『秒速5センチメートル』
どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか。
公開:2007 年 時間:63分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 新海誠 声優 遠野貴樹: 水橋研二 篠原明里: 近藤好美(第1話) 尾上綾華(第3話) 澄田花苗: 花村怜美 水野理紗: 水野理紗
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
第1話「桜花抄」
互いに思いあっていた貴樹と明里は、小学校卒業と同時に明里の引越しで離ればなれになってしまう。中学生になり、明里からの手紙が届いたことをきっかけに、貴樹は明里に会いにいくことを決意する。
◇
桜の花びらが舞い落ちる速度は、秒速5センチメートルなんだって。明里が貴樹にそう告げる。ほのかに意識し合っていた二人が、中学校にあがる前に彼女の転校で離ればなれとなり、今度は貴樹の鹿児島への引っ越しが決まる。
彼が住むのは豪徳寺。彼女が住むのは栃木県の岩船。会いに行こうと決意した日、関東には大雪が降る。
新宿好きの新海誠は、まず少年を、はじめて独りで降り立ったという新宿駅に立たせ、そこから宇都宮線、両毛線と乗り継いで、彼女の待つ駅に向かう。
◇
駅や電車の内部をはじめ、徹底したディテールの描写。珍しくファンタジー要素はない。大雪でダイヤが大幅に乱れる夜の北関東。会いたい気持ちの募る少年に、一人旅の孤独と不安が覆いかぶさる。
まるで芥川龍之介の『トロッコ』の現代解釈だ。そして、山崎まさよしの「One more time, One more chance」、まずはメロディのみ。
中学生はケータイなど持ってない時代。はたして彼女は23時を過ぎても、寂れた駅で待っていてくれるのか。第1話はあまりに青臭く甘酸っぱい話なのだが、心を鷲掴みにする。
「貴樹くんはこの先も大丈夫だと思う、絶対」
第1話で完結しても満足な作品。一人でこっそり鑑賞したい照れくささ。
第2話「コスモナウト」
やがて貴樹も中学の半ばで東京から引越し、遠く離れた鹿児島の離島で高校生生活を送っていた。同級生の花苗は、ほかの人とはどこか違う貴樹をずっと想い続けていたが…。
◇
貴樹の転校先は鹿児島の種子島。彼の不思議な雰囲気に惹かれていた花苗は、中学からずっと想い続ける。
卒業したら東京の大学に行ってしまう貴樹に、どうにか告白しようと勇気を奮う花苗の、ドキドキする緊張感が何ともいえず、これも甘酸っぱい。
種子島とくればサーフィンとロケット打ち上げということで、本作にはどちらも織り込まれている。ロケット用の器材は、時速5キロで運搬されていく。
◇
二人で仲良く原チャリで下校する途中、いつも立ち寄るコンビニで買うコーヒー牛乳。いつも遠くから彼を見つめ続けている花苗に貴樹は優しく接するが、彼の目は、いつももっともっと遠くを見ている。第1話に比べると、花苗の悲恋が胸に刺さる。
第3話「秒速5センチメートル」
社会人になり、東京でSEとして働く貴樹。付き合った女性とも心を通わせることができず別れてしまい、やがて会社も辞めてしまう。季節がめぐり春が訪れると、貴樹は道端である女性に気づく。
◇
時は経ち、貴樹は社会人になっている。牛馬のように働いて終わるだけの毎日で、心は乾いていく。
「1000回メールして心は1センチぐらいしか近づけませんでした」
何年かつきあった彼女から、別れのメールが届く。
西新宿の小田急線の踏切で、貴樹はある女性とすれ違う。それは結婚を間近に控えた明里だった。二人はともに何かを感じ、踏切をわたったところで振り返る。だが、その瞬間、二人の間を小田急線が通過する。
第3話はそれだけのドラマだ。第1話から繋がっているようで、ここではニアミスを起こした運命の人との再会すらできていない。
ラストになって、初めてタイトルが登場し、山崎まさよしの歌が始まる。曲と映像のどちらが先にあったのかと思ってしまうほど、両者は美しく融合している。
冷静に考えると、現実の厳しさを感じる3話構成なのだが、この歌のおかげで、なぜか心が洗われたようになる。