『夏至』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『夏至』今更レビュー|お前たち、兄妹でそんなにくっつくんじゃない

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『夏至』
 À la verticale de l’été

トラン・アン・ユン監督がハノイを舞台に描く、大家族のひと夏の出来事。

公開:2000 年  時間:112分  
製作国:ベトナム・フランス

スタッフ 
監督:     トラン・アン・ユン
キャスト
リエン:トラン・ヌー・イエン・ケー
スオン:  グエン・ニュー・クイン
カイン:        レ・カイン
ハイ:     ゴー・クアン・ハイ
クオック:     アンクル・フン
キエン:  チャン・マイン・クオン
トゥアン:  レ・トゥアン・アイン

勝手に評点:2.5 
 (悪くはないけど)

あらすじ

母親の命日に集まった長女スオン(グエン・ニュー・クイン)、次女カイン(レ・カイン)、三女リエン (トラン・ヌー・イエン・ケー)の三姉妹と男兄弟1人、そして姉妹二人の夫たち。

ハノイ市と世界遺産のハロン湾を舞台に、様々な人間関係の中で三姉妹と夫たちそれぞれが抱える秘密と嘘が静かに淡々と描かれていく。

今更レビュー(ネタバレあり)

『夏至』というタイトルに、つい『ミッドサマー』の恐怖が頭に浮かんでしまうが、あんな奇怪な雰囲気とは無縁で、ベトナムはハノイを舞台にしたアジアンテイストな家族ドラマ。

トラン・アン・ユン監督はデビュー作『青いパパイヤの香り』の印象があまりに鮮烈なため、本作も冒頭で監督夫人でもあるトラン・ヌー・イエン・ケーが緑濃い観葉植物をバックに登場するだけで、間違えて同じ作品を見てしまったかと一瞬あせる。

© 2000 LES PRODUCTIONS LAZENNEC/STUDIO CANAL+/ARTE FRANCE CINEMA. ALL RIGHTS RESERVED.

本作はハノイに住む三姉妹(+兄)、それに夫たちという大家族の物語。両親は既に亡く、まずは母親の命日に一同が集う。宴席のための食事を準備する三姉妹たち。

談笑しながら庭で果実を割ったり、鶏の皮を剥いだり。このあたりの女性たちの手さばきも『青いパパイヤの香り』を思わせるが、トラン・アン・ユン監督は相変わらず撮り方が美しい。

同作ではベトナムっぽい屋敷を使ってのパリ郊外ロケだったが、今回はハノイで撮っているらしく、ゴチャゴチャっとした街の猥雑感も少し感じられるのもよい。

母の命日の朝、ベッドで微睡む若い娘を男が優しく起こす。恋人同士にしか見えないが、この二人は兄妹で、末っ娘のリエン (トラン・ヌー・イエン・ケー)と兄のハイ(ゴー・クアン・ハイ)。二人は一緒に暮らしている。リエンはまだ学生で、ハイは役者の卵。

兄妹の上には二人の姉がいる。長女のスオン(グエン・ニュー・クイン)はカフェの女主人で幼い息子がおり、夫クオック(アンクル・フン)は植物を撮る写真家だ。

次女のカイン(レ・カイン)は新婚で、ライターの夫キエン(チャン・マイン・クオン)は処女小説に行き詰まっている。

© 2000 LES PRODUCTIONS LAZENNEC/STUDIO CANAL+/ARTE FRANCE CINEMA. ALL RIGHTS RESERVED.

