『Winny』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『Winny』考察とネタバレ|あげる君を大量に生み出した開発者も違法だよ

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『Winny』

日本のネット史上最大の事件であったWinny事件を風化させてはならない。

公開:2023 年  時間:127分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:     松本優作

キャスト
金子勇:       東出昌大
<弁護団>
壇俊光:       三浦貴大
秋田真志:       吹越満
桂充弘:       皆川猿時
浜崎太一:      和田正人
桜井恵子:      木竜麻生
林良太:        池田大
<京都府警>
北村文也:    渡辺いっけい
畑中健一:      高木勝也
田端直樹:       成松修
<愛知県警>
仙波敏郎:      吉岡秀隆
山本幸助:      金子大地
<その他>
松山記者:     阿部進之介
伊坂検事:      渋川清彦
比嘉裁判長:    田村泰二郎
金子勇の姉:      吉田羊

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2023映画「Winny」製作委員会

ポイント

  • 20年前に起きたWinny事件をいま取り上げる発想は面白い。はたして開発者の金子氏は、罪に問われるべきだったのかどうかは両論あるだろう。私も本作の論調には同意しかねる部分もあった。
  • だが、映画としてみるならば、東出昌大や三浦貴大をはじめ、役者はみな魂の入った演技をみせ、上質な法廷劇としても見応えがある。

あらすじ

2002年、データのやりとりが簡単にできるファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子勇(東出昌大)は、その試用版をインターネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」に公開する。

公開後、瞬く間にシェアを伸ばすが、その裏では大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、次第に社会問題へ発展していく。

違法コピーした者たちが逮捕される中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑で2004年に逮捕されてしまう。

金子の弁護を引き受けることとなった弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、金子と共に警察の逮捕の不当性を裁判で主張する。

レビュー(まずはネタバレなし)

Winny事件を映画にしようという、松本優作監督の着眼点は素晴らしい。派手さはないが、こういう作品はもっと人の目に触れる機会があるべきだと切に思う。

もう20年前になるのか。この事件を風化させてはいけない。若い世代は知らないかもしれないので、簡単に触れてみる。

Peer to Peer(P2P)技術を用いたファイル共有ソフト『Winny』の開発者で東大大学院の助手だった金子勇が著作権法違反幇助の容疑で逮捕された事件。

(C)2023映画「Winny」製作委員会

金子氏が著作権法に違反したのではなく、彼が2ちゃんねるに公開したソフトが瞬く間にネットユーザーに広がり、本来企図していなかった、違法な映画・ゲーム・音楽等のアップロードやダウンロードが匿名のもとで盛んに行われるようになる。

また、誤用によってPC内の保存データが共有されてしまうことで、企業等の内部情報が流出してしまう事象も多発した。

Winny以前に米国では音楽ファイルの共有ソフト『Napster』が流行し、やはり著作権問題で訴訟沙汰になるなど、P2Pのファイル共有ソフトを使った著作権侵害は世界的に問題視されていた。

だから目新しいものではなかったのかもしれないが、この分野に心血を注いでいた京都府警ハイテク犯罪対策室が、まずは悪質なユーザー2名を割り出し逮捕。そして開発者の金子氏にも当初の参考人扱いから逮捕へと話が及んでいく。

当時、政府やマスコミはWinnyを使わないように盛んに呼びかけ、利用者はまるで反社会的な存在の烙印を押されるような扱いになった。

不正にファイルをアップするのもダウンロードするのも「違法だよ、あげるくん」と熱心に啓蒙するようになったのは、2010年の著作権法改正からだったか。

本作は、そのような経緯で、ただのプログラム開発者でありながら、利用者の著作権法違反を幇助した罪で逮捕された金子氏を、壇俊光ら弁護団が懸命な努力で援護し、無実を勝ち取ろうという物語だ。

社会的には大きく騒がれた事件ではあるが、映像的にはめちゃくちゃ地味である。殺人も起きなければ、巨額なカネが動くような訴訟事案でもない。

だが、予想外に面白い。世界に引きずり込まれる。ひとえに、俳優陣の気迫の演技の魅力だと思う。

開発者で被告となる主人公の金子勇を演じた東出昌大は役になりきっている。エンドロールで本人映像が登場するが、その容姿に似せにいっているというよりは、言動や内面から滲み出るものに、本物感が溢れている。

勿論、私は当人を良く知っている訳ではないが、東出昌大がその金子勇だと思えてしまう。将棋棋士を描いた『聖の青春』(2016)で彼が羽生善治名人を演じた時の、まるで本人が憑依したような再現力を思い出す。

余談だが、髪型やメガネのせいなのか、どこか織田裕二っぽく見えてしまったのは私だけか。

(C)2023映画「Winny」製作委員会

そして、これは開発者の不当逮捕だと、必死に金子を救おうとする壇弁護士三浦貴大が演じる。彼もまた、体重を増やし、やや野暮ったい感じにして、人権擁護派の弁護士そのものに見える。

