『仕掛人藤枝梅安』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『仕掛人 藤枝梅安』考察とネタバレ|池波先生、梅安が令和に帰ってました

『仕掛人・藤枝梅安1』
『仕掛人・藤枝梅安2』

スポンサーリンク

『仕掛人・藤枝梅安』

池波正太郎生誕100年で戻ってきたぞ仕掛人・藤枝梅安。まずは二部作の第一作。演じるは豊川悦司。

公開:2023 年  時間:134分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督:         河毛俊作
脚本:         大森寿美男
原作:         池波正太郎
         『仕掛人・藤枝梅安』

キャスト
藤枝梅安:       豊川悦司
彦次郎:        片岡愛之助
おみの:        天海祐希
嶋田大学:       板尾創路
善四郎:        田山涼成
おもん:        菅野美穂
おせき:        高畑淳子
羽沢の嘉兵衛:     柳葉敏郎
田中屋久兵衛:     大鷹明良
津山悦堂:       小林薫
与助:         小野了
石川友五郎:      早乙女太一
お千絵:        井上小百合
善達和尚:       若林豪
浮羽の為吉:      六角精児
伊藤彦八郎:      石丸謙二郎
お香:         中村ゆり

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

ポイント

  • 令和の時代に梅安の新作が観られるとは思わなかった。大の時代劇ファンということはないのだが、けして嫌いではなく、つい足を運んでしまう。
  • トヨエツの梅安もなかなか悪くない。片岡愛之助とのバディ感も想像よりいい感じ。思った以上にしっかりしている令和基準の時代劇。続編に期待。

あらすじ

江戸の郊外、品川台町に住む鍼医者の藤枝梅安(豊川悦司)には、腕の良い医者という表の顔と、生かしておいてはならない者たちを闇に葬る冷酷な仕掛人という裏の顔があった。

そんな梅安がある日、料理屋を訪ね、仕掛の標的・女将のおみの(天海祐希)の顔を見た瞬間、思わず息をのむ。その対面は、梅安自身の暗い身の上を思い出させるものだった。

レビュー(まずはネタバレなし)

帰ってきた藤枝梅安

2023年は池波正太郎生誕100年にあたり、その企画として『鬼平犯科帳』『剣客商売』と並ぶ池波の代表作『仕掛人・梅安』が二部作で映画化されることとなった。主演は豊川悦司

それにしても、梅安とは懐かしい。笹沢左保『木枯し紋次郎』から始まり、池波正太郎『必殺仕掛人』そして『必殺仕事人』シリーズへと、昔はテレビ時代劇を良く観たものだが、すっかり縁が切れている。

勧善懲悪の時代劇は令和の現代にはどうなっているのか観たくなって、劇場に足を運んだ。そもそも、時代劇をスクリーンで観るのなんて、いつ以来だろう。

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

品川台町に暮らす主人公の藤枝梅安(豊川悦司)にはふたつの顔がある。腕の良い鍼医者の 表の顔と、つると呼ばれる裏稼業の元締から金をもらって、生かしてはおけない悪党を闇に葬る冷酷な<仕掛人>の裏の顔。

昨今のドラマには当たり前のようになった複雑なストーリー構成や伏線回収、あっと驚くどんでん返しがある訳でもないが、単純明快に進む時代劇の分かりやすさが、妙に頭を悩ませずに芝居に没頭できて案外心地よい。

とはいえ、そこは大森寿美男の脚本、おこり>と呼ばれる依頼人の恨みを金で晴らすだけの芸のない展開では勿論ない。

今回、監督の河毛俊作が主演にと声をかけたのは豊川悦司。フジテレビで長年ドラマを作ってきた河毛俊作監督とは、『さよならをもう一度』(1992、石田純一主演)、『この愛に生きて』(1994、安田成美主演)で組んでいる。

