『奇跡』
是枝裕和監督が、九州新幹線全線開通の企画ものに挑戦。列車のすれ違いで奇跡が起きる。
公開:2011年 時間:128分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 是枝裕和 キャスト 大迫航一: 前田航基(まえだまえだ) 木南龍之介: 前田旺志郎(〃) 木南健次: オダギリジョー 大迫のぞみ: 大塚寧々 大迫秀子: 樹木希林 大迫周吉: 橋爪功 山本亘: 原田芳雄 <航一のクラスメイト> 福本佑: 林凌雅 太田真: 永吉星之介 <龍之介のクラスメイト> 有吉恵美: 内田伽羅 早見かんな: 橋本環奈 磯邊蓮登: 磯邊蓮登 平祐奈: 平祐奈 有吉恭子: 夏川結衣 坂上守先生: 阿部寛 三村幸知先生: 長澤まさみ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
小学生の航一と龍之介(まえだまえだ)は仲のいい兄弟だったが、両親の離婚で航一は母(大塚寧々)とともに鹿児島で、龍之介は父(オダギリジョー)と福岡で暮らすことになった。
家族を一つに戻したいと願う二人は、ある時、間もなく開通する九州新幹線の噂を耳にする。それは、鹿児島と福岡、それぞれの1番列車がすれ違う瞬間、奇跡が起きるというものだった。
家族の再生を奇跡に懸けた二人は、それぞれの場所で友達や周りの大人たちを巻き込んだ無謀な冒険に飛び出す。
今更レビュー(ネタバレあり)
感性もすれ違いでした
九州新幹線の全線開通を記念した、是枝裕和監督初となる企画もの。舞台は九州だが、企画を仕切っているのはジェイアール東日本企画。
離婚によって鹿児島と福岡に離れて暮らすことになった小学生の兄弟と、全線開通を絡めた少年少女の冒険譚。
こどもたちの演技に感動している方には申し訳ないが、私は本作には酔えなかった。日本版『スタンド・バイ・ミー』のような子供たちの冒険の物語とも言われたが、正直、到底及ばない。
是枝監督は、やはりドキュメンタリー畑のひとなのだと思う。彼の優れた作品には、その源流を感じることが多い。だが本作は、鉄道ファンだという監督がつい浮かれてしまったせいか、リアリティを感じさせない。
『誰も知らない』(2004)であれほどまでに、生々しく子供たちの生活をフィルムに収めた是枝監督は、『万引き家族』(2018)や最新作の『怪物』(2023)でも子供たちのリアルな日常を撮っているのに、本作で描く子供たちは、演技上手な子役俳優にみえてしまう。
それは、ドラマに没入させるだけの説得力がなかったことの影響が大きい。
両親(オダギリジョーと大塚寧々)の離婚により、兄の航一(前田航基)は鹿児島で母の実家の軽羹屋に暮らし、弟の龍之介(前田旺志郎)は売れないミュージシャンの父と福岡に暮らす。
桜島の灰まみれの生活に日々不満が募る航一は、「何でみんな平気で暮らせるの?すぐそばで噴火してんのに」と文句ばかり。
一方、龍之介は大阪育ちのお調子者で女子の人気もあり、福岡で楽しく元気に暮らしている。
◇
離散した家族を何とか再結成させようと気をもむ兄・航一は、ある噂を耳にする。
「九州新幹線が全線開業する日、鹿児島から福岡に向かう新幹線<つばめ>と逆方向に向かう<さくら>が初めてすれ違うときのエネルギーの衝突で、願い事が叶う」
航一は、そこで願をかければ、家族が元通りになると考えるのだ。まるで流れ星を見上げる乙女か、はたまたダイアン・レインのデビュー作(古いね)、橋の下でサンセット・キスを夢みる『リトル・ロマンス』(1979)か。
どんだけ幼稚やねん
この「奇跡」の発想は、いくら全線開通企画でも、さすがに無理があると思う。
いや、小学校低学年ならまだ許すけど、このお兄ちゃんは、小6の現代っ子だろう? イマドキ、こんなファンタジー信じちゃう6年生、日本に生息しているのか。それもあんた、生まれも育ちも大阪やで。
ちゃっかりとお調子者の弟のほうが、よほどキャラとしては生き生きとしていて、アニキは分が悪い。しかも、口を開けば、「なんでみんな、こんな火山のそばに住むんや」とご当地ムービーにあるまじき毒舌。
これでは、電車がすれ違っても感動できない。実際、私は公開時から三回ほど観たが、どうにも共感スイッチが入らないでいる。
