『お母さんが一緒』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『お母さんが一緒』考察とネタバレ|結局フォール勝ちは、姿を見せないあの人

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『お母さんが一緒』

橋口亮輔監督9年ぶりの新作はホームコメディ!江口のり子、内田慈、古川琴音の三姉妹が母を連れた温泉旅行に巻き起こる悲喜劇。

公開:2024 年  時間:106分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:          橋口亮輔
原作:        ぺヤンヌマキ


キャスト
弥生:         江口のり子
愛美:           内田慈
清美:          古川琴音
タカヒロ:    青山フォール勝ち

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2024 松竹ブロードキャスティング

あらすじ

親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。

長女・弥生(江口のり子)は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持ち、次女・愛美(内田慈)は優等生の長女と比べられたせいで自分の能力を発揮できなかった恨みを心の奥に抱えている。

三女・清美(古川琴音)はそんな姉たちを冷めた目で観察する。

「母親みたいな人生を送りたくない」という共通の思いを持つ三人は、宿の一室で母親への愚痴を爆発させるうちにエスカレートしていき、お互いを罵り合う修羅場へと発展。

そこへ清美がサプライズで呼んだ恋人タカヒロ(青山フォール勝ち)が現れ、事態は思わぬ方向へと転がっていく。

レビュー(後半に若干ネタバレ)

『ぐるりのこと』橋口亮輔監督の実に9年ぶりの新作映画だというので観に行った。

前作は心がヒリヒリと痛むシビアな現実を描いた『恋人たち』(2015)。今回は打って変わって、不平不満しかいわないという老いた母親の誕生日に温泉旅行に連れていく三姉妹の物語。

コメディだというが、あまり橋口亮輔監督に笑いのイメージはない。絶妙にシュールな全身タイツのコメディ『ゼンタイ』ならあるけど。

などと思って見ていると、もうはじめのカットから、完全に松竹のホームドラマの絵面だということに驚く。それは、過去作で緊張感を漲らせた橋口作品の空気とはまるで別物だ。

思えば『恋人たち』だって松竹ブロードキャスティングの企画作品なのだから、同じ雰囲気でもいいはずなのに、使い分けをしているのだろう。

ただ、同じ松竹のホームコメディでも、例えば山田洋次監督の『家族はつらいよ』なんかとはだいぶ勝手が違う。あの作品にあるのんびり感は、本作には皆無だ。温泉旅行ならではのリラックスムードは微塵もなく、三姉妹は終始言い合いをしている。

三人が何よりも恐れている母親は、基本ネガティブワードしか吐かないそうで、この毒親の機嫌をとることに、三人は神経を尖らせている。

ちなみに母親は最後まで顔を見せず声もあげない演出策がとられている。旅館の送迎車の中に座っているカットで、シルエットが一瞬映るだけ。まるでホラー映画だ。『サイコ』かよ、死んでないけど。

長女弥生(江口のり子)はもう40歳近いが、母の「勉強しろ、いい大学に行け」に素直に従って生きてきたものの、容姿には妹へのコンプレックスもあり、いまだ独身の堅物。

朝から晩まで、妹相手にハイテンションで説教し続ける。おそらく、一番母親に似てしまった娘なのだろう。

(C)2024 松竹ブロードキャスティング

次女愛美(内田慈)はそんな優等生の姉と比較されるのに嫌気がさし、早々に家を飛び出し、自由気ままに生きている。

妻子持ちとの不倫も含め、何度も男を作っては別れるの繰り返しで現在はフリー。大した職にもついておらず、だらしない性格だが、歌はすこぶる上手い。

三女清美(古川琴音)は29歳、出て行った姉たちのかわりに実家で両親の面倒をみている。口やかましい二人の姉のおかげで、おとなしく素直な性格にみえて、今回は一番のサプライズを用意している。

近所の酒屋の息子で婚約者のタカヒロ(青山フォール勝ち)を、長崎の実家から佐賀の嬉野温泉宿に呼び出しているのだ。プレゼント代わりに、母親に紹介しようというのである。

