『ノイズ』
廣木隆一監督が藤原竜也・松山ケンイチ・神木隆之介ほか豪華キャストで贈る、孤島で起きた殺人の隠蔽騒動。
公開:2022 年 時間:128分
製作国:日本
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
時代に取り残され過疎化に苦しむ孤島・猪狩島。島の青年・泉圭太(藤原竜也)が生産を始めた黒イチジクが高く評価されたことで、島には地方創生推進特別交付金5億円の支給がほぼ決まり、島民たちに希望の兆しが見えていた。
しかし、小御坂睦雄(渡辺大知)という男の登場によって、島の平和な日常が一変する。
小御坂の不審な言動に違和感を覚えた圭太と幼なじみの猟師・田辺純(松山ケンイチ)、新米警察官の守屋真一郎(神木隆之介)の三人は小御坂を追い詰めていくが、圭太の娘・里奈(飯島莉央)の失踪を機に誤って小御坂を殺してしまう。
三人はこの殺人を隠すことを決意するが、実は小御坂は元受刑者のサイコキラーであり、小御坂の足取りを追って警察がやってきたことで、静かな島は騒然とする。
レビュー(まずはネタバレなし)
静かな孤島にノイズ混入
筒井哲也による原作コミック『ノイズ【noise】』を、廣木隆一監督が実写映画化。原作未読ゆえ、あくまで映画を観たうえで感じたことを書かせていただく。
孤島でおきた不慮の事故死を、島民の生活のために隠蔽しようと決意した三人の青年。そこから、負の連鎖が次々と広がっていき、もはや後戻りはできなくなっていく。
逃げ場のない孤島で、どうやってこの死体を隠しとおすか、共犯者三人と警察との緊迫した戦いを描いた作品。
◇
愛知県知多半島に近い過疎化した孤島の猪狩島に、保護司(諏訪太朗)に連れられたサイコパスのような男・小御坂睦雄(渡辺大知)がやってくる。
映画開始からものの数分で保護司を絞殺し、その足で島の居住区へと向かう。早くも平和な村への異物(ノイズ)の混入感が漂う。
『ここは退屈迎えに来て』(2018)以来の廣木作品出演か渡辺大知。『ギャングース』(入江悠監督)でも驚いたが、彼の演技は変化の幅が広い。本作でのサイコっぷりも好感。
かさぶたになれ
一方、この島には、黒イチジクを特産物にして島を復興させようとしている島の青年・泉圭太(藤原竜也)がいる。いわば村の救世主だ。
彼の幼い娘・里奈(飯島莉央)が失踪し、状況証拠から小御坂が怪しいと睨んだ圭太は、幼馴染の猟師・田辺純(松山ケンイチ)、そして警察の駐在となって島に戻ってきたばかりの守屋真一郎(神木隆之介)と捜索を開始する。
だが、追い詰められて逆上した小御坂は圭太と揉み合ううちに、転倒して頭を打ち、死んでしまう。そして、その場に居合わせたのは、純と真一郎。
正当防衛とはいえ、今、圭太が逮捕されれば、内定している地方創生推進特別交付金5億円の支給が、取消になる。どうすればよい。
真一郎の脳裏に、前任の駐在署員・岡崎(寺島進)の言葉がよぎる。
「駐在は島の人びとのかさぶたになれ(損傷を塞げ、的な意味)」
隠蔽しようという真一郎の一言は、かさぶたどころか、更に傷を広げていくことになる。
犯人探しせずに観るのじゃダメ?
廣木隆一監督、2022年は本作に始まり『夕方のおともだち』、そして年内公開予定作に『月の満ち欠け』『あちらにいる鬼』と、コロナ影響で公開スケジュールに大きな影響があったからとはいえ、ハイペースで作品を撮り続けている売れっ子監督である。
ただ、本作のような殺人がらみの本格サスペンスは、あまり過去作で観た記憶がない。そのせいもあるのか、いわゆる一般的な犯罪捜査ものの映画として観ると、正直嘘くさい、というかチャチな演出は多い。
◇
そもそも隠蔽しようという決断についても、誰も小御坂を探しにこんな島にこないという根拠なき期待によるもので、ロジックは弱い。
実際、殺された保護司が圭太の農園に小御坂の就職を依頼しようと訪ねてきたことは、愛知県警の畠山(永瀬正敏)と青木(伊藤歩)によって、すぐに発覚する。
その後に、隠蔽工作を取り繕った結果、更に死体が増えていくことになり、県警は捜査本部を立ち上げる。そこまではよいが、大勢の捜査員が島を動き回っている割には、警察側でキャラが立っているのは畠山と青木の男女刑事コンビだけ。あとは書き割りのような味気無さで、ろくに台詞もない。
作り手は、本作を真犯人探しのミステリー仕立てにしたかったのだろうか。例えば、公式サイトの以下の惹句。
島中がパニックに陥った先に待ち受ける、驚愕のあまり観る者も正気を失うラストとは!?