◇
これには数日前に、相米慎二監督の傑作『お引越し』(1993)を観たことも影響している。
離婚して別々に暮らし始める両親に必死で対峙し、もう一度家族をつなげようと頑張る京都弁の小6少女を、映画デビューの田畑智子が熱演する。あの健気さとリアルさに比べると、本作の大阪弁の小6男子はあまりに幼稚だ。
子供たちのキャスティング
念のために書いておくが、兄弟を演じたまえだまえだの二人は好演していたと思うし、さすが本物の兄弟だけあって、余人には出せない親密さを醸している。
◇
ただ、彼らの冒険に巻き込まれる仲間たちはバランスが悪い。弟の龍之介の冒険に付き合うガールフレンドの恵美(内田伽羅)とかんな(橋本環奈)が目立ちすぎるのだ。
クラスにいる子役モデルの平祐奈(役名同じ)に対抗心を燃やす、タレント志望の恵美のクール・ビューティぶり。
本作デビューの内田伽羅は、本作でも祖母を演じる是枝作品のミューズ・樹木希林の孫、つまり本木雅弘と内田也哉子の娘であり、血筋の良さを感じさせる。
一方、その友達で元気いっぱいのかんなは橋本環奈の映画デビューと、平祐奈と三人が同じクラスとは、何とも美少女率の高い小学校だ。
恵美とかんなの参加で、兄・航一の友人男子二人は冒険旅行においてはすっかり目立たない存在になってしまい、みんなで合流して新幹線のポイント探しをするあたりは、一体誰が主役で何をしようとしているのかも、よく分からなくなってしまった。
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— Rev.from JANE💙🥼🩺💉🩹 (@irevjane) February 27, 2019
環奈ちゃんは出演当時12歳。華々しく女優デビューした作品です🥰
『奇跡』は是枝裕和監督の作品でとても素敵な映画です。まだ見たこと無い人はこの機会に是非✨✨✨https://t.co/P7UXU7cbkE #GYAO pic.twitter.com/ua5lScwV4a
無駄に豪華な助演陣
焦点が定まらない要因がもうひとつ。企画ものの予算が潤沢だったのか知らないが、大人のキャストが豪華絢爛すぎるのだ。
是枝作品常連の樹木希林、祖父の橋爪功、両親役の大塚寧々とオダギリジョー、ここまでの主要ポストの配役はいい。みんな魅せる。
だが、それ以外は無駄に万全な布陣すぎる。学校の先生が阿部寛と長澤まさみ、中村ゆりとは目が泳ぐ。祖父の友人役に原田芳雄、スナックのママに夏川結衣となれば、『歩いても、歩いても』(2008)と被りすぎだ。
ここまで是枝組俳優で固めるのは、どうかと思う。ちなみに、主要メンバー以外で印象的だったのは、子供たちが終盤で世話になる老夫婦(高橋長英、りりィ)だった。
チラ見せの九州新幹線
さて、映画は終盤、ついに九州新幹線が初めてすれ違うポイントで、子供たちは待ち構える。
是枝監督は鉄道ファンだというし、JR九州も全面支援だというのに、なぜか私には本作での九州新幹線の壮麗な走行シーンがあまり記憶に残っていない(すれ違いで初めて姿を見せるからか)。
列車ものの映画となれば、別に車両の上の戦闘シーンや車内での密室殺人、はたまた脱線や爆破騒動がなくても、ただ列車が走っているだけの絵になるカットがありそうだが、本作ではそれが控えめだ。
森田芳光監督の遺作『僕達急行 A列車で行こう』とまで、どっぷり鉄ちゃん向きとはしないまでも、企画ものとしては、もう少しサービスカットがあるのかと思っていたので、ちょっと意外。
すれ違う列車の轟音の中で、子供たちがそれぞれに<奇跡>を願うことを唱えるシーン、そしてこれまでの冒険の旅の回想モンタージュ、どれも、およそ是枝監督とは思えないありきたりな演出で残念。桜島の絵が噴火したのは、まあまあ面白かったけど。
「桜島が噴火して、みんな住めなくなれば、家族はまた大阪で一緒に暮らせる」
最後には家庭より世界を選ぶとはいえ、さすがにこの発想で奇跡を願う少年には共感できないわ。そこまで思うのなら、まず母親を説得しようと思うくらいの気概がほしい。
鹿児島に暮らすひとたちは、本作を心安らかに楽しめたのだろうか。つい、気になってしまった。