『マリッジ・ストーリー』
Marriage Story
子供の親権をめぐる法廷ドラマ。当事者夫婦の葛藤をよそに、弱肉強食の弁護士同士の代理戦争が熾烈。静かに苦悩し涙するアダム・ドライバーに新鮮な魅力。弁護士先生たちは、どう転んでも高い報酬取るんだろうなあ。
公開:2019 年 時間:136分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ノア・バームバック
キャスト
ニコール: スカーレット・ヨハンソン
チャーリー: アダム・ドライバー
ノラ・ファンショー: ローラ・ダーン
ジェイ・マロッタ: レイ・リオッタ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
女優のニコール(スカーレット・ヨハンソン)と夫で舞台演出家のチャーリー(アダム・ドライバー)は、結婚生活がうまくいかなくなっている。
円満な協議離婚を望んでいた二人だったが、それまで溜め込んでいた積年の怒りがあらわになり、弁護士をたてて争うことになってしまう。
レビュー(ネタバレあり)
冒頭から、夫婦が互いの美点を並べ立て、それぞれを褒め合うナレーションが続く。幼い少年を夫婦が囲んだ、理想的ともいえる仲の良い家庭。仲睦まじい。
だが、次のシーンでは、その語りは離婚調停員の提案により、それぞれが長所を書いた紙を朗読させられていたものと知る。なんという暗転。
この手紙の展開はとても効果的だ。かつての仲睦まじい日々とその後の夫婦のすれ違いが、コンパクトに表現されている。
劇団の主宰として売り出し中の夫チャーリー、多少映画で名を売っただけの女優の妻・ニコール。子供の親権を巡って争う二人は、はじめは話し合いで決着するはずが、次第にエスカレートしてくる。
ニコールの姉も母も、なぜかチャーリーの味方なのが面白い。
◇
だが、妻・ニコールについた女弁護士ノラ・ファンショー(ローラ・ダーン)が実にやり手で、裁判は彼女のペースで進んでいく。彼女は本作でアカデミー賞助演女優賞を獲得している。圧巻の存在感だ。
この剛腕な女性はどこかで見覚えがあると思っていたが、『スターウォーズ 最後のジェダイ』で反乱軍を率いて、母船に一人残った女艦長だった。カイロ・レンには負ける気がしない、といったところだろう。
◇
夫・チャーリーは当初雇った人権派弁護士をあきらめ、やり手の弁護士ジェイ・マロッタ(レイ・リオッタ)を雇う。だが、結局さしたる反撃もできない(役名、安易に付けたっぽいね)。
レイ・リオッタは好きなんだけど、ちょっと今回は不甲斐ない感じの結果になってしまったのは残念。まあ、本作は、法廷の逆転劇がメインではないから、これでもよいのか。
そして、元夫婦は互いの弱い部分を噛みつき合い、本音でぶつかり、泣き叫ぶ。そこには互いへの愛情も残ってはいるが、判決は下る。
ノア・バームバック監督は『イカとクジラ』が代表作か。彼の作品、『フランシス・ハ』でも『マイヤーウィッツ家の人々 (改訂版)』でも、アダム・ドライバーがチョイ役で出てくる。どちらもあまり人間味が感じられない役だったと記憶するが、本作では人間的な弱さが良く出ており、彼の魅力が引き出されていた。
スカーレット・ヨハンソンは、一連のMCU作品の影響で、どうしても好戦的な女性にみえてしまう。
◇
本作は21世紀版『クレイマー、クレイマー』とも言われているようだが、最近観た映画でいうと(どちらも邦画だけど)、例えば演劇に生きる男と女優の妻の関係は『劇場』のようでもあり、親権をめぐる争いは『his』を思い出させる。
ニコールとチャーリー(実際には双方の弁護士)は勝負がつくまで法廷で徹底的に攻撃しあうが、『his』も含め邦画では、相手を想って攻撃をためらうのが、ありがちな展開に思える。国民性の違いだろうか。
数年後彼女は再婚している。夫も演劇の仕事は順調であり、悲壮感はない。弁護士の格好の餌食になっただけの話のようだ。
最後には二人は復縁するものと、安易に思っていた。互いをこんなに理解しあっていても、夫婦はときに離婚を選ぶのなのだ。