『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』
Black Panther: Wakanda Forever
天国のチャドウィック・ボーズマンに届け、残された者たちの気高き戦いの勇姿よ。
公開:2022 年 時間:161分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ライアン・クーグラー キャスト シュリ: レティーシャ・ライト ナキア: ルピタ・ニョンゴ オコエ: ダナイ・グリラ エヴェレット・ロス: マーティン・フリーマン ラモンダ: アンジェラ・バセット エムバク: ウィンストン・デューク リリ・ウィリアムズ: ドミニク・ソーン アヨ: フローレンス・カサンバ アネカ: ミカエラ・コール ネイモア: テノッチ・ウエルタ アレグラ・デ・フォンテーヌ: ジュリア・ルイス=ドレイファス
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
国王ティ・チャラを失い、悲しみに包まれるワカンダ。先代の王ティ・チャカの妻であり、ティ・チャラの母でもあるラモンダ(アンジェラ・バセット)が玉座に座り、悲しみを乗り越えて新たな一歩を踏み出そうとしていた。
ティ・チャラの妹でワカンダの技術開発の責任者でもあるシュリ(レティーシャ・ライト)、親衛隊ドーラ・ミラージュたちは、ワカンダを大国の介入から守るため戦うことを余儀なくされる。
そして、大国との関係に苦戦する面々の前に海底国家の王ネイモア(テノッチ・ウエルタ)が現れる。
レビュー(まずはネタバレなし)
チャドウィック・ボーズマンに捧ぐ
前作『ブラックパンサー』(2018)は、MCUの数ある作品の中で初めて、黒人の監督が黒人の俳優を単独の主人公に起用した作品として注目された。
更には、古典的な部族間の軋轢とハイテクのアクションを融合させたユニークな取り組みなどが評価されたか、ヒーロー映画として初となるアカデミー作品賞ノミネートを果たした。
◇
主役のブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンは、同作でブレイクし、まさにこれからの活躍が期待された俳優だっただけに、その後にガンに冒されていることが公表されたときはショックを受けた。
『21ブリッジ』、『ザ・ファイブ・ブラッズ』、『マ・レイニーのブラックボトム』と、MCU作品以外にも精力的に出演を続けるも、やはり彼の代表作は『ブラックパンサー』しか、考えられない。
豹は死して皮を残し、役者は死して作品を残す。タイトルが似ているからというわけではないが、松田優作がかつて亡くなる間際に『ブラックレイン』を遺したように、チャドウィック・ボーズマンは『ブラックパンサー』を遺してくれた。
誰が二代目をやるのか
前置きが長くなった。本作はその続編だ。ライアン・クーグラー監督は主演俳優を失ったあと、一体どう対処するのか私も注目していたが、結論はティ・チャラ役をリキャストしないことだった。これは賢明な措置だろう。
MCUでは過去にハルク役をエドワード・ノートンからマーク・ラファロに変更した例もあるが、ノートンの出演は『インクレディブル・ハルク』のみで、MCUでの興行成績も最低だった。
それに対し、ブラックパンサーは既に『シビル・ウォー』、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、『アベンジャーズ/エンドゲーム』とメガヒット作にレギュラー選手として出場している。突然に別の俳優にすげ替えられていれば違和感は小さくない。
では、ティ・チャラが死んだままなら、誰がブラックパンサーを継ぐのだろう。ティ・チャラの妹で天才科学者・発明家のシュリ(レティーシャ・ライト)。血縁者だからこれはあり得る。
国王親衛隊ドーラ・ミラージュの隊長オコエ(ダナイ・グリラ)。キャラも腕っぷしも強いし、バトルアクション重視なら、これもありだ。
そして、ティ・チャラの幼馴染みで元恋人だったナキア(ルピタ・ニョンゴ)。彼女もドーラ・ミラージュ出身のスパイであり、候補者たりえる。
◇
というわけで、誰が受け継いでも、二代目ブラックパンサーは女性ということになるなあと思いながら観に行ったが、まあポスターを見れば答えは分かる。
ブラックパンサーの造形デザインとポージングは戦隊ヒーローっぽいと以前から思っていたが、女性が主人公なら、色がピンクかイエローになってしまいそうで、気になる。だってピンクパンサーじゃ、ねえ?
