顔すら知らないメンバーも増えてきた。
こうした中で、仲間うちのパーティでキャシーは新入りのメンバーにレイプされそうになり、また、足抜けして白バイ警官になろうとするコックローチ(エモリー・コーエン)もまた、新入りの支部連中に暴行される。
こうしてヴァンダルズは迷走していく。
足抜けしたコックローチの家に忍び込み、彼の足を撃つジョニー。同行していたベニーは驚くが、これはジョニーが自ら動いたことで、他の連中が彼を報復しないように仕向けたのではないか。
だがベニーはこの行動に不満を持ち、ジョニーやキャシーの前から姿を消してしまう。
最後にキッド(トビー・ウォレス)について触れておきたい。もともとティーンの時代にジョニーたちの走りを見て憧れたキッドたちは、仲間入りをジョニーに直談判しにやってくる。
「お前だけなら入れてやる」と言われて仲間を裏切ったキッドは、「そんな奴はいらん」とジョニーに門前払いを喰らう。数年後にひそかに支部でヴァンダルズに入ったキッドはジョニーとナイフでの勝負を申し出る。
ここから先の展開には不吉な予感しかしなかったが、キッドの行いは更に卑劣だった。彼はナイフすら持たずに、決闘の場でジョニーを射殺し、その後ヴァンダルズを牛耳って犯罪集団に変貌させてしまう。
『太陽にほえろ!』のショーケンや松田優作じゃないが、この手の死にザマはぶざまで情けないほど絵になるし記憶に残る。この決闘シーンで、トム・ハーディはオースティン・バトラーよりも一歩主役に近づいたのではないか。
ともあれ、本作は今年の洋画において見逃せない一本だったと思う。