トヨエツの梅安

トヨエツの大柄の体躯は原作のイメージに近い。

歴代梅安を演じた役者といえば、個人的には『必殺仕掛人』緒形拳の印象が強いが、その他映画では田宮二郎萬屋錦之介、テレビでは小林桂樹渡辺謙、近年では岸谷五朗と錚々たる面々が演じている。

前任者と同じようなキャラクターではつまらないと思ったわけではないだろうが、豊川悦司が演じる、何を考えているか分からない寡黙な坊主頭の大男が、粋な渋い衣装で江戸の町を歩いている姿は個性的であり、絵になっている。

豊川悦司は過去に『八つ墓村』(1996、市川崑監督)で金田一耕助もやっており、先達たちが演じた有名キャラを自分なりにアレンジするのが得意なのかもしれない。

今週は思いがけず二度もスクリーンでトヨエツに出会うこととなった。彼は現在公開中の『そして僕は途方に暮れる』(三浦大輔監督)にも登場し、破天荒な父親役で主役を食う怪演を見せており、その演技の振れ幅に圧倒される。

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

愛之助の彦さん

本作で梅安に負けない存在感をみせたのが、表向きは楊枝職人で同じ仕掛人稼業を営む彦次郎(片岡愛之助)

必殺仕事人と違い、徒党を組んで仕事を請け負うわけではないが、なぜか二人は親しく、気心を許しあっている。梅安の鍼に対して、彦次郎は毒のついた楊枝を吹き矢のように使い、獲物を仕留める。

梅安の風貌と体躯には時代を超越したモダンな雰囲気もあるため、歌舞伎役者の片岡愛之助が江戸時代を感じさせる立ち振る舞いをみせてくれるのは、とても安心感がある。

現代ドラマで彼がよく見せるおふざけの演出もなく、梅安との血に汚れた日陰者同士のバディ感を見せてくれるのは、実に嬉しい。彦次郎は今回の儲け役だったと思う。

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

その他キャスティング

簡単に物語のさわりを紹介すると、<蔓>と呼ばれる裏稼業の元締・羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)から、梅安は料理屋万七の内儀おみの(天海祐希)の仕掛を依頼される。

三年前、万七の主人・善四郎(田山涼成)の前妻を仕掛けたのは他ならぬ梅安だった。梅安は、万七の女中おもん(菅野美穂)と深い仲になり、店の内情を聞き出し、おみのの本性を探る。

一方、彦次郎は<蔓>の田中屋久兵衛(大鷹明良)から、大工の裏で悪さをする浮羽の為吉(六角精児)の仕掛を依頼される。

別々に走っていた二つの仕事は、おみのの過去と繋がりを持っていたことが分かる。彼女は、かつて彦次郎が盗賊一味に属していたときの、頭領の娘だった。一方、梅安にとって彼女は…。

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

普段現代ドラマで見慣れている柳葉敏郎六角精児といった面々も、ここでは普段見せない時代劇の顔を見せてくれる。

天海祐希も時代劇は珍しい気がしたが、必殺シリーズの完結作『必殺! 三味線屋・勇次』(1999、主演は中条きよし参議院議員)では町娘役で出演。菅野美穂の時代劇といえば、ご主人・堺雅人と出会ったフジテレビのドラマ『大奥』を思い出す。

独り暮らしの梅安の世話を見ている女中のおせき高畑淳子が演じているのだが、彼女は数少ないコメディリリーフで、なかなか面白い。『必殺』でいえば、中村主水をいじる菅井きんみたいなポジションだろうか。

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

令和の世の時代劇とは

かつて慣れ親しんだ時代劇に比べると、デジタル時代の今日の映像はとても明るくクリアだ。やはり、昔の荒い画質の雰囲気が恋しいという、刑事ドラマなどでもつい思ってしまうノスタルジックな感想はこの際忘れよう。

