『キングスマン ファースト・エージェント』
The King’s Man
キングスマン3作目となる本作は、レイフ・ファインズ主演で組織の設立に至るまでの誕生秘話を描く。
公開:2021 年 時間:131分
製作国:イギリス
スタッフ 監督: マシュー・ヴォーン 脚本: カール・ガイダシェク 原作: マーク・ミラー デイヴ・ギボンズ キャスト オーランド・オックスフォード: レイフ・ファインズ コンラッド・オックスフォード: ハリス・ディキンソン エミリー・オックスフォード: アレクサンドラ・マリア・ララ ポリー・ワトキンズ:ジェマ・アータートン ショーラ: ジャイモン・フンスー ラスプーチン: リス・エヴァンス ジョージ五世: トム・ホランダー(三役) ヴィルヘルム二世: 同上 ニコライ二世: 同上 モートン: マシュー・グード キッチナー: チャールズ・ダンス ハヌッセン: ダニエル・ブリュール マタ・ハリ: ヴァレリー・パフナー プリンツィプ: ジョエル・バズマン レーニン: アウグスト・ディール アーチー・リード: アーロン・テイラー=ジョンソン アメリカ合衆国大使:スタンリー・トゥッチ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
表向きは高級紳士服テーラーだが実は世界最強のスパイ組織という<キングスマン>。国家に属さない秘密結社である彼らの最初の任務は、世界大戦を終わらせることだった。
1914年、世界大戦を裏でひそかに操る闇の組織に対し、英国貴族のオックスフォード公(レイフ・ファインズ)と息子のコンラッド(ハリス・ディキンソン)が立ち向かう。
人類破滅へのカウントダウンが迫るなか、彼らは仲間たちとともに闇の組織を打倒し、戦争を止めるために奔走する。
レビュー(まずはネタバレなし)
ホントにシリーズの最新作なのか
マシュー・ヴォーン監督による『キングスマン』シリーズの三作目は、第1次世界大戦を背景に、世界最強のスパイ組織<キングスマン>誕生の秘話を描く前日譚。
昨年末に世界同時公開で早くもディズニープラスで配信は嬉しいが、このまま続けばディズニー配給作品は映画館に足を運ばなくなりそうで怖い。
原題は一作目が<Kingsman: The Secret Service>、組織の設立を描く三作目が<The King’s Man>。英語圏の人たちは混乱しないのだろうか。
◇
さて本作、個人的には大いに当てが外れたという思いが強い。つまらないとか、面白いとかいう話の前に、これってあの<キングスマン>シリーズなのか、というのが正直な印象だ。
時代も古いし組織設立前だから、これまでコリン・ファースをはじめとするエージェントたちが繰り広げてきた英国紳士が仕込み傘を振り回して戦うアクションや各種最新鋭の技術のガジェットは、まるで出てこない。つまり、あの不謹慎なまでの軽さと残虐さがまざったバトルもなしなのだ。
歴史を紐解きつつスパイ組織を描く
その代わりに、意外なほどに忠実に20世紀初頭からの歴史を描く。史実の中に、スパイアクションが入り込む余地を探したうえでのストーリー。マシュー・ヴォーン監督は、本作をきっかけに、冷戦時代のスパイアクションをシリアスなトーンで描きたかったようだ。
ヒット作の続編に前日譚を持ってくることは珍しくないが、ここまで雰囲気を変えてしまう例はあまり見かけない。違うジャンルといってもいいくらいだ。
キングスマンの最新作が、まさか南アフリカのボーア人との戦争シーンから始まるとは思わなかった。子供の頃に観た戦争映画の傑作『ズール戦争』の記憶がよみがえる。
本作の主役は英国の貴族オーランド・オックスフォード公(レイフ・ファインズ)。戦地で赤十字活動を行っていたが、妻エミリー(アレクサンドラ・マリア・ララ)が敵の凶弾に倒れる。
その後、一人息子のコンラッド(ハリス・ディキンソン)、執事のポリー・ワトキンズ(ジェマ・アータートン)やショーラ(ジャイモン・フンス)とともに国家権力に頼らない諜報網の構築を開始する。これがのちのキングスマンの前身なのだろう。
羊飼いと闇の狂団
本作でのレイフ・ファインズは、『007ノー・タイム・トゥ・ダイ』のボンドの上司役で見せたようなアクション俳優っぽい雰囲気は希薄。どちらかというと、『グランド・ブダペスト・ホテル』のホテル支配人の方が近い。