公式サイトより引用
このエンディングを理解することができるか
そりゃ興行的にはこれで動員を煽りたいのだろうが、さすがに盛りすぎだろう。JAROに指導されるレベル。このコピーに釣られて観ると落胆必至だと思う。
だが、逆に言えば、真犯人など気にせず、普通に事件巻き込まれ型の一般市民の悲喜劇だと思って観れば、結構面白い。雄大な島の景観のもと、くねくねした田舎道を右往左往する島民たちをワンシーンワンカットの遠景でとらえる廣木隆一監督のスタイルも、観ていて心地よい。
キャスティングの豪華さ
本作で一番の売りは、豪華な出演者陣の顔ぶれだろう。主演の三人だけでなく、その周辺を含めても、いずれ劣らぬ面々が揃っており、単独で主演映画が張れる俳優が何人いることか。〇〇以来の共演というパターンが随所にみられるのも楽しい。
◇
まずは主演の二人。泉圭太を演じる藤原竜也とその親友・田辺純の松山ケンイチといえば、懐かしき『デスノート』(金子修介監督)の夜神月とLという宿命のライバル。共演は『デスノート the Last name』(2006)以来実に15年ぶりというから、この顔合わせだけで盛り上がる。
そしてそこに加わる新米警察官の守屋真一郎に神木隆之介。藤原竜也との共演でいえば『るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編』(大友啓史監督)の志々雄と瀬田宗次郎の二人だ。
一方、松ケンとの共演となると、大河ドラマ『平清盛』の主人公清盛を松山ケンイチ、源義経を神木隆之介が演じていた。また、共演ではないけれど、松ケンは『聖の青春』(森義隆監督)、神木クンは『3月のライオン』(大友啓史監督)で、ともに天才棋士を演じていたのを思い出す。
ノイズと言う意味では、最初に殺される小御坂睦雄(渡辺大知)と同じように、海を渡ってやってくる県警の刑事たちもまたノイズである。
その筆頭格が永瀬正敏演じる畠山刑事。終始無愛想な顔でガムを噛み続け、島民たちの嘘を見抜こうとしている。ステレオタイプな一匹狼刑事の様相に笑ってしまうが、なかなか推理は鋭く、ひさびさに永瀬正敏がまともな社会人(それも警察官)を演じているのは意外だ。
彼の部下でいつもともに行動している女刑事の青木千尋に伊藤歩。今回、常に先輩と一緒であまり目立った行動が取れなかったのは残念。圭太の妻・泉加奈役に黒木華がおり、一方に伊藤歩とくると、つい岩井俊二の世界をイメージしてしまう。
その他、島民には町長の庄司に余貴美子、そして長老の横田老人に柄本明、町医者に大石吾朗など、こちらも重厚な布陣。島の宴席で神木隆之介の隣に座る鶴田真由は、姉さん女房なのかと思いきや、母親役だった。う~ん、まだ、そうは見えない。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
そして死体は増えてゆく
さて、事件の展開および捜査の進展については、ここでは割愛させていただく。
小御坂の死体遺棄を巡って悩んでいるうちに警察の捜査が進み、さらに、隠蔽の件が横田老人を通じて町長にもバレる。ここで内紛が始まり、ついには町長のスタンガンで横田が死に、また町長も純にスコップで撲殺される。こうして死体は増えていく。
あとは、この死体を使って、警察に小御坂が町長を殺して本土に逃げたと思わせるよう工作すればいい。圭太の策略に畠山がどう対処するか。
◇
本作は結局、本部に嘘をつき通せないと弱音を吐く真一郎を気遣い、死体を獣用の冷蔵庫から移動させたことを純が伝えなかったことから、かえって悪い結果を招く。
かさぶたになろうとした真一郎は、駐在所ですべての罪を背負い自供ビデオとともに自殺してしまう。
その後、謎のSNSが死んでいる町長の携帯から発信され、その告発通り、圭太の農園から小御坂の遺体がみつかる。万事休す。圭太は自首を選び、残された家族の面倒を純がみる。
驚愕できないラストに悶絶
ここからが<驚愕のラスト>ということなので、未見のかたはお気を付けいただきたい。
この謎のSNSを拡散させたのは誰だったか。中学時代から思いを寄せていた加奈は圭太に嫁ぎ、島の救世主になっている圭太に比べ、害獣駆除しかできない自分に劣等感を抱く純こそが、その犯人だった。この事故死をきっかけに、圭太に隠蔽罪をなすりつけ、あわよくば加奈と自分に懐いている娘を手中に収めようとしていたのだ。
純の不可解な行動が回想シーンで登場する。なるほど、理屈は通るかもしれない。だが、納得感はない。これを驚愕のラストとは認めたくない。
刑務所で圭太と面会する加奈。彼女もまた、こんな島は出たいと前から圭太に訴えていた。圭太だけが、島の将来のためといって、家族や友人の思いをノイズ扱いして、黒イチジク作りに夢中になっていた。娘の描いた絵日記は、次の構成になっている。
- 朝起きたらひまわりが咲いてました。
- みんなで遊園地に行きました。(圭太、加奈、恵里奈、純)
- とても暑かったのでアイスクリームを食べました。とても楽しかったです。
三枚目は映像が示されず、圭太だけが見ている。彼は何かを悟ったようにむせび泣く。
◇
ここには解釈の余地がありそうだが、島にはない遊園地に思いを馳せる娘から、島の生活は自分の独りよがりだと気づいたのか、或いは、三枚目にはすでに自分が書かれていないことに傷ついたのか。
いずれにしても、この構成ならば三枚目を写さないことに明白な意味がなければならない。見ようによっては、何やらメッセージが書かれているようにも見える。だが、それが分からないのは、もどかしすぎる。
原作にはないアレンジのようだが、正解あるのか、これ。