新作『愛にイナズマ』では、憎たらしい映画業界人を怪演していた三浦貴大だが、こうも豹変するとは大したものだ。でも、彼にはやはりこういう役のほうがフィットしている。

Winny弁護団主任弁護人の秋田真志には、吹越満。相変わらず色白で細面だが、数々の刑事事件をひっくり返してきた敏腕弁護士という役に相応しい切れ者の雰囲気。

彼の法廷シーンは圧巻だった。「尋問はLIVEですから」とお茶目にミュージシャンのようなポーズをするところが、ちょっと笑えて好き。

(C)2023映画「Winny」製作委員会

金子は被告でつらい立場だと言うのに、あまり悲壮感なく、のんきに自分の興味ある分野の雑談に熱弁をふるう。それ以外に笑いをとるシーンは少ない。

主任弁護士吹越満の脇には、やはり弁護士役の皆川猿時がおり、朝ドラ『あまちゃん』の観光協会長と南部ダイバーの先生のおかしな二人なのに、ここでは見事に羽目を外さない。皆川猿時と気づかないくらいのシリアスさだ。

また法廷では原告側に、京都府警で金子を騙してでたらめな調書を書かせた警部補役の渡辺いっけいがいる。

彼もドラマ等ではコミカルな一面の多い俳優だが、本作ではにらみを利かせる渋い演技力で吹越満に対抗。やはり、悪役に魅力があると映画は冴える。

本作は役者の魅力に加えて、脚本や演出も手が込んでいる。冒頭の、ただの参考人として警察に同行された金子が、人の善さからつい油断していろいろと発言したり調書に署名したりするうちに、事態が切迫してくる展開。

何気ない台詞や書かされた文章の中に、公判でポイントとなるものが潜り込まされている点もうまい。チラっと映る画面の中の小道具や背景も、きちんと時代考証されている。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

京都府警ハイテク犯罪対策室とは別に、愛知県警の警察官が登場する場面がある。署内で領収書を偽造して裏金作りを組織的に実施し、良識派の巡査部長(吉岡秀隆)だけがそれを咎める。

(C)2023映画「Winny」製作委員会

確かに、そんな事件もあったように記憶するが、なぜWinny事件と絡むのか忘れていた。Winnyによって、この偽造領収書が情報流出し新聞記者(阿部進之介)の目に留まるのだ。

吉岡秀隆は直接的にはWinny事件とは関連しないしメインのメンバーとの共演シーンもないが、並行する挿話として物語に厚みを持たせる。

吉岡秀隆は直接的にはWinny事件とは関連しないしメインのメンバーとの共演シーンもないが、並行する挿話として物語に厚みを持たせる。

さて、開発者に罪はなく、このような逮捕の前例は、他の技術者の未知の分野への挑戦意欲を委縮させるものだと、壇弁護士は主張し続ける。

Youtubespotifyもまだない時代、米国ならば世界を圧巻するような優れたソフトに育ったかもしれないWinnyを世界に先駆けて作り上げた天才技術者を、この日本では、あろうことか犯罪者に仕立て上げてしまった

なんという愚行。これは当時の日本でも、有識者の声として多く聞かれたものだ。

ナイフで人が刺されたら、刺したヤツが犯罪者であって、ナイフを作った人物が逮捕されるのはおかしい。そんな理屈で本作は成り立っている。間違ってはいないし、そこに依拠しないと映画にならない。

2ちゃんユーザーたちからの義援金が数多く集まり、通帳を記帳すると金子氏のハンドルネーム「47」宛てにメッセージが多数出てくるシーンは感動的だ。

ただ、私は素直に納得できない。それは、Winnyのせいで社内の情報管理のルールが厳格化し、当時は仕事上で相当苦労したという恨み節もある。

だがそれ以上に、利用者が容易に違法UL/DLをしたり意図せず情報流出をしてしまうことが予見できたときに、その仕組みの作り手には本当に責任がないとは言い切れないのではないか。

技術への挑戦だけに目が行き、利用者のリスクを軽視し、とりあえず使ってもらおうというアプローチは危険だ。

金子氏は一旦は有罪になったものの、7年後についに無罪を勝ち取る。その数年後、金子氏は42歳の若さで病死してしまうが、生前に無罪となったことがせめてもの救いだった。

(C)2023映画「Winny」製作委員会

彼をそそのかして調書を書かせ、逮捕に持ちこんだ京都府警のやり口は許せるものではない。

金子氏を有罪にして京都府警のメンツは立ったかもしれないが、本来は彼に開発を禁じるのではなく、速やかにWinnyの改良プログラムを書かせることが最良手だった。

彼がこの訴訟で失った歳月で、日本も技術立国として掴みかけたアドバンテージを失ってしまったことを、映画は痛烈に思い出させてくれる。