女執事ポリーのジェマ・アータートンは、『007慰めの報酬』ですぐに殺されてしまったストロベリー・フィールズ役の女優。今回は大活躍でよかった、よかった。
本作での彼らの敵となる組織は世界に混乱を巻き起こそうと企む<闇の狂団>。「羊飼い」を名乗る謎の男が、断崖絶壁の小屋で秘密会議を開き、歴史を揺るがすキーパーソンが集う。
ロシアの怪僧ラスプーチン(リス・エヴァンス)、女スパイのマタ・ハリ(ヴァレリー・パフナー)、テロリストのプリンツィプ(ジョエル・バズマン)、ロシアの革命家レーニン(アウグスト・ディール)、ドイツのニセ預言者ハヌッセン(ダニエル・ブリュール)。
<闇の狂団>のメンバーの証は動物の絵柄入りの指輪。その中には、自決用の青酸カリ。この辺のこだわりはキングスマン・シリーズっぽい。
「羊飼い」のねらいは、従兄弟同士のイギリス国王のジョージ五世、ドイツ皇帝のヴィルヘルム二世、ロシア皇帝のニコライ二世(いずれもトム・ホランダー)を反目させ、戦争を引き起こすこと。
この辺から、気楽にスパイアクション映画を楽しむつもりだった身には、頭を働かせないと咀嚼できない展開になっていく。
何せ、恥ずかしながら世界史に疎い私には、英・独・露の国王が従兄弟同士というのも初耳で(正確には従兄弟が二組のようだが)、しかもご丁寧に全てトム・ホランダーが演じているので、混乱に拍車をかけた。世界史に明るい方には、私よりも本作の面白味がもっと味わえているのだろうなあ。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
次々に殺されていくお馴染みの展開
敵味方が次々に惜しみなく殺されていく展開は、さすがキングスマンの流儀に則っている。
オーランドはオーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナンド大公(ロン・クック)を護衛しきれず殺されてしまう。
仲間で力を合わせてラスプーチンをどうにか始末するが、オーランドの盟友の指揮官・キッチナー(チャールズ・ダンス)も敵の魚雷の餌食になる。ラスプーチン、コサックダンスのような攻撃が結構コミカルで笑えた。リス・エヴァンスだったのは、ちょっと分かりにくかったけど。
19歳を迎えたコンラッドは、父オーランドの反対を押し切り、英国軍に入隊する。自分の勇敢さを、前線での活躍で示そうと考えたこの若者は、父の力で本人に気づかれぬようロンドンに配置転換させてやったというのに、それを下士官アーチー・リード(アーロン・テイラー=ジョンソン)に譲る。
『1917 命をかけた伝令』(サム・メンデス監督)に出てきそうな塹壕だらけの戦場。命がけで撃たれた味方兵士を背負って帰還するコンラッド。
◇
だがアーチーの名を騙って前線に残ったことが仇となり、ドイツのスパイと間違われたコンラッドは、せっかく大手柄をたてたのに、味方に射殺されてしまう。
これは衝撃的だ。そもそも、本作の主人公は彼だと思って見ていたのだから。でも、そういうメインキャラを実にあっさり死なせてしまうのが、一作目からの『キングスマン』のスタイルなのかも。
断崖絶壁のバトルが気に入るかどうか
結局、妻に続いて息子まで失ったオーランドが、悲嘆に暮れて飲んだくれる日々から立ち直り、仲間とともに断崖絶壁のアジトに侵入して<闇の狂団>のリーダー「羊飼い」を倒す。
アクションはけして悪い出来ではないが、<キングスマン>っぽいとはいえず、普通のスパイアクションになってしまった。
◇
最終的にオーランドたちはアメリカを戦争に参加させることに成功し、これが終戦を早めることになる。
だが、ウィルソン大統領(イアン・ケリー)がマタ・ハリのハニートラップで淫行現場を撮られたフィルムを<闇の狂団>に握られ、動きを封じられていたのは、全体バランスからみると、少々ショボいエピソード。
◇
最後はようやくキングスマンの組織が結成され、面々が長テーブルに着席する見慣れた構図が登場。アーサー、ギャラハット、マーリン等、おなじみの呼称が登場する。これで一作目には繋がったけど、どこか物足りない。
エンドロール後には歴史上有名なキャラ登場で、続編を匂わせるが、ホントに撮れるのかは興行成績次第か。