『007 オクトパシー』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『007 オクトパシー』ボンド一気通貫レビュー13|タコが言うのよ

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『007 オクトパシー』
 Octopussy

ロジャー・ムーアがボンドを演じるシリーズ13作目。ボンドガールはモード・アダムス。

公開:1983年  時間:130分  
製作国:イギリス

スタッフ 
監督:          ジョン・グレン
原作:        イアン・フレミング
  『オクトパシー(007号の追求)』
  『所有者はある女性(007号の商略)』

キャスト
ジェームズ・ボンド:  ロジャー・ムーア
オクトパシー:     モード・アダムス
カマル・カーン:   ルイ・ジュールダン
マグダ:   クリスティナ・ウェイボーン
オルロフ将軍:  スティーヴン・バーコフ
ゴゴール将軍:    ウォルター・ゴテル
ビジャイ:    ビジャイ・アムリトラジ
M:         ロバート・ブラウン
グレイ国防大臣:   ジョフリー・キーン
Q:      デスモンド・リュウェリン
マネーペニー:   ロイス・マクスウェル

勝手に評点:2.5
  (悪くはないけど)

あらすじ

009がロシアの秘宝“ファベルジュの卵”を手にしたまま東ドイツで謎の死を遂げた。事件の真相を追うボンド(ロジャー・ムーア)の前に現れたのは、大富豪カマル・カーン(ルイ・ジュールダン)

謎の美女、オクトパシー(モード・アダムス)を巻き込んでカーンが画策する陰謀の裏には、ソ連軍の反乱分子が企む世界制覇の野望が隠されていた。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

本作を含めボンドシリーズで5本も監督を務めているジョン・グレンだが、せっかく初監督の『007 ユア・アイズ・オンリー』で本来のスパイ映画路線に軌道修正させたというのに、早くも二作目でコミカル路線に逆戻り

アヴァンタイトルからして冴えない。中南米で敵軍の大佐に変装し基地に侵入していたボンドが、すぐに身元がバレてしまうが、CIAの美女に助けられて敵の開発機をうまく大破させる能天気な展開。

変装した相手はボンドによく似ていると思ったら、演じているジョン・ウッドは、ロジャー・ムーアのスタンドイン俳優だそうな。

緊迫感のないアクションに続き、タイトルも女性の裸だらけで、シリーズ随一の品のなさ。

主題歌はリタ・クーリッジ「All Time High」。映画タイトルが曲名にも歌詞にも含まれないのは珍しいが、だからなのか曲がまったく頭に残らない。これも前作の主題歌「For Your Eyes Only」とは対照的。

面白いことに本作公開年には、初代ボンドのショーン・コネリーによる本家とは異なる傍流のボンド映画『ネバーセイ・ネバーアゲイン』が公開されている。

興行的には『オクトパシー』の後塵を拝したものの、映画的にはコネリーの復帰作の方が上だったと思う。「Never say never again」は主題歌のメロディもちゃんと耳に残っているし。

当初はコネリーではなく、007シリーズのボンド役降板を表明していたムーアが、こちらに起用される予定だったが、ユナイテッド・アーティスツを買収したMGMの破格の待遇で、続投する気になったようだ。

いくら若作りとはいえ、ロジャー・ムーアももう50代後半だろう。そろそろ若手に譲る時期だと思ったが。

さて、本作。東ベルリンでピエロに成りすましサーカス団に潜入していた009が、わが身を犠牲にして、ロシアの秘宝<ファベルジュの卵>の持ち出しに成功する。

だが、これはニセモノで、本物はサザビーズのオークションにかけられようとしていた。ボンドは美術鑑定部のファニング(ダグラス・ウィルマー)と会場に行き、値をつり上げる売り手がいないか探りを入れる。

イアン・フレミングの原作短編にも、このオークションの場面がメインになっている。値をつり上げようとするターゲットを探す様子が丁寧に描かれているのだ。

だが映画になると、そんな目的やオークションの様子はおざなりに扱われてしまう。何せ、ボンド自身が派手に値をつり上げ始めるのだ、まるでコントのように。

ボンドは、売り専門のアフガニスタン亡命貴族であるカマル・カーン(ルイ・ジュールダン)が現れて<卵>を買おうとするのに不審感を抱き、会場で出展品を手に取って確かめる振りをして、発信機を仕込んだニセ物とすり替える。

