『お嬢さん』
아가씨
サラ・ウォーターズの原作ミステリーをパク・チャヌク監督が韓国に舞台を移し映画化。
公開:2016年 時間:145分
製作国:韓国
スタッフ
監督: パク・チャヌク
原作: サラ・ウォーターズ
『荊の城』
キャスト
和泉秀子(お嬢様): キム・ミニ
スッキ/ 珠子(侍女): キム・テリ
藤原伯爵(詐欺師): ハ・ジョンウ
上月(秀子の後見人): チョ・ジヌン
佐々木夫人(侍女長): キム・ヘスク
秀子の叔母: ムン・ソリ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
1930年代、日本統治下の韓国。スラム街で詐欺グループに育てられた少女スッキ(キム・テリ)は、藤原伯爵と呼ばれる詐欺師(ハ・ジョンウ)から、ある計画を持ちかけられる。
それは、莫大な財産の相続権を持つ令嬢・秀子(キム・ミニ)を誘惑して結婚した後、精神病院に入れて財産を奪い取ろうというものだった。
計画に加担することにしたスッキは、人里離れた土地に建つ屋敷で、日本文化に傾倒した支配的な叔父の上月(チョ・ジヌン)と暮らす秀子のもとで、珠子という名のメイドとして働きはじめる。
しかし、献身的なスッキに秀子が少しずつ心を開くようになり、スッキもまた、だます相手のはずの秀子に心惹かれていく。
今更レビュー(まずはネタバレなし)
原作の舞台替えが奏功
英国のミステリー作家サラ・ウォーターズの『荊の城』の設定を、ヴィクトリア朝から日本統治下の韓国に置きかえて描いたサスペンス。
パク・チャヌクも大胆なことを考えたものだと思ったが、意外とこの設定変更に違和感はない。
最新作『しあわせな選択』も設定を西洋から韓国に移植しているし、考えてみれば『オールドボーイ』だって日本が元ネタだ。この手のアレンジはお手の物なのだろう。
実は公開時に本作を観た時には、まったく受け容れられなかった。
エロティックなミステリーなのは分かるが、メインの韓国人キャストが男女を問わず、日本語でえげつない下ネタ放送禁止用語を臆面もなく言葉にするのが、気に入らなかったのだ。
ところが今回、サラ・ウォーターズの原作を読んでから観賞に臨んだところ、いや、これがよく出来ている。面白いのだ。以前の私は、どこを観ていたのだろう。
勿論、赤面するような台詞は相変わらずで、とても家族で観れるような作品ではないのだが、それを差し引いても、ほど良いエロスとサスペンスの組み合わせが創り出す独特世界は観るに値する。

令嬢を騙して相続資産を詐取
原作も途中から引き込まれるような小説で、長編にも拘わらずスラスラと読めたが、終盤の展開にやや冗長感があるように思えた。
映画も原作と同じ三部構成で、中盤までは概ね原作と同じような展開なのだが、興味深いことに私が原作に不満を感じた<第三部>だけ、大幅に改変して別物仕立てになっている。
しかもその内容は、原作よりもコンパクトでキレもいい。うまいアレンジだと感心した。

<第一部>では藤原伯爵を名乗る詐欺師(ハ・ジョンウ)が、スラム育ちの少女スッキ(キム・テリ)に、ある計画を持ち掛ける。
人里離れた土地に建つ大屋敷で日本文化(それもエロ小説)に傾倒した支配的な叔父・上月(チョ・ジヌン)と暮らす令嬢・秀子(キム・ミニ)を誘惑し結婚の末、彼女の相続する財産を詐取しようという計画。
その後に秀子を精神病院に入れてしまう算段で、スッキは珠子という名で秀子のメイドとして屋敷に入り込む。

キム・テリとキム・ミニ
秀子を騙す目的で近づく珠子だが、純粋な心と美しさの秀子に次第に魅了されていく。そんな自分の心の揺らぎを気にしながら、珠子は藤原伯爵の計画に加担し、ついに二人を韓国から日本に駆け落ちさせる。
オーディションを勝ち抜いて本作で長編映画デビューのキム・テリのフレッシュさもよいが、ここはうぶなお嬢さまが似合うキム・ミニが圧巻。本作では大胆な濡れ場にも挑戦。
数あるホン・サンス監督作品の出演と違い、キム・ミニは松嶋菜々子に見えて仕方がなかった。日本語喋ってるせいかな。
韓国人俳優たちがみな日本語台詞を話していて、語りは流暢で十分に聞き取れるのだが、それでも微妙に違和感はある(勿論その前に、あれだけ話せるようになる努力には敬服するが)。
会話相手が日本人ならまだしも、みんな韓国人だからどうにも妙な感じは否めない。
だが、考えてみれば、珠子や藤原伯爵だけでなく、上月も秀子もみな、日本人になりすましている者たちなので、この違和感こそがリアリティなのだ。
それに、日本人女優だったら、あの赤面するエロ台詞はなかなか言えないか。

今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見・未読の方はご留意ください。
まずは第一部の最後を見逃すな
<第一部>の最後、秀子を精神病院に収容させ計画を完遂させる場面で、なぜか医者や屈強な看護師たちは珠子の身体を捕まえる。
これは人違いではなく、藤原伯爵と秀子が結託し、珠子こそが令嬢だと医師たちに信じ込ませたのだ(日本人医師が足立智充だった!)

そこで秀子が侍女のフリで「おらは秀子お嬢様のことが…」と訛って喋りだすところは見事だった。
◇
<第二部>ではその秀子の生い立ちが語られる。
彼女もまた令嬢などではなく、幼い頃に預けられた上月のもとで厳しく体罰を受けながら、エロ小説を官能的に読める朗読者として成長し、競売会に参加する男たちを虜にしていくのであった。
<第一部>では珠子の目線で語られた屋敷での出来事が、ここでは秀子の目線で語られる。
そしていつの間にか惹かれ合うようになった二人の女性が裸でもつれあう。百合の花瓶が置いてあったのは笑。ちなみに製作はモホフィルムなのね。

原作より切れ味よい<第三部>
さて、驚いたのは<第二部>の最後。首つり自殺をしようとした秀子を助けた珠子が、自分と藤原伯爵の画策していた計画を白状すると、一方の秀子も、騙し討ちしようとしていた計画を明かすのだ。
こうして令嬢と侍女は手を組む。ここからは原作とかけ離れた展開となる。
<第三部>では、珠子を病院に入れた藤原伯爵が、改めて秀子と再婚しようと言い出す。だが秀子はすでに珠子と共謀しており、精神病棟に火を付けて珠子を救出する。
一方、秀子にアヘンで眠らされた藤原伯爵は上月に捕まり、拷問を受ける。藤原の指を一本ずつ切り落としながら、藤原と秀子の初夜話を聞かせろとせがむ上月のおぞましさが凄まじい。
結局藤原は、毒入り煙草のケムリで上月を道連れに自害する。秀子は男装し珠子を連れて逃亡し、二人は晴れて結ばれる。
上月といい藤原といい、男はどこまでも愚かでおぞましく、そして女は魅惑的で賢いことがよく分かる。キム・ミニとキム・テリは、顔かたちも胸の小ささも、まるで双子のようによく似ている。
それにしても、こんな変態世界を撮っているのに、なんで美しく見えてしまうのか。パク・チャヌク、恐るべし。