家族構成を頭に入れるだけで序盤は忙しいが、キエンは小説のネタ集めにと、亡き義母の戸籍調べをしている。明かされるのは、母の秘めた初恋の話。

姉妹の両親は貞節な理想の夫婦で、父より1か月早く生まれた母が亡くなってひと月後に父が亡くなり、同じ時間を生きた二人だった。

だが、生前ボケてしまった母は、父を初恋の男性と勘違いするようになり、違う名前で呼び、愛の告白さえするようになる。困って悲しそうな顔をする父のことを思い出し、三姉妹は夫婦というものに想いを巡らす。

仲のよい三姉妹だが、それぞれ、誰にも言えない男女の悩みを抱えていた。

こんな話を向田邦子が書いたら『阿修羅のごとく』になりそうだが、当時のベトナムではまだ男尊女卑の文化が根強いのか、表向きはみな従順で夫をたて、ドロドロした愛憎ドラマではない。

この淡泊さが安心して観ていられることにもつながっているが、姉妹それぞれの悩みについては、理解が追い付かないところもある。

以下、ネタバレになるのでご留意願います。

長女スオンの夫クオックは人間不信で人付き合いの苦手な写真家。命日のあとも、出張で二週間、家を離れる。

人間より植物を被写体にする方がいいと語るクオックは本当に芸術家肌の人間嫌いな写真家なのかと思えば、船でハロン湾をわたった小島に、愛人と隠し子が住んでいる。彼は四年も二重生活を送っているのだ。

小さな島々がうかぶハロン湾の雄大な風景に、愛人と別宅という下世話な題材が組み合わさる。

しかも、妻スオンの方も、深入りはしないまでも、自分も行きずりの青年トゥアン(レ・トゥアン・アイン)と逢瀬を重ねている。夫の浮気を知って、妻もよろめいてしまったのか。その因果関係は分からない。

だが、ついに耐え切れず別れを切り出す夫に対し、スオンは妻の座を手離さないという。このあたりの心情がよく分からないが、悩みとしては姉妹で一番深刻だ。

次女カインは夫のキエンに妊娠したことを知らせる。だが、夫の反応はなぜか薄い。妊娠が判ったが、今は夫と二人だけの秘密にしておきたいカイン。

夫は一人でホーチミンに出かけ、旅先で小説を書きあげてくる。戻ってきた夫の背広から、ルージュの伝言のカードをみつけ、カインは夫の浮気を察知し傷つく。これが浮気だったのかは判断が難しい。

行きのフライトで隣に座った女のホテルを偶然知ったキエンは、彼女を追いかけてホテルへ。そこで女が残した伝言カードを入手し、部屋に入る。だが勇気がなく、寝ている女を起こさずに出て行く。そんな風に見えた。

これ、女は途中からキエンを誘っているようには見えたが、はじめから知り合いだったのだろうか?キエンも女と寝てないようだし、浮気未遂ってことか。

© 2000 LES PRODUCTIONS LAZENNEC/STUDIO CANAL+/ARTE FRANCE CINEMA. ALL RIGHTS RESERVED.

三女リエンに関しては、何が悩みなのかも理解できない。同棲している兄ハイとの関係は、明らかに怪しい。兄妹であそこまで恋人同士のようにじゃれ合うか。

リエンはファザコンだから、父に似ている兄が好きだという。そのくせ、恋人のホア(レ・ヴー・ロン)という存在があり、どうやら妊娠してしまったと姉たちに泣きつく。

だが、よく聞いてみると、セックスしたのは二週間前、生理は先週あったというではないか。あんた、そりゃ妊娠じゃないよ、バカだね。そう笑う姉たちだが、さすがにそこまで性知識がないと年頃の娘はいるだろうか。

そんなこんなで、今度は父親の命日がやってくる。みんな家族の絆が強まったね、という映画なのか。脚本としては破綻していると思う。

この大家族にこれといった悪人もいないのに、誰にも共感できないのが凄い。

ただね、映像は美しいのよ、映像は。ベトナムの暑い夏というのが、匂いたつように伝わってくる。

それからハロン湾もいい。映画の舞台としては『007トゥモロー・ネバー・ダイ』にも登場したが、この湾にはアクション映画や怪獣映画よりも、本作のような静かな作品の方が似合う。

とはいうものの、向田邦子の家族ドラマファンには、すすめられないかな。