(C)2024 松竹ブロードキャスティング

女三人寄れば姦しい」とはよく言ったもので、とにかく休む間もなくマシンガントークのような言い合いの姉妹たち。

その大半は、長女・弥生による次女・愛美へのダメ出しだったように思うが、時おり選手交代し、この登場人物が組み合わせを変えては次々と論争を繰り広げる。三谷幸喜『やっぱり猫が好き』まったりトークの三姉妹とは似て非なるものなのだ。

旅館の一室を舞台にした会話劇が中心なので、どこか舞台劇っぽいと思ったら、オリジナルはぺヤンヌマキによる演劇。彼女が主宰の演劇ユニット「ブス会*」が、2015年に本作を舞台で披露している。その際も出演した内田慈が本作でも同じ次女役で登場している。

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映像化にあたっては、橋口亮輔監督が独自の脚色を加えた部分も当然あるようだが、そもそも本作はCS「ホームドラマチャンネル」(松竹ブロードキャスティング)の開局25周年で制作されたオリジナルドラマシリーズとして撮られたもの。

それを映画化にあたって再編集したそうだが、一気に見せることで勢いが出たように思う。

客席には私以上にシニアな層が大勢見に来ていたのは驚いたが、これは松竹のなせる業なのか、それともホームドラマチャンネルのファン層なのか。

それにしても、長女・弥生の正論・説教攻撃は観ている方が気疲れする。次女・愛美に同情したくなるほどだ。あの声の大きさで夜通し騒いでいたら、隣室に宿泊客がいたとすれば、さぞ迷惑だったろう。

だが、その長女も含めて三姉妹がみな、小さなころからネガティブワードばかりの毒母に強迫観念を植え付けられており、何とも気の毒になる。

長女役の江口のり子は、本作以降も『もしも徳川家康が総理大臣になったら』北条政子役や、吉田修一原作の『愛に乱暴』の主人公など、目下絶好調。

原作通りなら彼女がシリアスな演技を貫くであろう『愛に乱暴』は胃に重そうだが、本作はコメディタッチなので終始怒るキャラでも救われる。

次女役の内田慈は、本作の舞台出演にも、『ぐるりのこと』『恋人たち』といった橋口監督作品にも出演。役柄が一番馴染んでいる彼女の受けの芝居で物語が回っているようにみえる。

近作『夜明けのすべて』では精神科医役だったけど、やっぱこっちのが似合うわあ。彼女が突如本格的に歌い出す吉田美和が上手くて笑った。

三女役の古川琴音は現在公開中の『言えない秘密』のほか、黒沢清監督の公開予定作『Cloud クラウド』にも出演など、こちらも売れっ子。

ネタバレになるが、彼女がお姉ちゃんたちの言うことを素直に聞くだけの末っ子で終わるはずがなく、後半では婚約者タカヒロ(青山フォール勝ち)の登場だけでなく、彼には連れ子がいることまで発覚。大騒ぎとなる。

青山フォール勝ちはお笑いトリオ・ネルソンズの一員。台詞にもあったとおり、レスリングで鍛えていただけあって身体は逞しい。純朴そうでどこか抜けていて、だが尻に敷かれ気味の清美を愛している様子が伝わり、なかなかうまいキャスティングと思った。

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本作で少し気になったのは、独身の娘に対して、やれ結婚しろだ、早く孫の顔を見せろだといわれても、40歳ともなると難しいよねといった、家族ドラマ定番のしんみりした話

或いは自分は一重瞼で冴えなくて、妹二人は二重で小さい頃から近所の人にもかわいいといわれて羨ましいといったルッキズムの話

この手のネタを今の世の中で大々的に取り上げるのかと思ったが、世間でハラスメントがうるさく言われようと、家庭の中、特に田舎町では、相変わらずこの手の話が幅を利かせているのだろう。

だから、家族旅行でこういう話題が登場するのは自然なことだ。

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宿泊客でもないタカヒロが旅館に現れて、飯は外のラーメン屋で食い、駐車場の軽トラで寝るのはよいが、翌朝に露天風呂に入るのは、ルール違反ではないのかと気になった(入湯料支払った?)

最後はホームコメディのお約束で当然ながら大団円のハッピーエンド。

パワースポットの湧き水(『恋人たち』<美女水>かよ)を飲ませたらポジティブ発言するようになったという母親は最後まで顔見せなしだが、死んでもいないのに旅行にも誘われない父親が実に哀れで…

父は、毒母以上に嫌われているのだろうか。