江戸の町が実際こんなに綺麗だったのかは知らないが、品川台町からみえる江戸の湾岸や富士山の情景など、なかなか見応えのあるショットも少なくない。

また、役者の顔がギリギリ分かるくらい(それも半分は影になっている)の照明を抑えたカットも数多く、時代劇に対する作り手のこだわりが感じられた。

仕掛人というと、つい殺人シーンでのサウンドエフェクトや威勢のいいテーマ音楽が思い浮かぶが、安易な活劇路線に走らず、抑制の効いた仕上がりになっているのも好感。

鍼を刺すには免許がいるので、実際そのシーンはCG併用だそうだが、鍼は長くシャーペンの芯のような細さで、確かに本物なら曲がってしまうだろう。

豊川悦司、悪をブスリ!仕掛人・藤枝梅安に。池波正太郎生誕100年/映画『仕掛人・藤枝梅安』予告編(60秒)

もうちょっと大人向けでもいい

一方で、悪代官のような嶋田大学(板尾創路)、或いは冒頭で江戸の海の中で大入道に刺殺される石丸謙二郎など、女中や町娘を手籠めにする好色な男どもが何人かでてくるのだが、その襲い掛かるシーンは随分とお行儀がよく、肌の露出はほとんどないといっていい。

コンプラ重視はよいが、昔の東映・松竹の露出度を思えば、ここはちょっと物足りない。せめて、殺されても仕方ないなと思わせるくらいの悪徳卑劣ぶりが見たかった気はする。

時代劇の火を絶やさぬよう、このような作品はコンスタントに撮り続けてもらいたいものだ。スタッフのノウハウも継承されなくなってしまってはいけない。

スポンサーリンク

ネタバレではないが一点だけ。エンドロールに出てくる俳優にひとりだけ、あれ、見落としたかなと思う人物の名前が出てくる。

気になっているとエンドロール後におまけのエピソードが続く。これはおそらく続編の導入部分だろうが、そこにこの俳優が登場して、モヤモヤが晴れる。

私の観た回では、このラストまで粘り強く残っていたのは、私ともう一人の若者だけだった。なんと勿体ない。みんな最後まで余韻を楽しもうよ。

映画『仕掛人・藤枝梅安㊀㊁』 特報映像

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

万七の前妻殺しの依頼人はおみのなのか。殺しの起り、つまり依頼人の身元を探るのは、仕掛人の掟に反すると知りながら、梅安は三年前のいきさつをギバちゃんに尋ねる。

おみのは、彦次郎のかつての盗賊仲間で彼が殺めた頭領の娘、そして梅安が子供時分に生き別れた妹でもあった。彼は、仕掛の依頼を引き受けた手前、掟通りにこの妹を仕掛けなければいけない。

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

「梅安さん、それはまずいんじゃないの?」
「彦さんは優しいねえ」

大昔に別れて自分のことを覚えてくれていないとはいえ、愛していた妹に手をかけられるか。梅安の葛藤。更に、依頼仕事とはいえ、知らずに悪人ではない万七の前妻を仕掛けてしまった梅安の悔恨

仕掛人とは単にスキルを活かして荒稼ぎする副業ではなく、お天道さまに顔向けできない、因果な商売なのだと改めて思う。梅安と彦次郎が二人とも、おみのと知己があるのは偶然性が過ぎる気はしたが、ここは目をつぶろう。

若き剣術使い石川友五郎(早乙女太一)お千絵(井上小百合)のエピソードも本筋にうまく絡んでいない気はしたが、でも仕掛人が剣術をやらない分、早乙女太一と殺陣の斬り合いが堪能できたことは嬉しい。

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

乃木坂46井上小百合や、朝倉ふゆな吉田美佳子といった舞台『フラガール』の出演メンバーたちが若い娘役で多数登場しているのも、目当てのファンには嬉しいところか。

「人は善いことをしながら悪いことをする。悪いことをしながら、良いことをする」

梅安は、4月に控えた第二作で、違った一面を見せるのか。今から楽しみだ。