ここまで飛躍すると、当初の目的が何だったかもよく分からないし、いとも簡単に秘宝を触らせて、すり替えまで許してしまうサザビーズの脇の甘さにも呆れる。オークション自体に権威がなくなり、この場面の緊張感は失せてしまった。

ボンドのせいで高値掴みさせられただけでなく、偽物にすり替えられた<卵>を持ってカマル・カーンはインドへ。

演じるルイ・ジュールダンいけ好かない知的な悪役の雰囲気十分で、なかなかいい。彼の脇には美女マグダ(クリスティナ・ウェイボーン)

インドのカジノでボンドはカマル・カーンを挑発し、落札した卵が偽物であることをバラして、本物の卵を盗みに襲いにくるようにけしかける。ここも演出は乱暴だ。

バックギャモンでの賭けのシーンも、イカサマのサイコロを振るだけなので面白味に欠ける。ボンドが敵のイカサマを逆手にとって勝つのはいいが、『カジノ・ロワイヤル』ポーカーゲームのような緊迫感は皆無

このカマルが今回のラスボスだったら話はもっと盛り上がる気もしたが、カマルは謎の女性オクトパシー(モード・アダムス)にビジネスパートナーとして仕えており、彼女はサーカスのオーナー、その正体は宝石泥棒一味のボス。

カマルはオクトパシーを裏切り、ソ連の好戦派のオルロフ将軍(スティーヴン・バーコフ)と陰謀を企んでいる。

サーカス列車で密輸している彼女に、盗んだソ連の宝飾品を西ドイツへ運ばせると見せかけ、人間大砲に隠した宝飾品を核爆弾にすりかえ、興行先の米空軍基地でテロを起こそうとしているのだ。

なんか、原作を無視して話を複雑かつ荒唐無稽にしてしまっており、軽口を叩いてすぐに敵の女をたらし込みベッドインするボンドと、前後の脈絡なくふりかかるアクションくらいしか、記憶に残らない。

オクトパシーはタコのタトゥーと水槽で飼っているタコからのネーミングなのだろうが、ボンドの因縁の敵組織スペクターのタコのエンブレムとは無縁であり、話に広がりはない(原作短編の題名『オクトパシー』だけを使いたかったのか)。

メインのボンドガールはこのオクトパシーを演じたモード・アダムスなのだが、彼女はヴィランのままにしておいた方が分かり易かったのに、すぐにボンドに口説かれていい仲になってしまうのは、現代の感覚では古臭い流れ。

モード・アダムス『007 黄金銃を持つ男』でも別人としてボンドガールを演じているのだが、どちらもロジャー・ムーアとの共演であり、さすがにこの二回目の配役はどうなのという感じ。歴代ヒロインでも最年長。

扱いは本作の方が大きいが、無惨に殺されてしまった『007 黄金銃を持つ男』の役の方が印象深い。

インドでのボンドの相棒を務める若者ビジャイ(ビジャイ・アムリトラジ)は腕も立つなかなかノリの良い青年で良かったが、相変わらず、現地でボンドをサポートするスタッフは殺されてしまうのがお約束。

プロペラ機の機上での上空アクションや列車の車両の上のファイトなど、アクションはそれなりに力が入っているとは思う。

だけど、ワニのかぶり物みたいな小型潜水艇で敵陣に潜入したり、ターザンの真似で森の中を逃げたり、ピエロのメイクまでする悪ノリのボンドには、正直ついていけない。

ここまでやってくれるボンド俳優は、陽気なロジャー・ムーアだけだろうな。

新兵器としても、鉄格子を溶かすインクの出る万年筆と、見た目がほぼ市販品ままの腕時計セイコー・デジボーグでは、ちょっと寂しい。

ボンド・カーも今回は登場せずだが、代わりにボンドが長電話する女性から無断で拝借するアルファロメオGTV。おお、アルファがボンド・カーになるのは珍しい。『慰めの報酬』の黒いアルファ159はカッコよかったけど、敵の車両だったから。

さあ、いよいよ次はロジャー・ムーアの卒業作品か。