今度の敵はカッパの軍団
本作は冒頭でティ・チャラの国葬が執り行われる。ワカンダでは死は魂が自然に帰るものとして明るく受けとめられるのか、パレードのような葬列だ。壁画になっているチャドウィック・ボーズマンが泣かせる。
国王の死で、世界の列強国はワカンダからヴィブラニウムを輸入しようと、虎視眈々と狙っている。だが、女王に即位したティ・チャラの母・ラモンダ(アンジェラ・バセット)は、強気に鎖国方針を貫く。この辺の政治的なかけひきは導入部分としては面白い。
さて、今回の敵は、ワカンダを攻撃してくるどこかの国なのかと思っていると、暗い海の中から不思議な連中が現れる。これが、海の王国タロカンの戦士たちだ。
彼らはムチャクチャ強い。天下無双の強さのオコエ隊長でさえも、やられそうになってしまうほどの強さ。
ただ、その風貌は映画的には少々盛り上がりに欠けるのだ。どうやらこの種族は普通に人間ではないらしく、一種のミュータントで海中で生活している。
◇
彼らは皮膚が薄青いのだが、『X-MEN』のミスティークのように優雅な感じはあまりなく、おまけに集団で登場するので、どうしても河童の群れに見えてしまう。
この連中が酸素マスクのようなもの(翻訳機?)を付けている姿は、あまりMCU的な洗練さを感じさせない。クジラの背中にみんなで乗って移動するもの、なんかマヌケにみえないか?
羽根の生えた足と、鉄のハート
タロカンの連中は、海中の彼らの国をヴィブラニウム探知器でみつけようとした米国政府と、その探知器を開発した科学者を始末しようと動き出す。
彼らの技術力と戦闘力は目を瞠るレベルだが、中でも、特殊音波による催眠術で、ターゲットを次々に自殺させてしまう攻撃が凄まじく怖い。その音を聴いた者は、すぐに船の甲板や崖の上から、身を投げて死んでしまうのだ。
『マトリックス レザレクションズ』の連続人間爆弾攻撃を思わせる。身を守るには耳栓するのがいいらしい。
◇
詳細は割愛するが、この海の王国タロカンの王、羽根の生えた両足で空さえ飛べるククルカン(羽を持つ蛇の神)ことネイモア(テノッチ・ウエルタ、渋川清彦かと思った)が今回のヴィラン。
両足にある小さな羽根で空を舞うのはさすがに荒唐無稽に見えるが、とりあえず強い。そのネイモアが、ワカンダに対し、手を組んで先進国を先制攻撃しないかと持ち掛ける。
一方、ワカンダでは、シュリたちが旧知のCIA捜査官エヴェレット・ロス(マーティン・フリーマン)の情報で、ヴィブラニウム探知器の発明者をつきとめる。
それはリリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)という女子大生。宿題請負のバイトのつもりでヴィブラニウム探知機をこしらえたり、アイアンマンスーツ並みの機能のアイアンハートを開発したりと、天才科学者ぶりを発揮。
リリの作った探知機がきっかけとなって、ネイモアは、人間たちに攻撃される前に先手を打とうと考える。共闘を持ち掛けられたシュリ、それを拒否すれば、まずはタロカンとワカンダが、全面戦争に突入することになる。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
他作品とのクロスオーバー
この作品の感心するところは、冒頭のマーベルのアイキャッチから、エンドロールまで徹頭徹尾チャドウィック・ボーズマンに敬意と追悼の意を捧げているところだろう。
だから、二代目ブラックパンサーも、二代目アイアンマンになるのか分からないアイアンハートも、アクションシーンには好戦的な雰囲気を極力ださず、苦悩しながら戦わせている。ケンカ大好きキャラは、ジャバリ族のエムバク(ウィンストン・デューク)くらいだろうか。
それにしても、女性を集結させたヒーローもの(プリキュア的な)という訳ではないのに、本作では結果的にワカンダ側の主力部隊は基本的に女性戦士のみというのは興味深い。
タイトル通りワカンダ王国の行く末がメインの物語であり、MCUの他のヒーローたちとのクロスオーバーも全くないところは好判断。
生身の人間ではあるが、エヴェレット・ロス(マーティン・フリーマン)と、どうやら前妻らしいCIA上司のヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)は、他作品との繋がりが多少はある。
フォーエバー21ブリッジ
MCUの得意とするド派手な戦闘アクションを期待すると、ちょっと物足りない気はする。そもそも、敵側でキャラがたっているのはネイモアだけなので、団体戦としての盛り上がりはちょっと弱い。
このネイモアも、見かけはさほど強そうにもみえず、サウナ熱風攻撃で水分を奪われ弱ってしまうようじゃ、やはり見た目どおり河童と大差ないのかもしれない。ネイモアが攻撃をしかける動機も、ちょっと無理やり感が否めない。
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タイトルでもある「ワカンダ・フォーエバー!」は、シュリが終盤大事な場面で唱える台詞であり、また国民がみんなで唱和するシーンもあるのだが、これ、なんで英語にしたのだろうか? これまでも、なぞの現地語でいろいろ喋っていたのだから、ここだけ英語にしたら、かえって浮いてしまう気がした。
◇
そしてラストシーン。兄の葬儀に着た喪服を燃やしたシュリが、兄の恋人ナキアと語らうシーンは、サプライズも含めてなかなか感動的だ。天国のチャドウィック・ボーズマンにも、本作は届いただろうか。
エンドロール後に余計なおまけがなかったことで、余韻に浸れたのも良かったかな。